35.問題児
夏休みに入り時間だけはたっぷりできた中学生たち、つまりここからは追込みの重要な期間と言ってもいい。
夏期講習で成績をあげる生徒も多く、そうするとサボっていたものは相対的に成績が下がっていき志望校選択へも影響すると言うわけだ。
それがわかっているからこそ頑張ってもらいたいのだが、チカは問題ないにしても里美と晃はそれぞれ問題を抱えていた。
里美が夏休みになったと言うことで、弟たちの面倒を見る時間が増えている。弟妹どちらもまだ保育園なので昼間は時間が取れそうなのだが家庭の事情でそうでもないらしい。
「晴美はいい子で保育園行くんだけどね? 宗太はあたしが学校休みだってわかってるから自分も休みたがって仕方ないの」
「そんなのダメだって言ってちゃんと連れていけばいいんじゃない? サトが送っていけば言うこと聞くってこともないわけ?」
「うーん、でもお母さんが無理しないで遊んでやれって言うんだよ。そりゃ自分はパートへ行っちゃうから関係ないけど、あたしだって勉強しないとねえ」
「それでも妹を迎えに行く時間までは大丈夫なわけだな? それならみっちりできる限りやるとしようか。宗太君はチカが見ててくれるんだろ?」
「さすがに一日中見てるのはムリくない? ウチって保育士じゃないんだし? すぐ走り回って逃げるから追いかけるの大変だよ」
「そうなんだよねえ。一時間くらいなら公園で遊べると思うけど、長くなると飽きてきてダメだし、しばらくしたら昼寝したくなってぐずりはじめるからさあ」
その宗太と言えば、相変わらずなぜかオレの足元で砂を盛り上げている。どうしてもオレの足を埋めたくて仕方ないのか?
「とりまなんとかして保育園に行かせないとどうにもならないね。行けばプールだってあるんだから行きたそうなものだけどね。別にいじめられてるわけじゃないんでしょ?」
「そんなこと言いだしたことないし平気だと思う。プールかあ。こう暑いと行きたくなっちゃうよね。なんで学校でプールの授業ないんだろう」
「屋外プールの学校はもうやらない方針だってね。盗撮とか熱中症とか問題多かったからじゃない?」
公園でぐだぐだと話していてもなにも始まらない。とにかく宗太が保育園に行ったときだけ勉強することにして、それ以外の日は渡した課題を少しでもこなすことを約束してもらった。
さて第二の問題児である晃だが、こっちは別の意味で深刻である。このまま勉強しなくても里美と同じ高校へは行かれるだろうと言う見込みがあるから余計だ。
「結局さ、頑張ったってチカと里美が同じ高校へ行かれそうにないんだろ? おれも流れで同じとこ目指すみたいになったけど無駄なら勉強したくねえよ」
「勉強自体は無駄じゃないでしょうに。自分のためにやるんだからね?」
「でもおれは大学行くわけでもないから高校行くだけ言って就職するんだぞ? どこでも同じってことになるじゃんか」
「でも高校によって就職先だって変わってくるんだし、少しでも給料高いとかブラックじゃないとか目指すことも悪くないよ」
「でも大学まで言ったあげく鬱になって休職してるやつに教わってもなあ。同じルートになったらどうすんだ?」
これは痛いところを突かれて言い返すこともできない。だがオレの場合はブラック企業だったわけではなく、運悪くブラック先輩に遭遇してしまっただけだ。
いや、見方によっては別に先輩がブラックなのではなく、オレが若い男として少し道を間違えたと言っていい。
だがここでチカが突如激高した。
「結局言い訳ばっかで努力しない理由をこじつけてるヘタレってことじゃん! それを言うに事欠いてレイちゃんのせいにするわけ? あったまおかしいんじゃないの!? アンタがもっと真剣に考えるべきなのは、サトのことが好きなのにそれを本人に伝えられないで、その友達のウチへグズグズ相談するしかないそのヘタレっぷりなのよ! ―――― あっ」
「な、なっ、なんてこと言いやがる! こ、この―― バカヤロー」
晃は一言暴言を叩きつけると、逃げるように走り去っていった。




