3.再会は苦い報告付き
レイちゃん先生か。ずいぶん久しぶりに聞いた響きだ。それはもちろんオレのことだけど、ほとんどの生徒は木浪先生と呼んでいた。
だが一部の女子は講師をあだ名で呼ぶことをやめず、大学生と言うこともあって強く言い返せず照れ臭かったことを思い出す。
オレの場合なら木浪零二だからレイちゃん先生ってわけだが、当人から聞くまで思い出すこともなかった。
その結果、不満そうだった少女の顔があっという間に明るさを取り戻す。聞いてみれば簡単なことだったが、言われないといつまでも気づけなかっただろう。
少女の名は中野チカ、オレが大学三年までバイトをしていた塾の生徒だった。つまり今は中学三年になったばかりってことになる。
「それにしてもたった三年なのに変わるもんだなぁ。これは変な意味で言うんじゃないけど、今はちゃんと女の子らしさがあるよ。あのころはみんな小さな子って印象だったからね」
「なんか遠まわしな言い方っ! オトナってこれだからヤダよ。もっと素直にかわいくなったとか女らしくなったって言ってくれてもいいじゃん!」
「でもオレ、不審者って通報されたくないし……」
「しないしない。そんでレイちゃん先生は仕事辞めちゃったの? 大学卒業はできたからしばらくはスーツで歩ってたんでしょ?」
「まあいろいろあって今は休職中、かな…… 大人って言うか社会人って大変だなってことを痛感してるとこだよ」
「そっか、先生も落ちこぼれみたいなもんなのかな。実はウチはさ、あんだけ勉強させられてたのに受験失敗しちゃったんだよね。K中だけじゃなくW大付属も落ちちゃって、そりゃもう両親にイヤミ言われまくって大変だったんだっ!」
先生、か。久しぶりにそう呼ばれたけど悪い気はしない。なんなら今から教職員を目指し直すのも悪くないかもしれない。
それにしても目の前の少女があの時の子供だとは。そりゃちょうど子供から大人へと変わっていく時期だから、当然見た目も大きく変わっていくのは当然だ。
だからと言って、同じ子がここまで変わるなんて目の当たりにしたことが無かったから驚いた。
確かに自分も久々に会った親戚から大きくなって、なんて定番のセリフを聞かされたことくらいはある。でもその時は社交辞令と言うかありきたりの挨拶だと聞き流したもんだ。
「えっ!? 中野さんって六年生の中でも優秀だったし、模試ではちゃんと結果出してたように記憶してるんだけど? オレは夏季講習まででバイト辞めたからそれ以降のことは知らないけど、成績はそうそう変わらないだろ?」
「なんだろね、受験直前になって急にやる気が失せちゃってさ。いい中学入って高校上がって大学行ってなんになるのかなとか。今考えてみれば飛ばし過ぎて疲れちゃってたのかも?」
「そっか、そりゃ残念だったね。でもまた高校で挑戦したらいいじゃないか。まだ三年次が始まったばかりだから受験対策は十分間に合うだろうし」
「でもママはもう名前書くだけで行ける程度の都立行けって言ってるし、パパはもう塾とか教育費かけたくないって言うの。あの人たちは成功者人生送ってきてるから、ウチが受験失敗したことが受け入れられないみたいだねっ」
そう明るく振る舞っているが、その表情には少し影が差したように見えた。どうやら家庭内での扱いはあまり良くないのだろう。
「将来やりたいこととか無いの? もしあるならそのためにできること、つまり進路選びはきちんとしておいたほうがいいと思うけどなぁ」
「レイちゃん先生はそこまで考えて大学まで選んでた? どこだったっけ?」
「高校までは地元の公立だよ。大学は…… 大きな声では言えないけど中の下ってランクのとこだね。学部は経済学部で自分で選んだけど、それでも親の影響が大きかったかな」
「それが今は公園で一人寂しくスマホゲーやってるなんてねぇ。進路選びは難しいってことがよくわかる実例だねっ」
無垢な少女らしい屈託なく容赦ない物言いに、オレはがっくりとうなだれた。




