16 ちゃんと覚えてる
なんだかものすごくぽかぽかする
暖かさにほっとして、思わずにこりと笑った
「笑ってるの?」
ふいに声が聞こえた。聞き覚えのある声。優しい優しい声。
あったかくて気持ちがいいの、と頭の中で思い浮かべると、それが通じたみたいで笑い声が聞こえた。
「よかった。君が笑ってると嬉しくなる。いつも泣いてたから。」
そうだっけ?
「僕があっちに連れてったのは幸せに生きてほしいって思いだったんだけど、泣いてばかりで心配してた。」
私は今幸せだよ?
「そっちじゃないよ、でも・・・うん、幸せならよかった。さらに辛いことを君に押し付けちゃったから。」
そんなことないよ
「君は本当に優しいね・・・もうやめてもいいんだよ?」
やめるって、何?何のこと?
「もしかして、忘れてる?」
何を?何を私は忘れてるの?
「そっか・・・ううん、それなら、そのままのほうがいい。それでいいんだよ。」
急に優しい声に突き放された気がした。
まって!!
あったかさで自然と目が閉じて眠りそうになっていたけど、必死に目を開けた。
あったかい、と思ったらそれは声の主のぬくもりだったらしく、真っ白の大きなTシャツのようなものをだぼっと着た少年にお姫様抱っこされていた。
時折前髪をいじったり、頬を撫でたりして、愛おしそうに触れられているのだと気づいた。
それを待っていた、そんな気がする。
「アリア、起きちゃったの?」
「え・・・あ・・・」
「寝ていていいよ、大丈夫。すぐにおかしなことにはならないから、安心して。」
寝ぼけた時のようにピントのずれた視界が、だんだんとクリアになっていく。
声の主の顔が段々見えてきて。
優しい笑顔、紅い瞳がうるんで、細められて・・・
「忘れて、いないわ」
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「アリア嬢!!しっかりしろ!」
体を強く揺さぶられハッとする。
気を失っていたみたい。
見渡すと体を揺さぶってたのは大公で、なぜか私は大公に後ろから抱きかかえられて床に座り込んでいる。
少し離れたところに陛下も、パパもいた。
「あれ・・?わたし・・・」
何をしてたっけ?頭が少しぼーっとしてよくわからない。
「体調は?どこもおかしくないのか?」
パパの顔は真っ青になっている。
普段ならすぐ抱き上げてしまいそうなのに、なぜが触れず少し離れた場所で膝をついて必死にこちらを見ている。
手を伸ばせば届きそうな距離なのに、なぜかパパはそうしない。
「ぼーっとして、よくわかんない」
「何をしていたか覚えているか?」
大公にそう聞かれて、思い出そうとすると目の前に私と同じくらいの年の男の子がいて、同じように床に座り込んでこちらを心配そうに眺めてる。
見覚えがあるような、ないような・・・金髪で赤い瞳をしたかわいい子供。
赤い、目・・・もしかして、ルチル?子供すぎるけど描いた覚えがあり、陛下にも大公にもどことなく似ている。
「あ、魔をもらってた!」
ルチルの顔で思い出した!魔をちょっと受け取るつもりが大量にどーっと流れ込んできちゃって飲み込まれたんだ。
「あれ?でも体に魔、ないよ?」
自分の体の状態は、何も変わらない。あれだけどろどろの魔を溺れるほど大量に受け取ったらさすがに体に異変や、魔力が多くなったって感覚がありそう。
視界がクリアで部屋の中もよく見えるし、ルチルと思われる子供も陛下もパパたちもよく見える。どこにも黒い靄はない。
だから全部受け取ってしまったと思ったんだけど。
「・・・横にいるそれに、覚えは?」
大公にそう言われ、きょろきょろと周りを見渡す。
そうすると、パパと私の間に黒い何かがいるのが見えた。
さっきまでみていた靄とは全く別で、実体をもってふさふさつやつやとしているそれは私の足にぺとっとくっついて、何かふさふさしたものをパタパタ動かしている。
くっついた部分はあったかくてよーくみると、つやつやとしたそれは毛並みだった。
恐る恐る手を伸ばすと、しっかりした硬い毛の感覚があって、驚いていると私の後ろ、お尻の下あたりから
「わん!」
と元気な声が聞こえた。
(これって・・・・)
