22 作り上げた幸せな毎日
引き続きヒロイン視点です。
以前は廃れ忘れられた家。
歴史に葬り去られた家。
それが、リーヴァーという家だった。
「お父様、お母様。おはようございます。」
「おはようソフィー。よく眠れたか?」
「はい。」
ソフィアになって八年。
この八年は本当に本当に幸せで胸がいっぱいだった。
ボロボロになって死んだ両親が健康な姿で生きていることも、幸せそうに笑っていることもすごく嬉しい。
それに、侯爵としての立場が復活していることも、濡れ衣だったリーヴァー家の暗い過去自体がそもそもなくなっていること。
嬉しくて、嬉しくて、たまらない。
自意識が芽生え転生してきたことがわかった後は何度も怖くて泣いた。夢なんじゃないかって。
でも神様はちゃんと、約束を守ってくれた。
「やあソフィー。」
「お兄様、今日はゆっくりしてらしてよろしいの?」
「ははは、たまには可愛い妹と一緒に朝食を食べてもいいだろ?」
以前のこの世界での私の記憶にはいない兄もいて、とても仲がいい。兄妹というものに憧れていたからすごく嬉しい。
少し年が離れていて、すでに魔法学園に通う生徒であり、朝一緒になることは珍しい。
魔法の名手であり古代魔術研究者としても有名なリーヴァー家のその名の通り、兄もまた素晴らしい魔法の才能を持っている。
私も、それを凌ぐ才能を持っているが、まだそれは明かせない。
(そろそろ、魔王の封印が危ういという噂が流れ始めるから、それから、ね)
「お兄様と一緒で嬉しいです」
「ソフィーはほんと可愛いなぁ。じゃあ頂こうか。」
「はい!」
私が書いた小説では、ヒロインのソフィア・リーヴァーは平民だった。孤児だったので、両親も兄もいなかった。
でも、神様との約束で家の復興がなされていて、生まれた時から侯爵の家であり、歴史から葬り去られた”悪しき血”リーヴァー家はその忌々しい二つ名を付けられることなく存在し続けている。
以前は食べることが出来なかった美味しい食事、あり得なかった紅茶の時間、働かず勉強することも出来る、綺麗な服を着られる、世話する側ではなくお世話される側の生活。
暖かなベッド、優しい家族、平和で幸せな時間が毎日続いている。
嬉しい。嬉しくて毎日毎日にこにこ笑って過ごしてる。こんなこと以前は一度もなかった。
以前の繰り返す生は痛々しく苦しいものが多かったし、永遠ともいえる長い時間、少しずつ違うものの苦しみばかりを経験し続けるのもつらかった。
それでも神様に頼まれて世界を作り替える手伝いをすれば、クルスとして生きたあの地獄を無駄にしなくていいのだと分かって胸が躍った。
以前は殺しも殺されもした。あまり、思い出したくないけれど、それでも今があるのなら十分癒される。
血を吐くほど欲しかった優しい家族、安心して過ごせる家、明日を不安に生きなくていい安定した生活。全て手に入った。
あとは救世の乙女として発見され、王子と恋に落ちるだけ。心から楽しみにしている。
以前は男との付き合いなど、体の関係くらいしかなかった。優しくされるのは下半身を求められているから。そういう経験しかない。
でも、これから私が経験するのは恋愛。家族以外に好かれるってどんな感じなんだろう、溺愛されるのってどれくらい嬉しいんだろう、守られるってどれほどときめくんだろう。
楽しみすぎて、ドキドキする。何度も生きたからもう精神年齢はおばあちゃんを通り越してるはずだけど、体と同じで心も子どもに戻ったみたい。
王子様の絵本を読んだだけで胸がいっぱいになっちゃうくらいに。
(ほんとに楽しみ・・・ゲームだけじゃなくって小説だって殆どヒロインの一人勝ちみたいな感じだったし・・・。ほんとにそうなったらどうしよう!ハーレムルートだってあったし、そうなることもあるよね?うわーーー楽しみー!)
