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死んでるはずの令嬢に転生したので、悪役令嬢として生贄になります  作者: 椿 柚柑
第一章 はじまり

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18 世界で一番幸せな笑顔で


 デューを使い魔兼飼い犬としてロバイト家に迎え入れた日から、一年以上経過した。


 季節は夏。

 前世と同じ巡り方をする四季は、こちらのほうがだいぶ過ごしやすい。

 そこそこ冷える冬と、そこそこ暑い夏という感じで、猛暑とか酷暑という言葉が飛び交っていたあのころに比べると、ものすごく楽ちん。


 薄手で半袖とはいえドレスやワンピースしか服の選択肢がない状態であの夏の暑さだったら普通にやばかった。




 そんな風にのんびり考えられる程度には、今私はとっても穏やかに暮らしてる。いろんなことが落ち着いて、足りないとこは探せばきりないけど、順調でもあるから。



「アリアちゃん、今日もよろしくね」


「ギルベルトさん、こちらこそお願いします。」


 パパと一緒にお城に来るようになって私に与えられた部屋はパパたちが働いている執務室のすぐそばにある。


 今までは王族や高貴な身分の方々の控室として使われていたらしくて、広さもそこそこ、調度品も美しいしバスルームまでついてる。


 ここで私は一日中お勉強したり、お昼寝したり、デューと遊んだりしながら過ごしてる。


「今日の調子どう?最近変化はあったかな?」


「ないです。デューも元気です。」


「そりゃよかった。じゃあ今日も手を出してね」


 毎月の義務としてギルベルトさんに体の魔力の変異や、黒色になったりしていないかをチェックしてもらってる。

 一度もおかしなことはなく、それよりも私自身の魔力が日々成長していることに驚かれてばかり。


「今日も大丈夫そうだね。それにしても魔力量もどんどん増えるし、魔法の扱いもどんどんうまくなっているね。訓練しすぎは良くないよ?無理はしてないと思うけど、大丈夫?」


「はい、大丈夫です。サフィリスのほうが上手だから負けたくないの」


 魔法を使うという点に関しては私よりサフィリスのほうが何倍もうまい。手先もだけど何事も器用にこなすので、コントロールがとてもうまい。


 私は力任せで大雑把に使うので、ロスが多い。最大火力は私のほうが上だけど、持久力や細やかさはサフィリスのほうが得意なので、サフィリスに教わることも多い。



「ああ、義弟(おとうと)くんだっけ、いいねぇ仲良しそうで。あーこの前の話考えてくれた?」


「はい。いつでも大丈夫です。」


「ありがとう。エンジークには僕から話しておくよ。」


 今度シトラインに会ってほしい、そういわれてる。同年代の魔力の多い子と会いたいとシトラインが言っていて、私とサフィリスにぜひ友達になってほしいとお願いされている。


 パパはちょっと難色を示していた。娘に変な虫が…とよく言ってるけど、私は誰かの婚約者に選ばれることもないので、安心してほしいと思う。

 最近過保護が加速している気がする。サフィリスとお昼寝するのも絶対ダメと禁じられてしまったり、ちょっと過剰な気もする。





 私は四歳になった。サフィリスも同じく。最近は宝剣を受け取ったあとのこと、儀式や公務について学んでるみたい。

 五歳になったら、つまり来年にはサフィリスが宝剣士になる。今はパパと一緒に過ごしている私は、来年からサフィリスと一緒に過ごすことになる。パパはなんかそれも嫌みたいな雰囲気を出してて、ちょくちょくサフィリスに厳しく当たってる。悪い感じではなくて仲良しなんだけど、指導が厳しめというか。



 だから、こうやって城に来るのもあと半年とちょっとくらい。

 それからは王都の屋敷と、出来るだけ早めに領地のほうの屋敷にも行きたい。

 



