21 舞い戻る愛しい世界
二章スタート
「宝剣ってどんな感じ?」
ようやく見つけた私のための絵描きは細かいところまでよく確認してくれる。ありがたい。勝手に変なイメージを付け加えられたらとても困るから。
やっと、やっとここまで来たから、せっかく作った世界観を壊したくない。
私がやることは、あの世界の新しい道筋をたくさんの人に認識させること。
それが今までになかった世界線を作ることになるんだと、神様は言っていた。
滅んでしまったあの世界。私が生きた、あの場所。
殆ど見たことあるもの、見たことある人を描かせているんだけど、それでもどうしても私も見たことがないものを描いてもらわないといけない時もある。
例えば、今聞かれた宝剣。こんな貴重なもの私は見たことがない。美しいということだけは聞いているけど、どう美しいのか知らない。
こういうものが他にもいくつかあって、聞かれても答えられなくてちょっとイライラしたりする。
説明不足のところは補填してくれたらいいのにと思う反面、勝手にやられたら困るから、イライラしても絶対に手抜きできない。
私のイメージ全てが重要だって言っていたから、神様は。
「これのトップにあるような剣なんだけど」
そろそろ宝剣のこと聞かれるだろうな、と昨日見つけておいたサイトのアドレスを送る。海外の美術館のホームページ。そこの国は私が昔生きていた国に雰囲気が似ていて、資料を探すときはよく利用してる。
時間があれば直接そこに取材旅行に行ってもよかったかもしれないけど、暇なんて一瞬もない。時間があるならあの世界を構築するための全てに目を通し、すべてを確認しないと。
神様の手伝いをしたら、私のために用意してくれる平和で望み通りの世界が待ってる。
本当の『虹のシュバリエ』が。
「宝飾品みたいな感じなのね。」
「そうそう。で、それぞれの色の宝石をちりばめて美しさを見るからに感じるようにしてほしい。宝の剣!って感じに。」
「なるほど・・・。刀自体はこれと似た感じでいいの?刃が銀色で持ち手のあたりが金色の感じで」
「ルチル殿下のだけ逆にして。あの人金がテーマだから、金の刃に銀の持ち手で・・・」
さらさら、と素案を書いていくその絵描きは、有亜という変わった名前をしてた。変わってるのは名前だけじゃない。肌が白く背が高く、骨格が西洋風であり腰の位置や手足の長さがこの国では異質に見える。最初会ったときはモデルでもしているのかと思った。
私の生きていた国の人たちもこんな感じの体つきだったな、と会うたびに思う。顔の作りもそう。あの国でもかなり美人なほうだけど。
有亜が描く絵も、あの国に生きていたんじゃないかと思うくらい、雰囲気というか、空気が同じ。無機物を描かせてもどことなくあの国を感じさせる。すごく不思議。
だから、一度だけ有亜も私と同じなんじゃないかとそれとなく聞いたけど、ものすごく呆けた顔をされた。おかしなやつだと思われたらしい。少し心外。
でも、あの世界のことを知ってなくてもいい。彼女の絵に出会えたことで私の計画が一気に進んだから本当に感謝してる。
完成したら、有亜にもあの世界を見せてあげたい。体験させてあげたい。
それが無理なのはわかってるけど、それでも彼女がいなかったらここまで作り上げることはできなかった。
「来栖?」
「あーごめん。そう、そんな感じで。宝石の位置を・・・」
有亜は私と出会うまでアマチュアだった。絵の仕事をしたかったらしいけど、そこまで情熱的でもなかった。
初めにこの絵が良いって言ったとき、出版社の担当はちょっと難色を示してた。私が全然うんと言わなかったから仕方ないって感じだったけど、本当ならもっと有名どころの人を使いたかったんだと思う。
でも、ダメなの。
有名どうかじゃない、あの国の、あの世界の、あの空気を出せる人じゃないと、ダメなの。
だから、有亜以外はあり得なかった。
かなりの時間拘束することになるので、専属契約で相棒のような形でやっていくことになった。有亜はちょっと怪しんでいたけど、大丈夫、悪いようにはしない。
一生分稼がせてあげる。もしだめでもいい、私があの世界に戻った後に私のお金が有亜に渡るようにちゃんと遺言書も書いておいたから、安心して。
でも、そうといっても彼女は新人だから何か話題性が欲しいと思ったこともあった。たくさんの人に認知される必要があったから。
ちょうどよく有亜は美人だから、顔出ししたら良いんじゃない?と思ったことがあった。ダサい恰好をしているのが本当にもったいないくらい、綺麗。
化粧もせず、髪はいつも一つで結ばれてるだけ。眼鏡が伊達だということは知っているけれど、わざわざかけるほどのお洒落さが全くない。
ただそれを本人に言う前に、私たちに脅迫状が届くようになった。最初は脅しで、だんだん殺人予告のようなものになった。虹シュバのストーリーに納得できないファンから。どうでもいいと思ったが、完成前に死ぬわけにいかない、有亜を失うのも困る。
だから私たちは念入りに顔バレや身バレがしないように気を使うことになり、顔出し案は発言する前に流れ、何度か引っ越しすることにもなった。
