19 生贄のための宝剣士が揃った日
アリアの弟サフィリス視点となります。
前話から一年ほど経っています。
サフィリス・ロバイト
それが僕の名前。この前五歳になった。
三歳になったばかりの頃、同じ名前のまま僕は別の家の子になった。
お父さんのお兄さんのお家に引き取られたから。養子になった。
養子になるまではお父さんといっぱいケンカもしたし、捨てられたんだと思って悲しくていっぱいいっぱい泣いた。
だけど、今、僕はこの家に来たこと全然後悔してない。
寂しい日もあるけど、ここに来てよかった。
アリアちゃんに会ったから。
ひと月くらい誕生日が早いから、僕のお姉さんになったアリアちゃん。
初めてみたとき、すごくびっくりした。
絵本に出てくるお姫様みたいだった。お花の妖精みたいだった。
顔がちっちゃくて目がくりくりしてて、青くてきらきらでキレイだった。リボンまいた髪の毛もふわふわしてて、ふりふりしてる服もすごく似合ってて、すごくすごくかわいかった。
だからすごく困った。
僕はアリアちゃんと仲良くなりたかったから、いっぱいお話ししたいと思ってたのに可愛すぎて恥ずかしくなっちゃったから。
僕があんまり喋れなくてもアリアちゃんは気にしなくて、ずっと話しかけてくれて笑いかけてくれた。
一緒に本を読んで眠っちゃったとき、僕だけ先に起きたの。そしたらすっごい可愛い寝顔で、びっくりした。でもぐーぐー大きく寝息をたてて寝てて、あとヨダレもたれてて・・・それが何だかものすごくかわいくて、思わずチューしたくなった。
けど、メイドさんたちが見てたから我慢した。
その時だけじゃなくて、アリアちゃんをみてると、ほっぺとかおでことかにチュってしたくなる。毎日思う。エスコートさせてくれる時以外にも手をつなぎたいし、また一緒に寝たいなって思う。
そんなの変かなって思ってたけど、最近それは変なんじゃなくて、好きってことなんだってわかった。
姉弟だけど、大好き。
その好きが、お父さんやお母さんや去年産まれた双子の弟と妹、お義父様やお義母様に向けたものと違うってことは、もうわかってる。
僕はアリアちゃんが好き。
理由は一杯あるけど、誰にも言わない。秘密。可愛すぎて他の人がアリアちゃんを好きになったら困るから。
でももう、アリアちゃんのことを好きな人がいっぱいいて僕は最近気が気じゃなかったりする。
会った頃よりもっともっとアリアちゃんは可愛くなるし、会ったときよりドキドキするようになった。
お義父様にすぐばれるからあんまりじっと見ないようにしてるけど、でもつい目で追っちゃう。
アリアちゃんは僕のこと天使みたいって思ったっていってたけど、アリアちゃんのほうが天使だよ。
見た目も、気持ちも。ぜんぶ。
そのアリアちゃんが、生贄になることを僕は知ってる。
だから仲良くしたかったわけじゃないし、だから好きになったわけじゃない。だから優しくしたいわけでも、だからキスしたいわけでもない。
だけど、だからもっと一緒にいたいなっておもう。
僕は知ってる。
十七歳になった年の冬に、アリアちゃんが死んじゃう事。
お父さんにも、お義父様にも聞いた。
いつか、アリアちゃんがいなくなっちゃうこと。
いなくなるために、僕が宝剣士になった事。
アリアちゃんを生贄として殺すために、僕が必要だってこと。
大好きなアリアちゃん。
笑った顔も怒った顔も恥ずかしそうな顔も悲しそうな顔も、全部可愛い。
お義母様にいっぱい着替えさせられてるときちょっと疲れた顔するのも、もちろん可愛い。
可愛いねって言うと照れちゃうところとかも、可愛すぎる。
勉強頑張ったら褒めてくれる、こっそり練習してることを気づいて応援してくれたり、うまく行ったら真っ先におめでとうって言ってくれる。
お家に帰りたいと思って泣いた時に、撫でてくれたし抱きしめてくれた。
