7.全然いい案じゃない
オークションの終了まではあと二時間ほど。つまりかれこれ二時間ほど経っているわけで、いつの間にか陽は傾き始めていた。
だいいち、大の大人が公園で中学生と一緒にゲームをやりつつ数時間過ごしているのは褒められたことではない。
「そろそろ学校が終わる時間じゃないか? 今制服姿で歩いている生徒が見えたぞ? なか―― チカもそろそろ帰れよ。オレも帰るしな」
「なんでそう冷たくするのよっ! ウチの旦那様になったならもっと優しくしてくれないとヤダなぁ。って言ってもそろそろ帰らないとマズいか。今さらガッコをサボってても叱られはしないけど」
そう言ったチカの表情がまた曇ったように見える。確か兄弟がいたと思うが、そっちとの関係はうまく行ってるんだろうか。家庭内で孤立してるなんてことなければいいんだが。
オレはそんなことを考えながらいったんゲームを終了した。まだ帰りたくなさそうなチカは狩りに精を出している。
「なあ、オレは帰っちゃうぞ? それに公園には毎日来てるわけじゃないから明日は学校行けよ? もし行きたくない理由があるなら悩みぐらいは聞くけどな」
「悩みってほどのことはないからダイジョブ。単に目標なくてつまんないだけ。高校は今のままの成績でもいくつか選べるから問題ないよ。心配してくれてありがとね。レイちゃんっ」
「もしオークションが終わる直前に資金が足りなそうなら連絡くれれば追加で出すから遠慮しなくていいぞ? 目標がなくて稼ぐだけになっててつまらないのはオレも似たようなもんだから」
「うんっ! そういうやさしい男性に女は弱いんだろうなぁ。レイちゃんのこと好きになってもいい?」
「オレの残高に、じゃないのか? まあ社交辞令だとしてもほめ言葉だと思っておくよ。タヌキの頭装備、無事に落札できるといいな」
「そだねっ、応援してくれてるんだから何とか手に入れて真っ先に見せに行くね。どうせ夜遅くまで起きてるんでしょ? 仕事行ってないんだから」
「またそうやってグサグサと遠慮なくえぐってくるよな…… これでも夜更かしはあまりしないんだ。今の会社は多分辞めることになると思うけど、次もすぐ探さないといけないし、生活が乱れてると苦労するだろ?」
「なんでそんなに偉いの? ウチなんてもうダラダラでなんもやる気ないのに……」
「じゃあとりあえずなにか目標を決めて勉強でもしてみればいいじゃないか。塾へ通ってた時はかなりまじめで優秀だったんだから嫌いではないんだろ?」
「うーん、わかんない。パパとママが褒めてくれるからいい成績取りたかっただけかもしんない。ウチ自身は私立入りたいとか思ってなかったもん。仲いい子とも離れちゃうしさ」
「確かにそうだなあ。中学受験なんて考えたこともなかったから良くわからないけど、まだ子供のうちに環境をガラッと変えるのは結構大ごとだよな。それが原因でやる気なくなっちゃったのかもよ?」
「かもねっ! まあおかげで一番仲いい子とは今も一緒だよ。高校も一緒になれるといいけど無理かもしれないって言ってた。なんとかなるといいけどー」
「じゃあいい目標になるじゃないか。一緒に行けるように頑張んなきゃだな」
「でもサトは成績めっちゃ悪いから、さすがにウチがわがまま言っても両親が許してくれないと思うんだよねぇ」
「ええっ!? そっち!? わざと成績落として下位ランクの高校行くのもなんか違うしなぁ。その子に頑張ってもらうしかないのか……」
「サトは弟と妹がいるんだけど両親共働きだから、面倒を見ないといけなくてあんま遊びにも行かれないんだよね。だからたまにウチが遊びに行ってんのっ」
「なるほど、勉強できる環境でもないし塾なんてもってのほかってわけか。まあでも近所なんだから高校が別でも構わないだろ。高校生の放課後なんて時間たっぷりあるしさ」
「それはそうかもだけどさぁ…… あっ! そだっ、いいこと考えたっ! レイちゃんが先生になって勉強教えてくれたらいいじゃん! ここでなら弟たちを遊ばせられるしさー」
「なっ、何言ってんだ! それこそ変な噂になって通報事案だよ! しかも放課後だから夕方からだろ? 今もそうだけど目立って仕方ない……」
子連れが目立ち始める時間の公園で、女子中学生と話し込んでいるあの男はなんなんだろう、といぶかしむ周囲からの視線を感じ、オレは今すぐにでも走って帰りたくなっていた。