元々外に出ない私はそうも困らなかったけど、有亜はそうではないはず。恋愛もしたいだろうし、脅迫状のことだけでなくこんなに拘束する仕事をさせてることに申し訳なく思うこともあったけど、本人に聞いたらまったくもって一切気にしていなかった。
恋愛に興味のない美人、嫌味?と思ったけど、そうじゃないことが分かった。
彼女は人と親しく関わることを諦めている。
初めから何もないように。
まるで透明な箱の中からこの世界を生きてるみたいだった。
私と同じように。
だからかもしれない。
一緒にいるのはとても気楽だった。踏み込まなくていい。踏み込んでこない。ちょうどよい距離感。
それが気持ちいいと思うほど、諦めていることをもったいないと思うようになった。私じゃなくて、有亜ね。
見た目が美人ってだけじゃなくて、そのさっぱりとした性格がすごく良いなと思った。言うべきことは言い、間違いは素直に認める。嫌いなものは嫌い、好きなものは好き。
付き合い辛いとおもう人もいるかもしれないけど、私は好きだった。たぶん、こっちの世界で初めて、人に好感を持った。
でも、本当に友人になることはできないと分かっていた。有亜は友達を欲しがっていないし、私にはやることがある。そしてそれが終わったら死ぬのだから。
あちらに、戻るために。
それが、神様と交わした約束。
六年もかかって虹シュバ関連の仕事がすべてが終わって、何となくこれでもう大丈夫、だと感じた。神様からのサインがあると言っていたけれど、この感覚かなと思う。
新作が出せないことを有亜に謝ろうと思ったけれど、何かを言ってしまうと全部崩れてしまうような気がして。三日間くらい連絡無視して何というか考えてたけど、全然まとまらないからこのまま去ろうと思った。
そろそろ作られたはずの新しいあちらの世界に、戻ろうって。
そのためにはこの生を終えないといけない。
高層マンションから飛び降りるのもだいぶ迷惑な話だし、どうしたものかと考えていた頃。
ザクっと音がして腹に熱が走った。
「あんたが・・・あんたがルチル様を殺したのよ!!殺したのにゲームでは生き返らせるなんて意味が分からない!!」
定期で雇ってるハウスキーパーの会社から来た女がそこに立っていた。
あっちの世界でも殺された経験があるけど、世界が違っても苦しいのはそれと一緒。
痛くて、苦しくて、悲しいのも、一緒。
ああ・・・脅迫状、そういえばまた来ていたな。ネットに脅迫を書き込んだ人たちはだいぶ訴えて示談になってたけど、手紙だけをしつこく、様々な消印で送ってくる人が一人いて、その人をどうしたらいいか警察に何度か相談してたんだった。
それが、こいつか・・・執念深い。
でも、それくらい執念深い思いを抱く世界観を周知させられたのだという証拠にも感じた。
ああ、これが。サイン。
この女には説明できないけど、ルチル殿下のことは仕方なかった。人気があるのはわかってたけど、彼の体はもう限界だった。あそこで死ななくても、あとはもう長くなかった。
魔王をどうするのか、という部分は私が創作するしかない部分だったけれど、知っている情報をいくらつなぎ合わせても、どう頑張っても、ほかの方法が思いつかなかった。
殿下の生存ルートを乙女ゲームの中で作ったのは可能性の意味も込めて、私の願いでもあった。
それじゃ納得しなかったのか、ファンって難しい。
熱い場所に手を当てると、ぬくもりのある液体がだらだらと染み出して、手を伝い足を伝い、足元にたくさんの赤を広げていた。
「あんただけじゃ足りない!絵をかいたあいつも殺さなきゃ・・・」
「あ・・・ま、って・・・それは・・・」
走り出して行った女を追いかけようとしたけどもう、私はダメだった。
体が全く動かずその場に倒れこむ。
あったかいぬくもりだけがじわじわ広がって、何も見えなくなる。
有亜、ごめん。あんた関係ないのに。
意外とドンくさいやつだから、殺されちゃうかも。
そしたら、ごめんね。ほんと、ごめん。
もしも死んじゃったら。あんたもあの世界においでよ。ここに比べたらいろいろと古臭くて面倒だけど魔法もあるしいろんなものがあって面白いよ。
私が作り替えたからさ、色々さらに便利になってるんじゃないかな。
ヒロインの友達あたりに、転生しておいでよ。
間違っても、悪役令嬢になんて、ならないで・・・ね。
あんたとけんか、したくないし・・・
「よくやってくれた。」
真っ白い世界で神はそう言った。
「世界は新しい時間を進み始めている。長い間、本当に頑張ってくれた。ありがとう。」
黒い髪をさらりと揺らし、その隙間から紅い瞳が見えた。
「最初からのお前の望み通り、リーヴァー家の再興と、新たな生を授けよう。幸せに暮らせ。」
にやりと笑ったその顔は妖しく美しく、畏怖を感じさせるものだった。
私は、自分がやり遂げたのだと確信した。
そうして私は戻ってきた。クルスの生を何十回と繰り返した後、別世界に転生し来栖として神様の手伝いをして、またここに。
今度は私が私のために用意した人生、虹シュバのヒロイン、ソフィア・リーヴァーとして生きていく。
ソフィア・”クルス・”リーヴァーとして。
少しの間小説のヒロインのソフィア(来栖)視点となります。