優しくて可愛いアリアちゃん。
僕の大事な人。
そのアリアちゃんに。
これから僕が受け継ぐ宝剣を向けなきゃいけない。
逃げられない。これは決まってること。お義父様は何度も何度もこのことを説明してくれて、一緒に悩もう、と言ってくれた。答えはないけど、逃げられないけど、決まっているけど、一緒に考えていこうって。
それが家族なんだって。
すごくうれしかったけど、でも・・・
それを考えると胸が痛くて痛くて仕方ないから、あんまり考えないようにしてきた。
だけど。もう、これかは、逃げていられないんだ。
「サフィリス、これからお前に宝剣を渡す。それによりお前は宝剣士となり、この国を守る存在となる。覚悟は良いか?」
「はい!」
僕と、お義父様と、そして他の宝剣を持つ人たちが集まって、宝剣譲渡の儀式が行われた。
お義父様のお腹から青く光る細長いレイピアのような形の剣が現れ、それを僕のお腹に刺す。
痛みはない、けど。
「ぐ・・・う・・・」
熱くて苦しい。魔力を一杯受け取った時みたいに、体中が熱くて心臓がドクドクする。
「耐えろサフィリス。一度取り込めば落ち着く」
「ぐ、は、は・・・い・・・」
ゆっくりゆっくり体に宝剣が取り込まれていく。
少し入るたびに体中が熱くて痛くて、壊れそう。
でも。
アリアちゃんと一緒にいるために。
最後の瞬間までずっと一緒にいるために。
「あと少しだ」
「は・・・はい!」
汗が止まらない、でも、あと少し。あと少し。
お義父様の手がお腹に当たった。
その瞬間、すっと痛みや熱さが消えた。刺さったお腹だけはじんじんしてるけど、体は急に楽になった。まだ胸はちょっとドキドキしてる。
「よく耐えた。偉かった。さすがわが息子だ」
ぽん、とお義父様の手が僕の肩に乗る。その手は震えていた。
「ありがとう、ございます。」
がくがくする膝に力を入れて、僕はその場でゆっくりと封印石に向き直り、丁寧に礼をした。
宝剣を渡すというのは体にものすごく負担がかかるって言っていた。
体に宿しているだけでもゆっくりと命を削っていくみたい。
もちろん受け取るのも大変だから、お義父様も僕も、へとへとだ。
宝剣士じゃなくなったお義父様はこの場を早く出なくてはいけないので、一足先に階段を下りていく。
見守る宝剣士の人たちも消耗するらしくて終わったらみんな少し汗をかいて疲れた顔をしてた。
僕は一人一人にお礼を伝える。
今の宝剣士は世代交代をしたばかりで、みんな僕と同じくらいの子供。一人だけ十歳のお兄さんがいて、あとは六歳と五歳ばっかり。
僕が一番最後の交代だった。あとは次世代に渡すまで今ここにいる七人で宝剣士として国を守るために封印の番人として、そして・・・
生贄を、殺す。
「おい」
金髪の子が話しかけてきた。第二王子のベリル殿下だ。
「お前、アリアという女の弟だろ。あの女のことを聞かせろ」
この王子はどうも失礼なやつらしい。
もう一人の王子、ルチル殿下が慌てて駆け寄ってきた。
「ベリルやめないか。サフィリス、すまない。ベリルはアリアちゃんのことが大好きで」
「兄上!そんな嘘を言うのはやめてください!」
いま、聞きたくない言葉が聞こえたきた。
アリアちゃんが大好きだと?
「姉上のことでお話しできることはありません。」
僕は殿下相手にケンカを売るような態度で返事した。
「なぜだ!お前たちは仲がいいとあの女が」
「大切な姉上をあの女と呼ぶ人に、お話ししたくありません」
あの女、なんて失礼なことをアリアちゃんに言うなんて、ベリル殿下は最低なやつだ。仲良くなんて絶対しないし、アリアちゃんのことを話すなんて絶対に絶対にしない。
「謝れ、ベリル。大切な人のこと悪く言われたら誰だって気分を害する。お前だってそうだろ」
「兄上!でも、あの女は生贄だと」
ダン!
