37.暴露の果てに
大暴露事件から数日、いよいよ晃が呼び出される時が来た。ようやく宗太が保育園へ行ってくれたのだ。
「一回行けばしばらくは続くと思うから勉強できます。またお願いしますね」
「いやあ良かったよ。せっかく習慣づいてきたのに夏休みみたいなことがきっかけで成績が落ちる生徒は多いからね。オレも成果が出たらうれしいからよろしく」
「なんかレイちゃんてばすっかり先生に戻ってるね。うんうん、いいことだ」
「いいことなのかな? 先生と言っても勉強教えるだけだからなあ。学校だと生活指導とか保護者対応とかあるだろ? だから教職は目指さなかったんだ。もちろん学部で向き不向きもあるけどさ」
「じゃあ今から取るとか? ま、塾講でもいいけど向いてると思うよ。親身になってくれるし教え方も上手だし、あの頃も人気あったじゃない?」
「しょせんバイトだから気楽だったってのもあるかな。夏休みまでって決めてたから修羅場を見ることもなかったし」
「修羅場ね…… ウチの場合は飽きて投げちゃったって感じだけど、家の中は確かに修羅場だったかも」
「おっと、あんまりいい話題じゃなかったな、すまん。チカもそろそろ点数配分考えながらやらないとだけど、中間期末には対応しきれないからそこは自力で頑張ってくれ。学力テストはたぶん大丈夫なはず」
「うん、最近はケアレスミスの仕方とか、マークシートの記入欄をずらすとか考えながらやってるよ。そしたら自然に下げられるでしょ?」
「ま、まあそうだな…… オレも点数の下げ方なんて教えたことないし考えたこともなかったからうまくいくかわからないぞ?」
「最期は学校の雰囲気が良かったからって押し切ることもできると思うよ。特待とか無いのは残念だけど推薦は取れると思うから安心してよー」
相変わらず謎多き相談だけど、それが里美にはうらやましいようだ。
「チカちゃんは点数下げたくて仕方ないんだもねえ。あたしにはちょっと未知の世界だよ。なんでこう出来が悪いんだろ……」
「里美ちゃんの場合は今まで取り組んできた時間が足りないだけだよ。初めのころよりだいぶ良くなって、基礎は取れるようになってきてるだろ? 応用は経験が必要だから問題をいっぱい解くしかないね」
「そっかあ、やっぱり時間を作らないとダメだってことですね。宗太次第って感じだけどなるべく保育園行かせるように頑張ります……」
「完全に保護者だね。いっそのことネグレクトで児相に通報したら?」
「そしたら親と引き離されて自分で全部見ること確定になっちゃうじゃない? だから今のままでいいよー 少なくとも学校へは通えてるんだし、こうやって勉強教えてもらえるなんてありがたいよ。塾へ行ったら何万円もかかるんだからとてもムリ」
「その代金分の報酬としていい結果を報告してもらいたいな。さ、今日も頑張ろう」
そう言った矢先にチカへメッセージが入った。送信主は当然――
「サト? あのアホが話があるって言って来てるけどダイジョブ?」
「えっ!? アホって―― もしかして原口君?」
「もしかしなくてもそうだよ。こないだウチが余計なこと言っちゃったでしょ?」
「あはは、そんなの真に受けるほど自己評価高くないってばー」
「これだから無自覚系かわいい女子は困るよ。サトって結構男子の人気高いほうだからね? たまに相談されたりしてるけど告白されたことないの?」
「何度かはあるけど罰ゲームか何かだと思って断ってるもん。あたしはチカちゃんみたいにかわいくないし、男子と話すのも苦手だしさあ」
「でも今日の晃はちゃんと本気だから聞いてあげてよね。もちろんどうするかは好きにしていいけどさ」
「うん……」
こんな話をしているうちに晃がやってきた。どう見ても緊張していて両手の拳は固く握りしめて背筋もおかしいくらいに伸びている。
「えっと里美、さん? おれは―― 僕は森下さんのことが好きです。付き合ってください!」
「それってほんとにほんとなの? 二人でからかってるんじゃなくて?」
「マジです。本気じゃなきゃもっと気楽に言えたのに……」
「じゃあお友達からってことでもいい? あたし原口君のこと余り知らなくてチカちゃんと仲いい男子だなあくらいに見てたから」
「もちろん! やった! じゃあ名前で呼んでいいか? おれのことは晃で頼むよ。あとサークルのID教えてくれ」
「わかった、晃君ね。でもIDはムリ。あたしスマホ持ってないもん」
「えっ? そうなのか…… だからレイバできないんだな。残念だぜ」
「だから不便なんだよね。ウチが連絡してるのは家TELだもん」
「じゃあ家でもいいか。電話番号交換しよう。ノート借りるぞ?」
なんとなく急に彼氏面で生意気になった気もしなくないが、中学生の付き合いならこんなものなんだろうか。
彼女がいたことの無いオレには良くわからない光景が繰り広げられていた。




