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死んでるはずの令嬢に転生したので、悪役令嬢として生贄になります  作者: 椿 柚柑
第二章 広がる

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24 面影

引き続きヒロイン視点です。今回でいったん終了です。

次回からはアリア視点に戻ります。

二章はアリアとヒロインと視点の交代が多いです(他の人の視点もあります)



 迷ったのは一瞬だった。




 そのあと私は部屋を出た。そっと、気づかれないように、お母様の部屋の鍵を持って。


 




 多分助けなくてもいい。むしろ助けようとするよりも自分をうまく逃がすことを考えたほうがいい。

 でもそれでも、置いて逃げることが出来なかった。



 いい人ぶるというよりも、人を見捨てて逃げる自分に戻るのが嫌だった。






 気づかれないように階段を上がることはできた。まだ火の手が上がっているような雰囲気はないけれど、私の部屋がある二階には誰もいなかったみたい。

 ところどころ血だまりが出来ていて、すごく怖い。そして悲しくて倒れそうだったけど必死に踏ん張った。



 いつもお世話してくれてたメイド、教会に付き合ってくれていた専属侍女も切り殺されていた。

 頭と体が別々になっていた。


 


 ごめんなさい、助けられなかった。埋めてあげることもできない・・・

 前世は火葬があったけれど、ここにはない。土葬するのが当たり前で焼かれるのは犯罪者だけ。


 かわいそうだけれど、でもどうしようもない。



 三階も誰もいないみたい。一階に足音や人の声がしていたからきっと下で着けるつもり何だと思う。

 そっとそっと、足音を立てないように移動する。


 お母様の部屋の前にくると、お母様についている侍女の死体があった。

 ドアは開いていない。物音もしなかった。





 そっと鍵を使う。手が震えてうまく鍵穴に入らない。カチャカチャと金属が当たる音が響いた。


 息を整え、何とか開けると、思った以上に大きな音が出てドアが開いた。




「おい、誰だお前!」



 物陰にまだ人がいた!慌てて部屋の中に入り鍵をかけ魔法でさらに閉める。

 ドン!ドン!と大きな音が響く。


「開けろ!おい!」


 知らない人の声。


 でも扉を開けることはできないみたい。ずっとドアを殴るように叩いてる、けどそれだけ。


 心臓がバクバクする。

 怖い。



 怖いけどそのまま放っておいてお母様の寝室に向かうと、薬で眠らされたというのは本当らしくすやすやと眠っていた。

 目覚めるような魔法がわからなかったので、浄化魔法をかけた。薬が効きすぎてるならこれでいけるはず。


「・・・あら、ソフィア?どうしたの?」


 目が覚めたお母様はいつも通りのんびりにこやかだった。


「何か変な人がいっぱいいて、みんな殺されてて、執事が屋敷を燃やすって!!」


 自分でも思った以上にパニックになってたみたい。

 訳が分かんない説明をくりかえしちゃう。



 ドン!ドン!という響く音がしているけれどお母様は気にしてない。


「あらあら・・・ソフィアったら嫌な夢でも見たの?」


「夢じゃない!お母様この音聞こえないの?ドアを破ろうとしてるのよ!」


「え~・・・あら、本当ね?誰かしらこんな夜中に。」


 お母様はベッドから降りてドアのほうに向かおうとする。


「だめ、危ないわ!逃げることを考えないと!!」


「大丈夫、このお屋敷に悪い人は入れないのよ?」


「開けちゃだめ、お母様!!」


 止めようとするけど聞いてくれず、カチャリとドアの鍵を開ける。

 魔法がまだかかっているけど、外から開けられないようにするものだから、内側から開けるなら意味がない。


「やめてお母様!」


「ソフィーは心配性ねぇ。ドアを叩いているのはどなた?」


 そういって、ドアが少し開かれた瞬間太い指ががっとドアをつかんだ。


「は!貴族ってのはバカなのか?自分が死ぬかもしれねぇって思いつきもしてねぇのか!」


「え?」


 思い切りドアが開かれ、続いて銀色の光が斜めに滑った。


「・・・あ、あ・・」


 そして、赤い何かが噴き出す。


「お母様!!」


 今ならまだ、回復魔法で間に合うかもしれない。

 でもそれをかける暇がある?


「お嬢ちゃん、ママを一人で死なせたらかわいそうだろ?一緒にあの世にいこうか」


「いや!出てって!」


 手をかざしてバリアのようなものを展開する。空気の塊の層を作って押し出す魔法。

 でも慌てていて、なかなか力がこめられない。近づかれないし剣が当たらない程度の距離は稼いでるけど、時間の問題かも。



 お母様を何とか引きずりながらバリアを展開し続け、奥の寝室に向かう。


 お母様を切った男はニヤニヤしながらついてくる。


「どうせ燃えるんだぜ?切られて死んだほうが苦しくないかもしれねぇのにいいのか?」


「うるさい!うるさいうるさいうるさい!!!!」


 

 お母様を寝室に入れて何とかドアを閉め鍵をかける。でも、開けられないようにする魔法をかけることが出来ない。

 バリアを展開している状態でほかの魔法が使えないから。



 仕方なくバリアでドアを守るような距離に居座る。屋敷を燃やすならそろそろあいつは出ていかないといけないと思う。

 

 お母様に回復魔法をかけることもできない。まだ息はあるけどかなり大量に出血していて目もうつろになっている。

 このままだとすぐに死んでしまうと思う。




(せっかく、せっかく転生してきたのに!何百年もの間クルスを繰り返しつづけて、異世界にまで行って、やっと、やっと、やっと!!やっと私が主人公になれたはずだったのに!こんなところで死ぬなんて嫌!!!)



