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死んでるはずの令嬢に転生したので、悪役令嬢として生贄になります  作者: 椿 柚柑
第二章 広がる

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26 初めての遠出



「定期連絡を欠かさぬこと、二人の宝剣士と離れぬこと、事前に決めた場所以外に立ち寄る際はジュピウムや護衛に相談の上許可を得てからにすること。何かあればすぐに王都に戻ること。以上を必ず守るのであれば許可しよう。」



「ありがとうございます、陛下」



 ジュピウム大公が同行する、ということでリーヴァー領への訪問はあっさりと通った。陛下は一切咎めなかった。大公がうまく話をつけてあげると言ってた通りになった。あまりにあっさりで拍子抜けしちゃったくらい。


 サフィリス、シトラインの二人と絶対に離れないことや、使い魔を普通の犬のように扱うことなども決められたけど、事前に申請していた魔法訓練施設にも、ヒロインが関わっていると思われる教会にも行くことが許された。訓練施設はいくらでも理由づけが出来たからよかったけど、教会のほうが許されたのは大きかった。

 その教会は孤児の保護施設として他の教会施設に比べるとかなり活発に活動していてたので、自領の参考にしたいと付け加えたことが功を奏した感じ。これはサフィリスが希望してるって話にしてもらった。


 フィガロが当主を引き継ぐとはいえ、サフィリスもロバイト公爵家の人間であることには変わりがないからね。

 シトラインも次期当主だし、自分の領地をよくするために他の領にお忍び旅行するのは結構ある話。



 ただ、特定の誰かに会うということは許されなかった。大公の視察に同行するというのが表向きの形になったから。

 


 私たちは魔力が多い上位貴族の子息令嬢。将来通いたいと考えている訓練施設を見学したいと希望して、安全のため身分を隠して大公の視察に同行させてもらっている、という設定。

 だから私が会いたい人に会うことはできない。



 まあ、いきなりヒロインに突撃するつもりはなかったんだけど、顔見知り程度にはなっておきたかったし、来栖なのかどうかを確定させたかったという気持ちもあるけど・・・この辺りは仕方ない。


 一度で何もかも終える必要はない。今回は『リーヴァー領に行っても問題はなかった』という事実を作るほうが大事。


 また行かざるを得ないような理由を作れたら一番いいけれど、それが出来なくても遠出をしても問題ないという事実を今作っておくことが今後に役立つはずだから。




 あっさり許可が下りたことで一緒に陛下に謁見しているパパの顔色は青を通り越して土気色になっている。


 すっごい嫌がってたもんなぁ・・・ごめんねパパ。




「ところでアリア」


 一通り注意事項などを説明を受けたあと、陛下がじっとこちらを見つめてきた。


「なんでしょうか、陛下」


「体の不調などはないと聞いているが、何故魔法訓練施設などに興味を持った?ロバイト家で受けられる教育は訓練施設よりも高度なもののはずだ。魔力過多になっているということではあるまい。」



「私のためにというよりは、シトラインのような魔力過多の子どもたちに活かせることがあるのではないかと思ったのです。特に女性は貴族であっても学ぶのが難しいこともありますから。」



 この国には男女差別はそこまでないのだけれど、平民や古い貴族家では女児が魔法を学ぶことに否定的な考えを持つ人も多い。学問は良いけど魔法は生活に使うくらいで充分、それ以上ははしたない、って考える人がすごく多い。


 男児であれば魔力過多気味でも消費するための訓練を幼少期から受けられるんだけどね。

 シトラインほどだとちょっと例外だけど、幼少期の魔法暴走を起こしやすいのって実は女の子のほうが多いってのをギルベルトさんから聞いている。

 魔法を訓練しないと、使わずに溜まっていく。少しでも消費することが出来ていれば防げるのに、淑女教育に傾きすぎて魔法までカバーしきれてない、ってことも多い。



 私は生贄だということを公表されてない。

 知ってるのは前宝剣士と現宝剣士の人たち。そして王妃様もご存じだと聞いてる。


 つまりそれ以外の貴族から見たら、私は公爵家に生まれた魔力の多い令嬢。

 公爵令嬢ってだけでかなり注目される。なんたって宝剣士がいる五家には女児はほぼ生まれないから。ほかにも公爵家はあるけど、数は多くないしね。


 更にパパについて城にかなり出入りしてる。

 そんな注目株の私が、魔力訓練に熱心だという話が広まったら、貴族たちの意識も変わると思う。



 前の世界と違ってテレビやネットはないこの世界では流行の最先端って貴族なんだよね。

 その中でもかなり注目されてる私の行動で今後の令嬢たちやその両親の考えが大きく変わることはおかしな話じゃない。


 私が生贄になった後、この国を守るという意味でも女性の魔法技能の向上は必須だからね。

 




「ふむ・・・そうか」



 陛下はそうつぶやき、下がってよいといった。



 


「アリアがそんなことを考えてたとはな・・・」


 帰り道の馬車の中、パパはそうつぶやいた。

 陛下と似たような表情をして似たような雰囲気を醸し出してた。


 苦いものを食べた時みたいな、そんな顔。



「お城に来るようになって、自分が注目されてることはわかってましたもの」



「そうか、そうだったんだな。」


「パパ?」



「いや、なんでもないんだ。」


 パパはふわっと優しく私の頭を撫でた。

 隣で寝ていたデューがその様子をものすごく優しい目で見てる。


 パパの目は少しうるんでいた。




(私が生贄になる未来を受け入れるまで、あと九年しかないのは短いんだな)



