16.億万長者の夢を
『旦那ちゃんはさ、ウチが会いたいって時にちゃんといてほしいの! だから家事やるならやるで先に言ってほしかったな』
「そうだな、その点は反省してる。でも急に思いたっちゃったんだ。緊張してたからかな。チカは緊張してない?」
『うーん、緊張ってかワクワクのが強いし、早く知りたいってキモチが一番だよ』
「でもぬか喜びだったらどうする? オレ立ち直れないかもしれない」
『ダメでもさ、こんな刺激が味わえて楽しかったって思えばいいのよ。しかも今までみたいに一人じゃないんだよ? こんなうれしいことある?』
「それは確かに言えるな。一人だったら作業にしか過ぎないかも。それがこんなにワクワクするしドキドキするんだから。でもせっかくなら落ち込みたくねー」
『そしたらいっぱい慰めてあげるからダイジョブだよ。だから早くいこーよ!』
合流したオレたちは一緒に街の道具屋へと向かった。チカはワクワクが強いと言っていたが、街へついたところでオレはもう倒れそうに緊張している。
これがもし最上級レアだったら一撃で億だ。そうしたらダルマとおさらばするのも悪くないし、もっと広い家に拡張するのもアリだ。
「そんなのを古来日本では取らぬ狸の皮算用って言うんだっけな」
『でもタヌキならもうここに捕まえてるじゃん? お嫁さんとしてさ』
「あはは、なるほどな、なら皮算用じゃないってことになるかも? おっし、勇気出てきた!」
残念ながら鑑定の画面は当人しか見えないのでこの興奮の瞬間は共有できない。だから細かく実況することになるわけだ。
「じゃあ提出するぞ?」
『あー待って! ねえお願いだからそっち言っていい? 一緒に見たいよ』
「こんな時間に!? ダメに決まってるだろ。二十時に未成年連れ込んだら言い訳もなく完全にアウトだぞ?」
『じゃあじゃあじゃあ―― ウチのマンションのエントランスならどう? 親にも許可貰うからさ。密室じゃないければダイジョブでしょ? レイちゃんがなにもしなければいいんだしさ』
「なにもって…… 絶対におかしな真似はしないよ。でもエントランスならセーフなのか? まあ何か誤解されたとしても休職中だから影響はなさそうだけど……」
結局押しきれらるように、オレはチカのマンションへと向かった。とはいってもすぐ隣にあるから徒歩一分である。
どちらかと言うとチカがエレベーターで降りてくるほうが時間がかかり、オレは数分待たされる羽目になった。
「無理言ってごめんね。でもどうしても一緒に見たかったんだもん。ついでに聴きたいところあったからワーク持ってきた!」
「おっ、それなら誰かに見られても言い訳できそうだ。よし、それじゃ今度こそ行くぞ?」
「おー!」
二人でスマホを覗き込みながら道具屋のメニューを開く。そこから鑑定を選んで例の『泥』を指定っと――
提出してから答えが出るまでの時間はきっと一秒にも満たないわずかな時間だっただろう。なのにすごく長く感じる。
やがて――
<CONGRATULATIONS>
鑑定結果:レアリティ6 希少金属
七段階あるレアリティのうち、プレイヤーが判別できるのはレアリティ5まで。と言うことは鑑定できない段階でレア6以上は確定だ。
ただしその一段階の差は文字通り桁違いの差になる。そして今回は桁違いの低いほうが出てしまったのである。
「やっ! やったああ!? これって喜んでいいんだっけ?」
「何言ってんのよっ! 喜んでいいに決まってるってば! レア6だよ? レイちゃんすごいよ! さすがウチの旦那ちゃんだね」
「そっか、なんかうれしいよりもホッとしたなあ。レア6だと億は行かないけど一千万は固いかな。あとは欲しい人が複数いれば――」
「オークションでがっぽり!」
あまりの嬉しさにチカが抱き着いてきそうなところを何とか抵抗しながら、せめてもの喜びをと自販機のドリンクで祝杯を挙げた。