 ガス、ガスっと抜けたような音がする。バリアを叩いている。空気の層だから跳ね返るんだけど、剣で切り続けられるといつまで耐えられるかわかんない。 


 どうしよう、どうしよう。


「おい、何やってんだ、そろそろ下に行かないと巻き込まれるぞ。」


 誰かもう一人来たみたい。

 さっきも執事と誰かが二人一組で動いていたから、そうしているのかも。



「あー生き残りだよ、ここの奥様と、娘じゃねーかな。大人のほうは切ったんだけど、娘が立てこもっててよぉ」


「死にかけとガキか?ならほっとけ、どうせ死ぬだろ。」


「まあいいんだけどよぉ。貴族のガキを殺すなんてなかなか出来ねぇから楽しんでおきたいのよ」


 背筋に冷たいものが走る。

 口封じとかそういうことじゃない、ただ殺したいやつがドアの向こうにいる。


 集中力を切らしたら、すぐに切り殺してくる位置にいる。


「お前ガキ殺すの好きだもんなぁ。まぁまた奴隷買えばいいだろ」


「奴隷と貴族はぜんっぜん違うんだよ。なんつーか諦めた目をしてなくて、偉そうで、自分がこれから殺されるってんのに、私の言うことを聞きなさい!なんていうんだよ・・・興奮するだろ?」


 気持ち悪い会話が繰り広げられてる。しかもなんか妙に弾んでる。

 


 楽しそう、そんな感じ。

 まるで本の感想を言い合うような、そんな気安い雰囲気で、私をどうするのか相談してる。



「そのお嬢ちゃんって可愛いのか?」


「あーかなり可愛いんじゃねぇの?お前そういう趣味だっけ。」


「まぁな。殺すより犯すほうが楽しいだろ?」


「いーや、俺は殺したいね。ヤルならやっぱ大人が良いだろ。泣き喚くガキじゃ萎える」


「それがいいんじゃねぇか。お嬢ちゃん、この壁作るのやめて俺らと仲良くしよーぜ?気持ちよくしてやるよ?」



 ギャハハハと下卑た笑い声がこだまする。

 その間もずっとバリアを殴り続けてる。



 頭がガンガンしてくる。

 息を吸い込むと鉄のにおいが強くする。



 隣で血まみれのお母様。


 叩かれて壊れかけているバリア。



 どうしよう・・・どうしたらいいの。





「いい加減開けろや!!クソガキ!!」


 ドン!と思い切りバリアが叩かれて、その瞬間緊張の糸がぷつんと切れてしまった。


 慌ててドアを閉めるために魔法を、と思ったときにはもうドアはノブごと壊されていた。



 ゆっくり、ゆっくり、ドアが開いていくように感じる。




 いくつかの生で、殺された記憶が・・・よみがえって・・・




「お、本当に可愛いじゃねーか。殺さず持って帰るわ」


「せっかくなのになー。しゃーねえ、捨てる時は俺にくれよ?あと、騒がれねーように目と口を潰しとけ。」


「それじゃつまらねーけど、まあいっか。じゃ・・・」



 男の指が私に触れそうになる。





 もう、だめかも。


 ぎゅっと目をつむった。








 ザシュ。


「ぐあ、が・・・何だおめぇ・・・ら・・・」



 何かか空を切り裂いたような音が小さく鳴って、お母様を切り捨てたやつが膝をついて倒れた。


 続いて私に手を伸ばそうとしてきた男も、シュッと何か音がしたかと思うとぐらりと体を揺らし、倒れた。



「え・・・なに・・・」



 男たちの背後に小さな人影が一つ、そしてもう一つ動物のような影が雪明りでうっすら明るい外からのほのかな光で照らされて見えた。



 

「えーと、()()、久しぶりね?」



「・・・あんた、だれ・・・」



 小さな人影が近づきながら私を”クルス”と呼んだ。


 その名前をなぜ知ってるの。



 私には確かにミドルネームが、クルスと名付けられてる。だけど・・・名付けたはずの両親ですらその存在を忘れて、誰一人それで呼ぶこともついていることすら忘れてる。


 私自身も名乗ったことがない。



 誰なの、こいつ・・・。




「んー・・・死んでるはずのアリア、って言ったらわかる?」



 近づいてくるとその顔がはっきりと見えてきた。

 

 少し吊り上がった涼し気な目に長いまつげ。つんとしてる小さな鼻。

 こんな顔の人間は、虹シュバには出てこなかった。



 でも、私は知ってる。

 この顔の人間を。





「あんた・・・()()でしょ、なんでここにいるの・・・?」



 来栖として世界を作り替える手伝いをしていた時に、一番大事にした存在。


 日野瀬有亜、に瓜二つの少女がそこにいた。




「・・・さすが来栖、よく見てるんだね、分かると思わなかった。」


 少女は困惑しながらおかしそうに笑った。





 

続きは明日のお昼の予定です

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