 そのために城の中で出来ることを最大限やっておかないといけない。




 ギルベルトさんを見送ってすぐ、可愛らしいノックの音が響いた。


「どうぞ」


 カチャリ、と扉を開けたのは大公とルチルだった。来ると言ってた時間よりちょっと早い。


「アリアちゃん、こんにちは。少し早かったけどいい?」


「うん、魔力チェック終わったから大丈夫だよ!」


 えへへ~と可愛く笑ってルチルが入ってきて、すぐにデューをなでてる。



「じゅぴうむ大公もお久しぶりです。」


「あはは、まぁ、ぎりぎり言えるようになったね。偉い偉い。嬉しいけど難しいでしょ、大公でいいよ」


 こちらの世界の発音は微妙に前世と違ってものすごく言い辛い。

 子供の口だというのもあるけど、非常に悔しい。


 大公に撫でられながら、お茶の準備をまつ。



 大公ではなくパパや、ものすごくたまに陛下と一緒にルチルはここにきてデューと遊ぶ。その間私は一緒に遊んだり付き添いに来た人とお茶をしたりする。

 できればずっとパパが付き添いたいらしいけど、お仕事がものすごく大変らしいので悔しいって言ってる。この辺りも過保護っぽい。他には使用人の人が一緒に来ることもある。



 長く魔と一緒にいたせいか、デューと遊ぶととてもリラックスするらしい。

 苦しめられていたはずなのに、と周りは不思議がったけど、大公も落ち着く感覚がすると言っていたので、魔が一部同化していたのかもしれないという話になった。


 魔王の魔力は人では使えないはずだけど、魔力としてではなくて肉体そのものに馴染んでいたんじゃないか、って。



 よくわからないけど、虹シュバでは悲観的だったルチルがにこにこ笑って楽しそうにデューと遊んでるのを見るのは微笑ましくてとても良い。

 断る理由も全くないし。


「あと半年くらいでアリアちゃんここに来なくなっちゃうの?」


「月に一回は来ると思います。」


 一応王都にいる間は月に一回サフィリスとここにきてギルベルトさんのチェックを受けるつもり。領地に行ったとしても馬車で一日なので、きっと同じペースで城に行くことになると思う。


 シトラインがギルベルトさんクラスで魔力チェックができるなら、領地に連れていきたいと思ってるけど・・・こればっかりはすぐには難しいかな。

 来年になって私が五歳になった時、シトラインは六歳。さすがに長期で人の家にお泊りするには子供すぎちゃうかも。




「月に一度かぁ・・・寂しいなぁ。僕がアリアちゃんのところに遊びに行くのって難しいかな?」


「殿下、それはさすがに無理ですよ?あなたは王族ですし、公爵の家に何度も行くとなれば何か思惑があるのかと思われてしまいます。」


「思惑?」


「例えば婚姻ですね。アリア嬢は年も近く、宝剣の公爵家に珍しい女性ですから理由を知らないものはそう思うでしょう。」


「ここ、こん、婚姻なんて!」



 ルチルがものすごく真っ赤になって慌ててる。可愛いなぁ。四歳ってもうそういうの照れちゃう感じなんだな。


 というか、大公はそんな風にいうけど、自分はかなーり頻繁にお忍びでうちに来てデューと戯れてる。ルチルに言ってなかったのね。



「あ、アリアちゃんに迷惑がかかるってこと、だね。」


「そうですね。時々であればいいかもしれませんが、それよりも月に一回来てくれる時に予定を開けておくほうが確実ですよ。」


 自分が遊ぶ時間を減らしたくないだけ、じゃないですよね?大公さん?



 大公をジーっと見てると、にやっとわらって唇に手を当て、シーっと内緒のジェスチャーをした。


「私も息抜きしたいんですよ」


 小さな声でそう言っていたずらっぽく笑ったその顔は、やっぱり良い人に見えた。そっと撫でるその手は取っても優しい。


 一時はよく抱っこされていたけど、最近はそこまででもなくなったとはいえよく撫でられる。子供好きなんだろうけど、パパがピリピリするのでそろそろ控えてほしい。今はいないからいいけど、なんかルチルも睨んでる。






