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死んでるはずの令嬢に転生したので、悪役令嬢として生贄になります  作者: 椿 柚柑
第一章 はじまり

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17 神様


 シトライン・エジョン。


 虹シュバに出てくるメインキャラクター、宝剣士の一人で乙女ゲームでは攻略者の一人でもある。


 ヒロインよりも一つ年上のシトラインは小柄で、顔も体も女の子のようにとてもかわいい。小説では女装するシーンがあり、ほかの宝剣士たちが赤面するという場面があってアニメでも乙女ゲームでもそれは再現され、かなり反響があった。

 ふわふわにカールした天然パーマの髪は明るいベージュ色をしていて光に透けてきらめき、丸くてくりっと大きなオレンジ色の目は愛らしくて。物語が始まった時十六歳のはずの彼はとてもとても可愛くて天使だった。


 だが、内面はかなりひねくれ者。幼少期からたびたび魔力暴走を起こし周りから距離を取られてしまい、両親との仲も悪い。特に母親にはかなり嫌われていて、家を継がせたくない、宝剣士など任せたくない、と言われ続けて育っている。

 そのせいで他人を信じるということはせず、自分に良いように使える相手には媚を売る、今後のことを見越して愛想を振りまいておく、など損得勘定で動いている。

 中世的というよりも女の子のように可愛い見た目で女の子たちに警戒心を持たせないで近づき、言いなりにさせることもあった。


 

 彼のひねくれた気持ちを素直にさせて、寂しい思いに寄り添うのがヒロインの役目。

 素直になったらデレるし、めちゃくちゃ甘えてくるので乙女ゲームではかなり人気のルートだったと思う。




 そんな可愛いシトラインとはあまり似ておらず、ローブでよくわからないけれどそこそこがっしりして見えるその人は髪の色や瞳の色はシトラインと同じもので、現在四歳のはずのシトラインの兄というのは年上すぎる気がするので、やはり父親なんだろうと思う。


 そうみるとパパと同じくらいの年齢のようだし、エジョン公爵が来てもパパもお祖父様も特にかしこまったりしていない。よく知る間柄のように見えた。




「エジョン公爵、契約について説明してくれ。もらった資料にそのようなことは書いていなかった。」


「あの時は知らなかったが、その後に調べたところそのような方法があると分かり、それから検証したために最初の資料には載っていません。結果から分かったことをこちらにまとめています。」


 検証?と気になったけれどそれについては特にそれ以上何も言わず、エジョン公爵は数枚の用紙を取り出した。大公、陛下、そしてパパとお祖父様に一枚ずつ渡して、大公が私とルチルにもその用紙を見えるように持ってくれた。


(う~ん、なんか気づかいが細やかで優しいんだよなぁこの人。)


 疲れて座り込んでいる私の背もたれにもなっているし、使い魔を邪険することもしないし、ルチルの様子もちゃんと視界に入れてる。


 つかみどころがない、という感じがするけれどこの優しい大公のペースに飲まれてしまうのが怖い。



 渡された紙には契約について書かれていた。実例と検証結果とある。


(使い魔を作れるほどの魔力を持つ人がいないって言ってたけど・・・もしかしてシトラインが試したのかな?)


 魔力が多く生成されすぎて自身の回路に流しきれず体の外に出てしまう、というのが魔力暴走だ。回路が小さすぎる場合も起こるけど、シトラインは回路が大きいのにそれ以上の魔力が生み出されてしまう体質だった。


 今のシトラインがどうなってるかわからないけど、彼なら使い魔を作れるかもしれない。



(実験させられた、と思って余計に傷ついてないといいけど・・・)