 優しいパパの手を感じながら、涙が出そうな気分になった。






「姉上は何を企んでるんですか?」


「企んでるって、ものすごく悪い言い方じゃない?」



 家に帰るとサフィリスが膨れてた。

 一緒に遠出することには納得してても、私がほんとの理由を言ってないことにうすうす気づいてるのはわかってる。



「・・・僕には言えませんか?」


「んー・・・」



 私に残っている時間を考えると、協力者が欲しい。来栖以外で、できたら宝剣士の中に。

 それにはサフィリスが一番最適なのはわかってる。

 つまり、虹シュバのこととかを話そうかなって思ってはいるんだけどね・・・でも今じゃない。



 ヒロインに会ったときのサフィリスとシトラインの反応次第だと思ってる。


 


 虹シュバは、来栖が作ったこの世界の原本のようなもの。


 神様はそれを参考にこの世界を作り直してる。



 あの話の中で、彼らは吸い寄せられるようにヒロインに惹かれ恋をする。

 結ばれるのは第二王子ベリルだったけど、誰しもが同じようにヒロインを愛した。



 私はこの世界でも同じようにヒロインに恋する可能性がものすごく高いと思ってる。


 だけどもし先にその恋心が強制力という見えない力によるものだと聞かされてしまってたら、芽生えるものも芽生えないかもしれない。


 恋するってそんな単純じゃないかもしれないけどね。

 


 もしサフィリスがヒロインに何の反応も示さなかったら、その時は話そうと思ってる。



「もう少しだけ時間をくれない?」


「それは僕が頼りないからですか」


「違うの。私の気持ちが整理できないからよ」



 サフィリスの手を取る。サフィリスは怒ったような泣きそうなような、微妙な顔つきをしてる。


「・・・姉上はずるいです。」


「そうよ、だって姉だもの」


「そうですね・・・姉、ですもんね」


 サフィリスのスカイブルーの瞳には涙が浮かんでる。



「信用してもらえるように頑張ります」


「だから、信用してないわけじゃないのよ。頼りにしてるもの」


「全然ですよ、全然足りません。もっと頼ってください。」


 そろそろお茶の時間、最近はフィガロも一緒にお茶することが多いから私もサフィリスも楽しみにしてる。

 だからサフィリスの手を引いて温室に行こうとしたのに、あっさり手を振り払われた。


 そしてエスコートするようにサフィリスのほうから手を出してきた。



「ふふ、ありがとう、サフィー」


 久しぶりにそう呼ぶと、サフィリスは少しだけ暗い顔で、でも嬉しそうに笑った。






 近頃、みんな微妙な顔つきをする。

 パパもサフィリスも、シトラインも、ギルベルトさんも。


 そして、大公も陛下も、ルチルも。



 その目の意味を私は気づかないふりをしてる。


 答えることが出来ないなら、その部分に触れるべきではないと考えているから。



 その役目はヒロインのものだから。








「ようこそいらっしゃいました!」


 数週間後、ついに私はリーヴァー領に足を踏み入れた。


 数日かけてまずは魔法訓練施設に到着した。教会は帰りに寄る形。



 迎えてくれたのは、リーヴァー侯爵だった。訓練施設自体を管理しているのは魔法省だけれど、リーヴァー侯爵が所長であり実質の運営管理者。魔法省のかなり上位の地位にいるけれど、王都にある魔法省には時折足を運ぶ程度で基本的には訓練と魔法研究のため領に籠っていると聞いてる。

 この辺りは事前のデューによる調査でも実際にそうだってことが確認できてる。



 侯爵はものすごくにこやかに、大公とお忍び同行の私たちを迎えてくれた。


 大公はものすごく特殊な地位の人。王族ではなくなっているが普通の貴族でもない。子どもを作ることもない。大公という爵位は次にルチルが付くけれど、ジュピウム大公の爵位を譲るのではなく、一人一人に授けられるもの。


 領地なし、だから税金もなし。この世界は領地に対して税金がかかるからね。

 政治的権力もない、ということになってる。



 だけど実際には王兄だし陛下との仲も良い。その大公が視察ともなれば気合が入るのも頷ける。それに、私が考えている女性貴族への魔法教育の向上について侯爵も同じことを考えているから、私に対してもかなり優しく気遣ってくれてるのがよくわかる。

 私の立場を知らなくても、大公と一緒に来るくらいの人物だから、貴族の中に新しい風を吹かせることにつながるんじゃないかな、と考えてるかもしれないし、単純に嬉しいのかもしれない。


 見渡しても、あまり女性の姿はない。時折見かけると私に手を振ってくれたりするので女の子はかなり歓迎される環境らしい。居心地悪そうにしてる人もいないし、男性とそん色ない内容を学んだり訓練してるように見えた。

 



 一つ一つの施設を手短に、でもわかりやすく説明しながら案内してくれる侯爵は、頭がいいだけじゃなくて魔法に関することに対してものすごく高い意欲と知識を持っていることがよくわかる。

 あんまり乗り気じゃなかったサフィリスもかなり楽しそうにしてるし、シトラインは施設のことは知ってたけど予想以上の内容だったらしくかなりわくわくしてる。


 ちょっと神経質そうではあるんだけど、人がよく優しそうな笑顔を浮かべているその人をみると、事前に調べた内容を思い出して気が遠くなる。





(この人が、詐欺集団に騙されて魔法省の機密漏洩してるなんて、信じたくないなぁ)


 デューの事前調査に間違いがないのはわかってるんだけど、やっぱりちょっと信じたくなかった。



当分一日おきのお昼に更新します。

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