祭壇近くの柱を思いっきり叩いた・・・のは、僕じゃなくて、うちに時々遊びに来るシトラインさんだった。
僕とアリアちゃんの一つ年上で、御父上のエディン公爵と一緒にうちに来て、アリアちゃんの魔力を確認してくれたり、魔力の使い方を一緒に勉強したりしてる。
「生贄なら悪く言っていいのか・・・俺は帰る。」
そう言ってシトラインさんは祭壇から下りようとする。
祭壇は王都を見渡せるような高い塔の上にある。封印石が王都のどこからでも見られるようになっていて、守り神のようにみんな拝んだりする。
そこから出るには細い階段を通らなきゃいけないんだけど。
「おい!お前!俺は王子だぞ!その態度!」
「ベリルやめろ、お前が悪い。どうした?何をそんなに」
「くっ・・・兄上には言いたくありません。お前、そこをどけ!」
シトラインさんを押しのけて、ベリル殿下が階段を駆け下りていった。
「シトラインさん、あの・・・」
「いいよ。気にしなくて。僕だってむかついたし。なんか空気悪くしてごめん。」
明るい色のくるくるした髪の毛をもしゃもしゃかきむしりながらシトラインさんはそう言って笑った。
「弟がすまない、サフィリス君。それにシトラインも、止めてくれて助かった。」
「いえ、ただ柱を叩いただけです。」
ははは、と明るい声が会話に入ってきた。
「君たち、本当にアリアって女の子を大切にしてるんだね。サフィリス君の義姉だよね?」
一番年上のイオライトさんだ。
十歳だから僕たちのことものすごく子ども扱いしてくるけど、でも見守ってくれてもいるってシトラインさんに聞いてる。ちょっと掴みどころがないけど、頼れるし面倒見のいいやつだって。
「はい。そうです。大切な家族です」
「その・・・ふざけたいわけじゃないけど、生贄のことどう思ってるか聞いてもいい?」
ここにいる全員、生贄のことは知ってる。
宝剣士は知っていなくちゃいけないことだから。でもそれについて意見を言い合ったりしたことはない。
ルチル殿下やシトラインさんとはよくアリアちゃんのこと話すけど、どこがすごいかとか、意外と抜けててへんな失敗をしたのを見た話とか、そういうのばかりで生贄については話したことがなかった。
「・・・ほんとは、嫌です。姉上がいなくなるのは、辛いです。」
「そうか。」
「でも、」
「でも?」
「姉上は生贄は必要って思ってるから。自分がそうなること、嫌だって言ったこと一度もない。真剣に考えてる、生贄になること。
…だから僕は最後までそばにいられる宝剣士でよかったと思ってます。」
「・・・そう、そっか。辛いこと聞いてごめんな」
イオライトさんはそういって頭をぽんぽんと撫でた。子ども扱いだ。でもちょっとだけ安心した。
イオライトさんも辛そうだったから。それに、シトラインさんもルチル殿下もそうだった。
「あのさ、俺らもいんだけど・・・」
そのやり取りをちょっと離れたとこで見てたスペンサーさんと、エレスチャル君が近づいてきた。
「ああ・・・君たちも、弟が騒いですまなかったな」
「大丈夫っす。殿下、それよりも生贄のことなんすけど」
そう言ったのは騎士長の息子さんのスペンサーさん。一つ年上なだけなのに背が高くて体が大きくて、ちょっと怖い。何度か挨拶したけどあんまり話したことはなかった。
「俺たち、本当にその女の子に酷いことしないといけないんすか?」
ひどいこと・・・そう、か。
アリアちゃんを生贄ってのにするには、魔力で体を壊さないといけない。殺すってことだ。
そのやり方はまだ習ってない。危ないからって。
だから、覚悟が決まってから教わることになってた。
きっとほかのみんなも、同じ話をされたんだと思う。
「・・・ひどい、な。確かにそうだ。この国を守っていくのにはそうするしかない、と父上である国王陛下から教わっている。」
「あのっその・・ほ、他の方法はないんでしょうか?」
そう言ったのはエレスチャル君。何度か会って話したけど、エレスチャル君も本が好きでいろんな絵本とか物語の話をして盛り上がって仲良くなった。すごく優しい子だから、辛いと思う。
