18.朝活夫婦
オレたち夫婦は早朝と夜には深海エリアへと通い、夕方は公園で家庭教師のまね事をするなんて生活を続けていた。
それから約二週間、いよいよその日がやってきて朝から落ち着かない。
「メンテ空けの十四時過ぎからいよいよだけど、学校は行けよ? 抜け駆けしないで待ってるからさ。夜からでも別に出遅れたことにはならないさ」
『うん…… でも気になるじゃない? ねねっ、先にインしていいからどんな感じかサークル送ってよ! そしたら学校に集中できると思うんだけどなあ』
「それでいいのか? 後からズルいとか言うなよ?」
『自分でお願いしといて文句言うとかサイコパスじゃないんだからさあ。いったいウチのことなんだと思ってるわけ?』
「えっと―― カカア天下的な?」
『そんな昭和みたいな言い方ってないよー! そりゃ主張は強いほうだと思うけど、自主性のある現代らしいデキる女って感じしない?』
「そう言われると確かにそうなんだけど、まだ中学生だからなあ。その表現を当てはめるには若すぎるだろ。でもきっと会社勤めとかになったらバリバリ働くキャリアウーマンになりそう」
『頑張りすぎて鬱になったりしてね』
「それは――」
『ごめんごめん、冗談が過ぎたね。でも最近明るくなってきたからホッとしてるんだー 久しぶりにあったときは顔に縦線入ってたからね』
「そう? 変わってきたと思うならきっとそれはチカのおかげだろうな。レイバやってても金稼ぐためってだけじゃなくて楽しむことができてるんだ。ありがとな」
『なに急に…… 照れちゃうじゃん。もしかしてその勢いで愛の告白しようとか思ってないでしょうね?』
「ないない、いくつ離れてると思ってるんだよ。えっと丁度十歳違いなんだな」
『その程度の差なんて誤差だよ、誤差。パパとママだって九歳違いだもん。ママのほうが上だけどね』
「へえ、あんまりご両親のこと話さないから知らなかったな。もしなにかため込んでることがあったらいつでも吐き出していいからな? オレも助けてもらってるんだからさ、お返しってわけじゃないけどチカの助けになれたらいいだろ?」
『うん―― でも今は時にない。ダイジョブダイジョブ。サトの成績のほうがよっぽど心配の種だよ。中間では点数上がってたみたいだけど』
「数学は相変わらず厳しいけど英語は大分良くなったらしいね。元が低すぎたってのはあるんだけど…… まあでも伸びてくれるとオレもやりがいがあるよ」
『あー、サトばっか褒めてさ。ズルいー ウチもほめてほしいのになあ』
「成績上げられないから勉強しないって言ってるの誰だよ…… まったく怒り方が理不尽なんだよなあ。面白いわ」
『怒ってないもん。ぜーんぜん怒ってなんかないんだからねっ! そろそろ学校行かないと遅刻になっちゃう。先生はこのままちゃんと来てれば内申はダイジョブって言ってた。だから成績もう少し落とさないとかな』
「おかしな悩みだけどまあ対策は考えてあるからさ。受験先が決まったら教えてくれよな」
『うん、頼りにしてるよ。旦那ちゃん』
そう言った後、メッセージ通知とともに大量のハートマークが送られてきた。まったく冗談でもこんなことされ続けてたらおかしくなりそうだ。
歳の差はともかく未成年は絶対にマズい。自宅へ上げるだけでも逮捕要件は満たしてしまうことわかってるんだろうか。
「それじゃ今日も頑張ってきてくださいな。お姫さま」
『そこは愛しのチカ、くらい言ってくれても良くない? まあおいおいでいいけどっ! それじゃ行ってくるねー』
「いってらっしゃい」
おいおいなんてないっての、と言おうと思ったが、今はこうして楽しく過ごせていればいいのかもしれない。機嫌よく学校へ行ってくれるんだから水を差すのも悪いし。
「さてと――」
オレは来たるべき十四時に向けてまず洗濯機をまわし、それからもう一度布団へもぐりこんだ。