ドキドキして、いつもそのことを考えちゃう。
でもまだ出会うまでは時間がかかると思う。
私が書いたストーリー通りなら、十五歳で入学する直前、救世の乙女として王城に招かれるときに初めて出会う。だからあと七年くらいある。
だけど、私は平民じゃなくて貴族。しかも侯爵ってだいぶ地位が高い。
だからもっともっと早く出会う可能性がある。
いつであってもいいように、マナーと身だしなみにはものすごく気を使ってる。あと、綺麗でかわいくいられるように。
ただ、心がけなくても有亜が描いた通り私はとてもとても美少女。ぱっちりした睫毛の長いくりくりの瞳はエメラルドみたいに輝いていて、髪の毛はピンクベージュでふわふわしてる。美少女ってキレイ系と可愛い系がいると思うけど、私は完全に後者。どこからどう見ても可愛い。アイドルみたい。
多分何にもしなくったって、彼らは私に恋に落ちるんじゃないかなって思う。だってどう見ても私、可愛いもの。
貴族の令嬢たちに何人か会ったけど、私ほどの子はいなかった。
再現力すさまじい。
有亜が描いた女の子たち、ほかにもいたけど・・・ヒロインはやっぱり一番可愛く描いてもらったから、私以上はいないのかもしれない。
でも、マナーだけは見た目の可愛さじゃカバーできない。ドンくさい子が可愛いってのはこの世界ではあまり通用しない。ちょこっとならいいエッセンスってなるかもしれないけど、礼儀知らずで淑女らしからぬ行動する女の子はどんなに可愛くても相手にされることはない。
だから、マナーの授業はものすごく真剣にやってるし、ダンスも頑張ってる。
早く会いたい。
特に、メインヒーローでもあり私のお目当て・・・というとなんか下品だけど、一番会いたい人、第二王子のベリル殿下に、早く会って恋愛が始まってほしい。
以前この世界を生きていた時は、今のソフィアよりも年上だった。二十歳くらいかな。。クルスとして同じ人格でいろんな場所で働く人生を経験したけど、どんな時も学園には行けず子供のころからずーっと働きっぱなしだった。
魔法の才能があったのに、リーヴァー家の血を引くという理由だけで学園には通えなかった。平民として働くしか許されていなくてとても悔しかった。
貴族の屋敷のメイド、教会のシスター、食堂や服飾店の下働き、時には娼館。
その中で、王城で働いた人生もあった。
その時見かけた美しい人、現国王陛下のキュベル様に私は恋をした。
もちろん、片思い。ただただお慕い申していた、それだけ。
でも、見つめているうちにだんだん腹が立った。リーヴァー家の暗い過去って冤罪だと聞かされている。王家の陰謀により、覚えない罪で悪しき血という名前を付けられた。二度と表舞台に立てず、リーヴァー家というのを隠しても、絶対にばれてしまう。
徹底的に排除された。その原因は、王家。キュベル様の先祖。
あなたたちに虐げられてしまった私。なら、少しぐらい、少しぐらいいい思いをさせてくれっていいじゃない!
そう思ってキュベル様の寝所に忍び込もうとして、見つかって犯罪者になったこともあった。ちょっと短絡的すぎたなと今は思ってる。
でも仕方なったなって思う。あの頃は毎回自分を生き直すのに一度もうまく行かないし、魔王復活で世界は滅んじゃうし、未来が黒で塗りつぶされているのが当たり前だと思っていたから。
世界を創り直すために恋愛小説を書こう、と思ったとき、相手を誰にするかと考えてすぐに浮かんだのが、キュベル様にそっくりなベリル殿下だった。
陛下と同じ金髪に、緑がかった銀色の瞳。ほんの少しだけ見かけた限りだけど、ベリル殿下は王子さまって感じの王子だった。
キラキラしてて可愛くてかっこよくて、ちょっと俺様な発言をする時もあって。努力家で家族思いでもあった。素敵な子供。
作り直せるのは私が生きたことのある範囲だと言われたけど、その期間であれば私が転生する先の人物がちょっと若くても大丈夫だと思って、ベリル殿下と同じ年になるようにした。
救世の乙女としてベリル殿下と出会い、恋に落ちる。恋愛を通じて成長しながら、最後には二人協力して魔王の脅威からこの世界を守る。
魔王の脅威から世界を救った文字通り救世の乙女は、平民でありながら殿下と結婚する。
最高のシチュエーション。ベタだけどね。
今は侯爵家っていう高い身分もあるから、より確実性が増していると思う。
恋愛が始まるその日を夢見て、今日も勉強を頑張ることにした。
マナーもだけど、お馬鹿じゃ殿下の婚約者は務まらないものね。いずれは国母になるのだから。
「お嬢様。今月の教会訪問はいつにいたしましょう?」
「あら、もうそんなタイミング?」
教会訪問。いわゆるボランティア。教会では貧しい子供たちを保護しているんだけど、小説では私はその教会で保護されながら年下の子供たちの面倒を見ていた。