 何度か実験したように読み取れたのでシトライン以外も協力しているのかもしれない。誰がどう実験したかは書かれていなかった。

 結果としては破ると使い魔が縛られ動けなくなるらしい。弱い使い魔だとその時点で消滅。魔力は霧散するとあった。

 魔を霧散させてしまうのはまずいだろうけど、多分この使い魔は弱くないから消滅ってことにはならなそう。


 契約なしだと作った本人の願いをできるだけ叶えようとして、人間社会では受け入れられない行為をしてしまうらしい。他人の物を奪ったり盗んできたり、建物などを壊したり、などなどが書かれている。


「契約は使い魔が人を害さないように縛るものです。基本的に使い魔は作り出した人間の意図に沿った行動しかしません。ですが万が一その作り出した人間が殺意をもって攻撃するように使い魔に命じればそれに従い殺すでしょうし、はっきりと言葉にして命じなくても願えばそれを叶えます。」


「作り出した人間が願えば何でもできるのか?」


「使い魔の能力は使われた魔力の量や性質に左右されます。魔を使ったのであれば相当量の魔力があり質も高いと考えられますので、おそらくは。勿論できないこともあります。」


 何でもできちゃうと困るから、ある程度絞って力を使えるように決めておく、違反したら罰する、というのが契約の目的らしい。安全策みたいな感じ。


「例えば?」


「蘇生など理に反することはできないようです。魔法で出来る事出来ない事と同一と考えてください。ただ魔を使ったというのは前例がないのでわかりません。魔王がどのような存在だったかがわかりませんので。」


(・・・え?魔王がどのような存在だったかわかってないの?)


 てっきり、強大な魔力で人を虐殺したとか、国を乗っ取ろうとしたとか、世界を破滅に追いやろうとした、みたいな逸話があるのだと思ってた。

 だから封印されたのだ、と。


「契約ではどんなことでも命じられるのか?」


「今回の場合は作り出した人物が魔物のような考え方になっても、それに従って人を害する存在にならないように契約を結ぶのが良いかと思います。」


 

「わう・・・」


 使い魔は少し不服そうというか嫌そう。しょぼーん、という感じ。


「あとは、生贄になる前には彼女の体に戻るようにしないといけませんね。」


 大公がそう言うと、使い魔はさらにしょんぼりした顔になった。


「そうだな・・・生贄が封印石に同化する際には、封印の強化に魔を使うという。それも契約に盛り込めるか?」



「おそらく、ええと、アリアちゃんだったかな?」


「あ、はじめまして、アリアです。」


 私は挨拶してなかったことを思い出し、その場でペコリとお辞儀した。


「俺はギルベルト。君のお父さんの友達だよ。ギルお兄さんって呼んでね。」


 エジョン公爵・・・もとい、ギルベルトさんはものすごく人懐っこい笑顔で笑ってる。


「・・・おじさんだろ。早く続きを話せ」


 パパはとても冷たい目をして睨んでいる。どうやら仲がいいみたい、友達同士の会話って感じがする。



「はぁ~冷たいな。で、アリアちゃん。使い魔と契約するには使い魔に名前を付けないといけないんだ。契約内容は俺たちでも考えられるんだけど、名前だけは君が決めないといけない。できそう?」


「なまえ・・・」


 使い魔の紅い目を見る。この子の名前・・・



「デュー?」


「あう!」


 そう呼ぶと嬉しそうに吠えた。


「このこ、デューです。」


 そうやって紹介すると、デューは陛下たちのほうをみて、あう!と吠えてお辞儀するかのように頭を下げた。


「・・・賢いのだな。こちらの言葉をしっかり把握しているようだ。」


「そのようですね。・・・デュー、契約について私たちに任せてくれるか?」



「ぐるるる・・・」


 唸って首を横に振った。ダメ、ということらしい。


「じゃあアリアちゃんが同意した内容なら契約を受ける気はあるか?」


「・・・わう」


 まぁいいよ、みたいな感じで少し迷って首を縦に振った。

 完璧にこちらの言葉もその意味も分かってるみたい。



「じゃあ、一緒に考えて決めよう。ここじゃなんだし隣に移動しませんか?」


 



