6.同じ世界に
オレの家(この場合は実家のことだが)は女系家族である。男はオレと親父だけで後は全員女しかいない中で育った。
母さんにばあちゃん、姉が二人に妹が一人となれば、男性陣の肩身が狭くなるのは当たり前である。
だからと言うわけではないかもしれないが、子供のころから家事を叩き込まれていたオレは、炊事洗濯掃除だけでなく家の中のことを隅々まで気にするようになった。
それがあまり一般的でないと知ったのは休職直前のこと。男性の先輩にことの真相を聞かされて唖然としたもんだ。
『だからな? 男の一人暮らしなんて汚くて散らかっててだらしがなくて当たり前なんだあよ。けどお前のアパートってピカピカなんだってな。そりゃ彼女がいると思われて当然だろ。しかも期待してたはずの女の子がシャワー浴びるって言ってんのに花柄のバスタオルを用意するってのは間抜けすぎるぞ?』
『いや、バスタオルなんてなんでもいいじゃないですか。実家を出るときに余ってたもらい物か何かから選びもしないで適当に持って来ただけですし……』
『そこがまずダメなんだよ。彼女がいないとしてもだな? どっちみち母親の影がちらつくじゃねえか。まあ地雷男子だと思われても仕方ねえさ。しかも相手の理香子は結婚あせってるっぽいしな』
『それってオレには関係なくないですか? まったく被害者もいいとこですよ。おかげで最近はよく眠れなくて集中力にかけてて困ってるんです。こないだもミスして課長に絞られたし―― イテテ、胃まで痛くなって……』
『健康診断でちゃんと見てもらうんだな。あんまりミスしてると地方支社へ飛ばされちまうぞ?』
『はい、気を付けます……』
◇◇◇
「きゃはははははっー それってマジバナ!? レイちゃん先生ってばマジウケるんだけどっ! もしかしていまだに実家から野菜が送られてきたりしてるとか?」
「悪いかよ…… 東京は野菜がバカ高いからなあ。アパートも高いからあんな古くて狭いところから出ることもできないし…… いつまで笑ってるんだよ、まったく」
「ひぃーひぃー、あぁ苦しー そりゃ振られちゃうよ。ウチだっていいなって思った男子に彼女いそうとかマザコンっぽかったらやめとくもん。いいことないからね」
「だから誤解だってのに。ちゃんと話聞いてたか? だいたい花柄のバスタオルなんてどこの家にもあるだろ? 中野さんの家でも使ってるだろ?」
「チカだよっ! 中野さんなんて先生と生徒じゃないんだからさ。ウチもレイちゃんって呼んでいい?」
「ええっ!? だってまだ中学生じゃないか。大人のオレがそんな呼び方してたら事案だよ、事案!」
「通報しないから気にしないでいいってのに心配性だなぁ。んでバスタオル? 花柄のはおばあちゃんちで見たくらいかな。うちにはホテルみたいな白いやつと子供のとき使ってたキャラクターものしかないよ」
「そうなのか…… もしかしてタオルは会社名入ってるやつではない? 粗品でもらうようなやつな」
「ないない、近所の工事あいさつで貰うことはあるけど、そういうのはどこかへあげちゃってるみたいだね。ママは結構こだわり屋さんだからパパの仕事関係で揃えてるみたい」
「お父さんってホテルか何かの仕事してるんだっけ?」
「違くてインテリアコーディネートの会社をやってるの。ママはそこの元デザイナー? 建築士? そんなのだったらしいよっ」
どうにも住む世界が違い過ぎて想像がつかない。ウチは兼業農家で親父はバス会社の整備士と二足のわらじだ。
小学校の時にはいつも会社名の入った雑巾を持って行ってたから、忘れたくても忘れられないくらいには記憶に刻まれている。
大学へ進学する際には、そんな地方の粗末な経済圏が何とかならないものなのかに興味があり経済学部を選んだ。とは言え自分が変えていくなんて高い志があったわけではない。
あくまで興味があっただけで結局何も活かされず、就活で早々に内定の出た輸入雑貨を中心とした中小商社へと就職したわけだ。
そんなオレが中野さん、いや、チカへもっともらしいことを言っても響くわけがないだろう。
その証拠に、こうしてチカは悪びれもせず学校をさぼってゲームに夢中だ。もちろんそれはオレも同じことで、それくらい二人はこの世界にどっぷりつかっていた。