でも・・・。
辛いのはエレスチャル君だけじゃない僕も、殿下も。きっとシトラインさんも。みんなそう。
「そう、だな・・・たぶんだが、ない、と思う。二千年ずっと続いてきたことだから、ほかの方法があったらきっともう誰かが知っていると思うんだ」
殿下が首を振る。すごく辛そう。
ルチル殿下は魔っていうのをアリアちゃんに渡してから、ずっとアリアちゃんのことを大事にしてるって言ってた。
自分の代わりに辛いことを任せちゃったから、って。
だからきっと僕と一緒で、生贄にしない方法をもう探してるんだと思う。
僕もずっとこっそり調べてたけど、見つからなかった。
陛下の子どものルチル殿下が見つけられてないなら、きっと・・・。
「・・・探せないんすかね?全員で」
その言葉でみんなが一斉にスペンサーさんをみたから、「うわ!!」とスペンサーさんが驚いて一歩下がった。
「怖いって!」
「いや、その・・・全員というのはどういうことかと」
ルチル殿下が一歩詰め寄る。
「だ、だから、ばらばらで調べてもわかんなかったりすっかなって。」
「ばらばら・・・」
僕がつぶやく。その時視線を感じて顔をあげたらシトラインさんと目が合った。
シトラインさんも、調べてたのかもしれない。
「俺の家あんまり古い本とかなくて、でもエレんちにはそういうのいっぱいあるって。ほかの家にもあんじゃないのかなって。」
「確かに、あるにはある」
スペンサーさんの言葉にシトラインさんがそう答えた。僕もルチル殿下も、イオライトさんも頷いた。
「だから、みんなばらばらに調べるよりまとめたほうがわかりやすそうって思ったんすよ!」
たしかに、そうかもしれない。
うちにはない情報が、ほかの家に残っているかもしれない。逆も。
宝剣士は七人だけど、王家に二つ宝剣があるから、六家の古い家の子どもたちがここにいる。
それらを全部まとめて調べた人はたぶんいない。もしかしたら・・・。
「確かにそうだ。しかし・・・」
「何か問題がありますか?スペンサーから聞いて僕はかなりいい案だと思ったんですが」
エレスチャル君がそう言った。僕も頷く。いいと思う。
「それぞれ御父上から聞いているかもしれないが、陛下は僕たちがあまり仲良くならないように、と言っている。ここに来られるのは宝剣士だけだからもう父上も叔父上もここでのことはわからないだろうが、僕たちも外にでたらそこまで親しくできないかもしれない。」
「シトラインとエレはサフィリスと仲がいいみたいだけど」
「子供のうちは、と思ってるらしい。シトラインは魔力のこともあるし、エレスチャルは・・・」
「・・・僕、あんまり友達いないから、スペンサーとサフィリス君しか話す相手いない。」
「まあ、そんなわけで見逃されてるんだと思う。でも協力して生贄のことを調べるとなると止められるんじゃないかな。」
「・・・でも、僕、姉上のこと助けられるなら助けたいです。」
はっと息をのむ声がいくつも聞こえた。
気づいたら僕は泣いてた。
ぽとぽとと足元に水滴が落ちている。
慌ててごしごしこすって、顔を上げる。
「内緒で調べられる範囲で、もし何かわかったら、毎年ここで情報交換をしてもらえませんか?お願いします!」
そう言って頭を下げた。
そうしてベリル殿下を除いた僕たちは、各々情報を調べあうことになった。
いつかベリル殿下にも話したいと思ったが、あいつは陛下にべったりなので難しいかも、とルチル殿下が言っていた。
もしいつか、もうちょっと僕たちが大人になったらベリル殿下にも話そう。
あの人が暴走することが、僕はちょっと怖かった。
彼らは気づかない。気付くことはできない。
生贄の少女がここを使い魔越しにのぞき見していることに。
覗き見しながら、ベリルの暴走を確信していたことに。
次回もう一話別人視点の話を挟み、二章が始まります。
始まるまで少し日が開くかもしれません(ストック溜めれたらこのペースでいきます)