ボランティアは正直面倒くさくって、出来ればやりたくない。でも、小説で私が過ごしていた教会とつながりがあるほうがストーリーになぞらえた物事が起こった時に何かと便利だと思って、毎月一回は必ず訪問し、子供の面倒を見たりバザーの準備を手伝ってる。
自分の家の領地のことだし、ボランティア活動は貴族の義務な部分もあるから、面倒でも続けていかないと。
「じゃあ、来週にしましょう。今回は不要になった本を持っていくのはどうかしら?」
「そうですね・・・子どもたちは読める者が少ないでしょうが、シスターたちが読み聞かせに使えるでしょうしとてもいい贈り物になると思いますわ。」
「そうよね。私はもう絵本は読まないし、分かりやすいものを持っていきましょう。」
忘れていたけれどこの国の平民の識字率は低い。教会で保護されてるような子供たちならなおさら。保護は出来ても教育するほどの余裕はないし、文字を読める重要性があまり知られていないのもある。孤児でなくても読めない子のほうが多いんじゃないかな。貴族は別にしてね。
異世界転生物の小説をいくつか読んだけれど、知識チートの一つで識字率向上が出てくることがちょくちょくあった。私もそれをしようかと思ってはいるんだけど、面倒くさくて手を付けていない。
黙っていても救世の乙女として功績をあげられるし、王族と結婚するのも問題ないだろうけれど、もう少し色を付けておきたいな~とも思う。
料理などもよくあるけど、私は苦手だったのでよくわからない。医療分野も詳しくないし、農作物系の知識もない。まあ会っても封印の加護も魔法もあるからあんまり意味がないかも。
あと、他に出来ることは、物語を書くことくらい。ただ、それを功績とするなら子供の教育に関して熱心にしていたほうがより効果的だなぁとも思う。
服飾関係も、あんまり自分を着飾ってこなかったから・・・うーん、ちょっともったいないことをしていたかも。
図書室に向かい、読まなくなった絵本をまとめていく。お父様たちに確認したら、自分から寄贈を考え付くなんてすばらしいとものすごく喜ばれた。お父様たちはほんとに優しい、ちょっと甘いくらいね。
でも、それを見て思うの。
私は両親に愛され心優しい少女として、確実にヒロインコースを歩んでる。
これできっと、世界はうまく行くって。
翌週、教会にいくと他の貴族がお忍びで来ているという話があった。
季節は秋の終わり。この地域は雪が降り積もるし王都からもそこそこ近い。馬車で三日くらい。他の雪が降る地域はもっともっとかかるので、観光地としても人気がある。
まだまだ高級宿や貴族向けの施設が少ないから、富裕層と言われる平民たちが遊びに来る場所って感じだけど。
だから今お忍びで来るには、ちょっと早くないかなって印象。
それに、この教会がある領都は殆ど降らない。観光に来るなら隣町がいい。よく積もって周りが平地で、銀世界を堪能しやすいから。
うーん、領主のうちに連絡せず教会に来るって、どういうことなんだろう。
私はまだ社交デビューもしてないしずっと領地にいるからどいういう対応をしたらいいのかわからない。
でもやっぱりいいイメージをつけたい。いずれ救世の乙女として注目される前に嫌なイメージをつけて起きたくない。
だからほんの少しだけ、いつもより熱心に、丁寧にする気持ちでボランティアに精を出そう。
そう思って絵本を寄贈し、拙いながら一番気に入っている絵本を子供たちに読み聞かせた。
お世辞にも上手とは言えなかったけど、一生懸命なのが良かったのか絵本が物珍しかったのか、子供たちにはすごく喜ばれた。
子供たちって言っても、私とほとんど年の変わらない子たちもいる。
そんな子たちに交じって、平民のように見えるけど綺麗な子供たちが三人いた。
貴族って、子供だったみたい。私と同じくらいの。
その子たちに挨拶をしようと思ったけれど、お忍びだったからか読み聞かせを終えて子供たちを話している間にいなくなっていた。
帽子をかぶっていたし丸眼鏡をかけたりして顔を隠していたから、有亜が描いたイラストと似てるかどうかを確認することもできなかった。
宝剣士たちはみんな公爵家と王家の人間だから、高貴な立場だしそっとお忍びでいらっしゃるとしても不思議じゃない気がした。
教会の二階から近くの通りを見渡した時、おそらくその子たちだと思う三人が地味に見せかけた馬車に乗り込んでるのが見えた。黒い大きな犬も一緒。
うーん、黒い犬って虹シュバに出てこなかったし、以前の記憶でも誰も飼っていなかったはず。
もしかして殿下かな?と思ったんだけど、違ってたみたい。
じゃあいったい誰だったんだろう?
続きは明日のお昼予定です。




