4.頭と体
「ゴメンてー、悪気はなかったんだよ? ほら、ウチって正直者だからつい本音が出ちゃうだけなんだよねっ。でも昔話はこの辺にして急いでくれるとありがたいかな? もうあんま時間がないんだからさっ」
昔話を始めたのはどっちだよと言いたいところをぐっとこらえて、オレは言われるがままに320万という大金をチカへ振り込んだ。
「先生ってばなんでそんなにお金持ちなわけ? やっぱり大人パワーで課金いっぱいしちゃってんの? いくら現実が辛いからってあんまのめりこむのは良くないと思うよ?」
「たった今反省の弁を述べていた気がしたけど、さらにえぐってくるなぁ…… でも課金してるから金持ちなわけじゃないさ。もちろん金策はしてるけどね」
オレとチカはこの『|Reinbow Berth』と言うスマホゲームにはまっていた。基本的にはモンスターと戦うような冒険をしたり宝探しをするようなファンタジーな多人数オープンワールドゲームである。
だがこのレイバには他のゲームにはない特徴として、この世界で流通している消耗品類を対象とした先物市場があるのだ。どうやら出資企業の一つが証券会社であることが影響しているらしい。
というより、証券会社の利用者を増やす目的がありそうに思える。その証拠と言うわけでもないが、ゲーム内にある取引所の名称は実企業そのままなのだ。
オレはこの海辺の酒場で、プレイヤーやシステムが行っている海運の状況を眺めながら酒をちびちびやっている。その情報をもとに穀物と石炭の先物でそれなりに大きな額を儲けていた。
「なるほど、経済学部卒がこういうところで生きてくるわけだっ! なんかズルいことでもしてるんじゃなくて安心したよ。先月くらいにアイテム増殖バグあったじゃん? 運営から警告が出た後もやってた人たちはバンされたんだってさ」
「そりゃそうだろうな。修正するからそのアイテム自体に触れないようにとまで言われてたんだ。厳しい裁定が下されて当然だよ」
「ウチは運よくあの青バラの髪飾りを売っちゃったばっかだったから助かったよ。持ってたらどうしてたかわからないもん。このタヌキスーツには似合わないから換金しておいて正解っ!」
「そのスーツって確か頭装備もあったはずだな。それは持ってないのか? 限定ガチャだったけど人気もありそうだし誰か売りに出してないもんかねぇ――――」
興味が出たオレはオークション検索をしてみた。プレイヤーは戦利品やクエスト報酬などであぶれたアイテムを売買することができる。
その中でも期間限定ガチャで出た人気アイテムなどの高額品は他のプレイヤーへ直接売るのではなく、ゲーム内に用意されたオークションシステムを利用するのが一般的なのだ。もちろんそのほうが高値になりやすい。
「うわっ! 370万だってよ。終了まではっと―― あと四時間くらいしかないじゃないか。もしかして金が足りないって言うのはこのためか?」
「もちろんだよっ! 借りたお金を足したら全財産700万あるからきっと落とせると思うんだよね。昨日寝る前はまだ200万だったから余裕だと思ってたんだけど、起きたら300万になっててさぁ。もうムリかもって思ってたわけ」
「でもよくオレがレイバやってるってわかったな。ここに来たのも偶然か?」
「偶然っちゃ偶然かな。この公園って青陣地じゃない? ウチって青陣営だしここなら狩りでボーナスが付くから来てみたの。そしたらレイちゃん先生がいてスマホに夢中っぽかったからもしかしてと思ってさ」
「だからって後ろからこっそり覗き込むなんて褒められたもんじゃないな。それにあの言い方は誤解をまねきかねないから気を付けないとダメだよ」
「そりゃ誰にでも言うわけじゃないよーだ。それでウチに何してほしい? 体を使うことならなんでもダイジョブだから遠慮しないで言ってみてっ」
「だから言い方…… つまりフィジカル系ってことだろ? オレは戦闘なんてほとんどしたことないし、必要でもないから特に何もしなくていいよ。もし今後何かあったら助けてくれたら十分かな」
「なんかつまんなーい。オトナの回答って感じっ! じゃあ次のイベントの時にでもイベ限取りに行くの手伝ってあげるねっ」
「いや、イベントとか興味ないし。どうしても欲しいものは買えばいいだろ? 頭を使って稼げるのもレイバの醍醐味だからね」
「じゃ、じゃあ――…… えっと…… そだっ! 結婚してあげる!」
オレは今度こそ通報される危険を感じ、振り向きながら逃げるようにあわててベンチから立ち上がった。