 その後、ルチルの部屋を出て、元の応接室に戻ることになった。寝室の隣じゃないほうがいいって。

 デューを連れて歩くのは憚られたが、ルチルがかなり消耗していたみたいですぐにでも休んだほうがいいと陛下が決めた。隣で話していては気になって仕方がないだろうしそれがいいとみんな頷いた。

 

 部屋を出る前にデューを触らせてほしいとお願いされ、デューもそれを了承したので少しだけ頭をなでて。ルチルがちいさく「かわいいね」と言っていたのがものすごく印象的だった。微笑んでいた。


 虹シュバの中でルチルは悲劇の人だった。魔王をその身に宿し、蝕まれ、昼の光に当たれず、夜しか行動できない。

 宝剣士でもある彼はヒロインと出会い、初めて死にたくないと思った。

 だけど最後は自らを犠牲にして魔王を消滅させてくれと願う。ヒロインの幸せのために。


 乙女ゲームでは生存していたけれど、私の中のルチルといえばずっと悲しみと絶望に支配されている人、というイメージだった。優しく微笑む、なんて本当にレア。ヒロインと出会ってほんの少し笑えるようになった、そんな人。




(・・・そうだ。消滅。虹シュバでは魔王は消滅してる。封印はしないんだ。どうして気づかなかったんだろう)


 すっかり忘れていたけれど、虹シュバは魔王を倒していた。

 封印を強化するという話などもなかった。封印が弱ってて破られそうだからやばい!危険だ!復活しちゃう!ってそんな感じだったはず。





 あれは、やっぱりこの世界を正しく描写してるわけじゃなかった。


 ああいや、違う。そうじゃない。



 ()()()()()()()()()だけだ。





 元の応接室にもどり、契約内容を詰めていくけど、なかなか進まない。


「人を傷つさせないために何と言って契約するかが問題ですね。」


 そう、それが問題だった。


 特に言葉のニュアンスがかなり問題になっていた。受け取り方次第で意図が違っては困るということで的確かつ正しく私とデューに理解させなくてはいけない。



 今の私がそのまま十七歳まで、このままで生きていくのならいいけれど、もし今後魔物のような思考回路になったり、魔族のように享楽にふけったり加虐趣味に走ったとしたら、使い魔を使って人を害することを平気でやる可能性がある。


 しかもそうなったとき宝剣で人形にしようとしたら、私を守ろうと宝剣士に対して牙をむくことも考えられる。


 そのどちらも防ぎたいけど、人を傷つけたらだめ、と一口に言ってしまうと私を守ることが出来ないので使い魔の存在意義に反してしまうらしい。

 だからって危ない時だけはいい、とするのもいつが危ないのか?という受け取り方の問題が発生する。


「守るとき以外はだめ、では精神が侵された場合に対応できませんからね、難しい。」


 うーん、と大人たちは首をひねる。

 このままでは進まないし、さっき言えなかったことを話すことにした。


「あの、話してもいい?」


「なんだ?言ってみろ」


「わたしの中に魔、ないよ?おかしくなるかな?」


 デューを作る際に全て使ってしまったらしく、自分の中をいくら探ってもあの黒いものはない。デューの魔力の質が少し変わっていることから、もらった魔+私の魔力でデューを作ったんだと思う。


 使い魔は私の性格や思考に依存するので、魔を持っていない私がおかしくなることがなければ魔で出来たデューもおかしくなることはない、って断言してもいい気がするんだけど、証明する方法がないのがネック。


「エンジーク・・・あ、いやロバイト公爵。ご息女の体を調べてもよろしいか?」


 ギルベルトさんがかしこまってそういった。陛下と大公の手前気安くは話せないんだろう。さっきはだいぶくだけてたけど、お祖父様が睨んでいたので反省したらしい。


「調べるとは?肌にふれるなどはあまりしてほしくない。」


「手を握るだけなんだが、それもダメか」


「いい、私が許す。それで何がわかる?」


 口ごもるパパではなく、陛下が決めた。パパの気持ちはわかるけど、宝剣士や公爵として判断しないといけないときなんだろう。



「人はそれぞれ持っている魔力に色があります。誰かから魔力をもらっても、その色が受け取った人物の色に変わるまでかなり時間を要します。俺はそれを感じ取ることが出来ます。魔は黒かったと聞いたので、黒が混ざっていなければ魔がないと言ってもいいかもしれません。」