 お城の美味しいお茶とケーキを楽しんで、たっぷりルチルと大公とデューと遊んでお話もして。

 緩やかにお城の時間は過ぎていく。お城に来る日は毎日こんな感じ。



 一年で本当に随分平和になった。


 まず、サフィリスの両親。叔父様と奥様は元気にやっているらしい。

 大公が人質状態も監禁状態も解除したらしい。ご機嫌でやってきて、もういいよ~って言ったんだって。


 ただ、仕事自体は国から勅命で下っているものなので、十年くらいは高山地帯で働き続けることは変わらない。

 それでも数か月に一度休みを取っては王都に来てサフィリスと会うこともできているし、最近はサフィリスに弟と妹が出来た。双子ちゃん。まだ生まれたばかりだから連れてきてはいないけど、叔父様が来るたびに姿絵を一杯見せてくれて、サフィリスだけじゃなくて私もすごく楽しみにしてる。



 弟と妹に対して両親と離れずに過ごしてる嫉妬とか大丈夫かな?って思ったけど、そういうことはないみたい。うちのパパとママとの関係性もすごくいいと思う。

 本当の親子かと言われたらちょっと違うかもしれないけど、パパを尊敬してママを大事にしてる姿をよく見かける。もちろんパパたちも同じ。ま、ちょっと厳しいけど仕方ないんだとも思う。宝剣士ってものすごい重い存在だから。



 だからちょっと強く言われて凹んだりはしても、寂しさからサフィリスがぐれてしまうことはないはず。



 パパとママも一時期の私の行動に過剰反応するのはだいぶ収まって、過保護ではあるものの落ち着いて過ごしていると思う。頭の片隅には生贄のことがずっとあると思うし、時々とても辛そうにしてるけど、それでもそうなる日まで家族みんなで過ごしていきたいっていう私の想いを汲んでくれてる。


 お祖父様は相変わらずの距離感だけど、ちょっとずつ会話が続くようになってきた。


 孫が生贄っていう事実をちょっとずつ受け入れようと頑張ってるみたい。



 あと、まだママから直接は聞いてないけど、多分妊娠してるんじゃないかな?パパとママはかなりラブラブだし、叔父様たちに子供が生まれたことも後押しになったんじゃないかなと思う。


 サフィリスのことや私のことで兄弟が出来た時そうするのかってかなり悩んでたみたいだけど、サフィリスは場合によっては当主にはならず、宝剣士の役割のみを行って家は継がないことにするって言ってた。ものすごく異例だけどそれでもいいらしい。

 宝剣士が当主じゃないとダメではなくて跡継ぎ問題に発展して宝剣士がいなくなることがとにかくダメで、次世代の宝剣士にちゃんと宝剣を渡すなら当主がサフィリスじゃなくてもいいみたい。



 まぁ・・・そのあたりはうまくまとまると思う。私の計画通りに進めばね。




「あう!」


「デュー」


 眠ったようにごろごろしていたデューが吠えた。戻ってきたみたい。



「分かった?」

 ここは盗聴というか、こっそり監視されてるらしいから小声で聞く。


「わん!」


 デューが元気よく頷く。ちゃんと調べてきてくれたみたい。

 いっぱい撫でて上げたあと、おでこをくっつける。



 じわ~と溶け出すようにデューからイメージが流れ込んで来る。監視カメラのような、ドローンで空撮したような、様々な場所のちょっと上からの映像が見える。


(うん、なるほど…城の見取り図は変わってないのね。ベリルは…ああ、お兄ちゃんに構ってもらえなくてちょっと拗ねてるのか。城に来なくなる前にこれは何とかしておきたいなぁ。)


(・・・・・)


(ああうん、そうだね。ルチルにベリルと一緒に来てみない?って誘っておこう。早めにしないと暴走されたら困るもんね。虹シュバでもベリルが一番話聞かない頑固者だったし、あとでパパに言ってみよう。)


(・・・・・・)


(あとは大丈夫そうだね。陛下と大公の会話がちょっと怪しい時あるけど、監視役の隠密の人たちの居場所もわかったし、働いてる人たちのことも大体掴んだ。不正とか汚職はそのうちパパとお祖父様が見つけるだろうし・・・デュー、お疲れ様!)