振り返るとそこには、紅い目をしてツンと三角の耳を立てた真っ黒い犬がいた。
真っ黒な毛並みに紅い目が印象的で、かわいいけど顔立ちは結構しゅっとしてて、犬に見える人懐っこさを感じるけど、もっと獣っぽいような感じもする。
毛並みはふさふさつやつや、触ってみるとしっかりしてるのに柔らかい不思議な感じ。尻尾もふわふわふさふさでかわいい。
私が書いたイメージ図に、似てはいないけれど、もしかして。でも・・・。
「・・・おぼえは、ないです」
素直にそういうとその犬はあからさまにしょげた。
ぱさぱさしてた尻尾をぺたーと床に落とした。
「くぅ・・・」
「これはおそらく、使い魔だ。覚えがないということは・・・無意識でやったのか?」
少し離れたところにいたお祖父様がそう言った
「魔力が多い魔物や魔族は皆深い赤色の目を持つ。きっと魔で構成されているのでこの使い魔もそうなのでしょう。赤い目の犬というのはあまり聞いたことがありません。」
大公はそう言うと使い魔らしき犬をじっと見つめた。
そう言われてみると、絵本にでていた妖精もここまでではないけれど赤っぽい目をしていた。
わんこ、と呼びたくなる人懐っこさでこちらを見上げる黒い犬は、私にぴったり寄り添ってる。
使い魔は作った人に従うとあった。どちらかというと懐かれている感じの状況。
「作ろう、と思ったわけではないのか?」
陛下がそう言って使い魔らしき犬と私を交互に見る。
おそらく使い魔がいるせいで陛下とパパ、そしてお祖父様は少し離れたところにいる。でもルチルと大公は平気そうにしてる。
ルチルは私を心配そうに見つつも完全に尻尾の動きに目がつられてる。
「思ってない、です・・・」
なでてやるとものすごくうれしそうにわう~と声を上げる。
よーく感じてみると犬の体に触れると魔力を流す時みたいな液体が動く感覚が少しだけある。
犬の魔力を感じようとすると、ルチルたちから流れてきたドロドロ感はなく、でも魔と同じ真っ黒い液体のように感じられた。
受け取った魔に違いないだろうけど、だいぶ質が変わってる気もする。
「わたしのつかいま?」
「わう!」
「わるいこと、しない?」
「わう!」
犬は吠えてすりすりと私の顔にじゃれてきた。
犬の顔が目の前にきて、目と目があった。紅い、目。
あ。
「このこ、つかいま、です」
「間違いないのか?」
陛下がそう聞く。犬が苦手なのか使い魔が怖いのか、パパに負けず劣らずの青い顔をしてる。
「もらった魔で出来てます」
質は変わっているけれど、もらった魔には変わりない。
「やっぱりそうか。妙になじみがあるというか・・・ルチル殿下もそうでは?」
「うん。ちょっとこわいけど、ちちうえたちみたいに離れなくても平気。」
犬のサイズは両手足を伸ばして測ったら多分私より大きい。ルチルは一歳年上だけど体調を崩していたせいか私とそこまで変わらなさそうな体格なので、使い魔どうこうではなくて単純に大きな動物が怖いって言っているような感じがした。
「パパはつかいま、こわい?」
「怖いというよりは、近づき難いという感じだ。見た目は愛嬌があるように見えるのだが、得体のしれないものと対峙している気持ちになる。」
犬嫌いではないらしいが、恐ろしいらしい。魔王の魔力の凝縮体のようなものなので、そう感じてしまうのかも。
「おうちで、かってもいい?」
「か・・・飼うのか・・・ああでも、そうか。使い魔はそばにいるものなんだったな・・・」
パパは明らかに動揺してる。
「飼う前に契約を結ぶ必要があります」
知らない声が部屋に響いた。
「エジョン公爵。やっと来たか。」
「遅くなりました。」
寝室と応接間の間、ちょうどドアのところにその人はいた。
真っ黒なローブ?マント?で体がすっぽり隠れていて、黒いフードも被っている。
それを外すと、短いベージュ色の髪と、人懐こそうな顔、そしてオレンジ色に光る瞳を持つ男の人がいた。
(ん・・・エジョン?エジョンって確か、宝剣士の一人がエジョンって家の人だったような。もしかして、あの人のパパかな?)
私はまだ見ぬ攻略者の一人、宝剣士のシトラインを思い出していた。
続きは明日のお昼になります