 私が気を失っていたのは数分だったらしく、色が変わるまでの長い時間はまだ経過してないと思う、とギルベルトさんは付け足した。大体一週間ほどかかるらしい。


「さっそくやってみよ。エンジーク、手ぐらい許せ。先ほどジュピウムが抱き上げていただろ。変わらん。」


「はっ。・・・ギル、変なことするなよ」


 パパが睨んでる。三歳児に変な事しないって!とギルベルトさんは言うけど、その言い方が問題を起こすのでは・・・?指摘はしないけど。


「ギルベルトさん、よろしくおねがいします」


 そう言うとギルベルトさんはうん、と答えて両手を上に向けて差し出してきた。


「この上に手をのせて、魔力を探るからくすぐったかったりすると思うけどそのまま我慢してね」


「はい」


 そっと乗せるとすぐに手がじわじわ熱くなり、その熱が体中に広がっていくように感じた。




 ほんの一分くらいで、もういいよ、と声がかかった。


「うん。確かに黒い魔力はひとかけらもない。色が違う魔力が少しだけありましたが、似た色だったのでおそらく家族のものでしょう。色は遺伝しますからね。最近魔力のやり取りを練習していたと聞いたので、それが残っているのでしょう。魔がない、というのも事実だと思います。」


「魔の影響をこれから受け続けるということはないのか?」


「おそらくは。一瞬でも体を通したことがどれくらい影響があるのかわかりませんが、今現在どうもなっていなければ今後も同じ可能性が高いでしょう。ただ、分からないことだらけですので、経過観察は行うべきだと付け加えさせてください。」


 ふむ、と陛下が頷く。

 ギルベルトさんが言ってるのはたぶん間違いない。確かに今週はパパとママと魔力の受け渡しの練習をしてた。

 でも五日前くらいが最後、だからだいぶ馴染んだり、使ったりして少しになっていたんだと思う。


 私の中にあの黒のどろどろがないことも、子供の私が言うだけじゃダメだったと思うけどギルベルトさんのおかげでわかってくれて助かった。


 大公がそれを受けて、条件をまとめる。


「では、わざと人を傷つけるような命を出した場合は従わない、宝剣士の言うことに従う、儀式の前にはアリア嬢の体に戻る、アリア嬢の身を守るために実力行使する場合もできる限り殺さない、というのでいいのではないですか?魔に影響されないのならこれで十分かと思います。アリア嬢には定期的にエジョン公爵もしくは同じような確認が取れるものに魔力を見てもらうことを義務付けましょう。」

 

 定期健診みたいなものを受けるのは少し面倒だけれど、幽閉や人形になるよりは全然ましだ。

 私はうんうんと頷いた。


「契約のやり直しはできるのか?」


「契約者同士が許可すれば。つまりアリアちゃんさえ良ければ可能です。」


 そうか、と陛下が小さく言って、そして。


「では、それでいこう。アリアとデューはよいか?」


 契約内容が決まった。







 この契約では穴があるのにね。誰も気づいてないみたいだけど。

 使い魔の性質を間違って認識してるのか、知らないだけか・・・どちらにせよ、誰も気づいてないみたい。



 デューをみると、私がいいならいいよ、と尻尾をふりふりしている。


「はい、いいです!」

「わう!」


 私とデューが同時に返事をして、その案で契約内容が決まった。









(・・・これで、やりやすくなった。ね、デュー?)



続きは明日のお昼になります。

次のお話で一章が終わります。

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