 いっぱい撫でて頬にキスするとデューは嬉しそうにぱたぱたと尻尾を振った。








 使い魔の契約は本当に穴だらけだった。笑っちゃうくらい。


 まず、私が嘘をつく可能性を考慮してない。あの時三歳だからその可能性を考えもしなかったのかも。

 次に、使い魔の能力を制限してない。


 だから、デューが実体と精神体に分かれることが出来て、姿の見えない精神体だけ飛ばして数キロ圏内であれば自由にどこにでも行けることも知らないし、考えもしてない。まぁそんな魔法がないだけなんだけどね、人の世界には。

 分裂みたいな形で、体を動かしながらも偵察に行くことも出来る。もちろんそれもわかんない。


 人の魔力や精神の状況を見ることもできるし、マップみたいに建物の全体図を把握できるよう俯瞰図のイメージを送ってくれるし、限度はあるけど大体いつでも見返せる。


 誰がどこでどんな話をしていたか、とかも自由にね。


 私は出来るだけ嘘をつかないようにして、動揺とかを見抜かれないようにしてるけど、今のところ嘘をつかないといけないようなことを聞かれることもない。


 魔法で出来る範囲、っていうのは間違いじゃないんだけど、人の魔法と魔王の魔法の差が激しすぎる。

 イメージしたらなんでもできちゃうから、魔王は。





 こういうのこっそりしていると、頭がおかしくなったみたいだけど、私は別に魔に精神汚染はされてないし、魔の影響で性格が変わったなんてことはない。



 ただ、思い出しただけ。約束を。








 来栖が書いた虹シュバは不完全。ただ単に、知らなかったんだと思う。生贄のこととか、宝剣のこととか、封印のことも。


 不完全だったけどだけど、たしかにあれはこの世界を書いた話だった。

 それは間違いない。



 この世界のたくさんの未来をちょっとずつ寄せ集めた感じ。一つじゃなくていっぱいの未来。パラレルワールドっていうのかな。その中の来栖が見たことを選りすぐって、来栖自身の創作を加えて書いたんだと思う。二次創作のようなものかな?


 


 ただしそのパラレルワールドたちは全部滅んでる。


 魔王によって。



 私が死んだ後の世界では魔王を封印することも、倒すこともできなかった。封印の要がないからね。魔も受け取れないし、大公とルチルはボロボロのまま。宝剣士たちがバラバラだったのは小説通り。


 そんな中で解放された魔王によって世界は滅んでしまう。



 それを正すのは、本当に簡単。

 ただ私が生贄になればいい。十七歳の冬まで生きていさえすればいい。ただそれだけ。


 パラレルワールドの全てで私は死んでいなくなっていたから、どうやっても消滅は避けられなかった。





 だからね。


 ちゃんと生贄になる。

 でも、これは最低限でしかない。生贄になってはいおしまい、ではちょっと問題がある。




 世界の消滅を避けても、国の崩壊が避けられない。

 様々な問題をはらんだまま、あの瞬間が訪れるから。


 

 つまり私が生贄になっても、この国の私の大切な人たちはなーんにも幸せじゃないし救われもしない。

 すぐ死ぬ。消滅タイミングより短くて数時間後には。



 間違いなく、死ぬ。


 私が生贄になろうが、なるまいが、死ぬこと変わんないの。

 パパもママもサフィリスも、叔父様たちやルチルたちも、ぜーんいん、もれなく死ぬ。




 それじゃ意味がないでしょ?

 たった数時間しか変わんないのは悲しい。


 そりゃ世界は消えないとしてもこの国が消えるなら、ここで生きてる私にとっては一緒。




 生贄が生きてその瞬間を迎える世界は、ここ一つしかない。

 無数にあったパラレルワールドの中で、ただ一つ、この今しかない。




 それなのに、意味がないなんて結末で満足したくない。




 どうせだったら私の全身全霊をかけた全力の笑顔でこの世を去りたいじゃない?

 心残りでめそめそないで、じめっとした終わり方じゃつまらないでしょ?



 それにね、約束したから。全部守るよって。

 だからそのために動く。



 


(まずはベリルと…あとは来栖を見つけて、悪役令嬢にならなくっちゃ。)



この後別人視点を挟んで、二章になります。

主人公アリア視点ではここで一章終了となります。

続きは明日のお昼にアップ予定です

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