14.久しぶりの先生
チカの友達は大人しそうで、チカとは方向性が違いそうな色白のぽっちゃりさんだった。ただしその眼は明らかに俺を怪しんでいる様子で、にらんでいるようにも見える。
「レイちゃんレイちゃん、この子はサトって言ってウチの大親友だからお願い。一緒の高校に行きたいのー」
「こ、こんにちは、森下里美です。ええっと―― 木浪先生って呼んだらいいですか?」
「ぷぷぷ、木浪先生だって。レイちゃんでいいんじゃない?」
「別にそれでも構わないけど呼びにくかったら先生でもいいよ?」
「あのう、変なこと聞きますけどチカちゃんとはどういう知り合いなんですか? まさか―― 怪しい関係とかじゃないですよね?」
森下里美は今にも防犯ブザーに手をかけかねない雰囲気である。なんでチカは事前に説明しておかなかったのか。
「もうサトったら変なこと考えてえっちなんだからさあ。レイちゃんはウチが小学校の時の塾講だよ。小学校のころ通ってたじゃない?」
「えっ!? あの時のってもしかしてチカちゃんが――」
「あーあー、待って待って、ええっと―― あの時からずっと遊んでたりしたわけじゃないよ。たまたまここで見かけて声かけたら休職中だって言うからさ。ゲーム一緒にやったりしてたわけ」
「だから余計に学校来てないわけ? チカちゃんこそ高校危なくなっちゃうんじゃないの? 勉強はともかく出席日数足りないと公立行けないよ?」
「そっか、それもあるからある程度は行かないとだね。明日から行くよ。来月は忙しくなるから今のうちに行っとかないとだし」
「そうだよ? いくら好きな――」
「あーあーあー、わかってるってわかってる! 好きだからって毎日ゲームばっかやってたらダメだよね。明日はちゃんと行くからもうその辺にしといて」
「そうだぞ? 勉強がどのくらいできるのかは知らないけど、出席日数も大切な評価の一つだからな。ええっと、森下さんが言うように学校は行くもんだ」
よほど学校のことについて触れられるのが嫌なのか、チカはうつむいてうろたえ気味である。それを見ながら森下里美はニヤニヤしながら勝ち誇った様子なのは気のせいだろうか。
「それでさ、森下さん? いい加減この男の子をなんとかしてほしいんだけど……」
オレの足元で退屈をこじらせた弟君が、盛んにオレの脚を踏んだり蹴ったりしていたのだが、とうとう砂をかけ始めてしまい困ったもんだ……
「ああ、ごめんなさい! コラっ宗太! 失礼なことしないでよ。お姉ちゃんが恥かくんだからね?」
「ありがとう…… それで十七時ごろには引き上げないとだろ? 早く始めよう」
「十八時までは大丈夫です。親が帰ってくるのが十九時過ぎなので。それと里美でいいですから」
「そう? じゃあ里美ちゃんって呼ばせてもらうね。あと念のためだけど、チカみたいにすぐ通報するとか言って脅さないように」
「えー、チカちゃんそんなこと言って言うこと聞かせてるの? ちょっとひどくない? あたしに勉強教えてくれるのもそうなの?」
「違う違う、そんなことないってば。レイちゃんはすっごくやさしくて親切だからさ、ウチがサトと一緒の高校行きたいから協力してってお願いしたら快く! ね?」
「そうだね、この件に関しては脅されてないから安心して。それにチカも学校行く気になったみたいだからホッとしてるよ。色々な意味で……」
「ちょっとそれってどういうこと? ウチがじゃまなわけ?」
そう言いながら防犯ブザーに手をかける。
「なるほど、そうやって脅してるんだ。チカちゃんってば素直じゃないんだから」
「あーもー、サトは余計なこと言わなくていいの! 宗太はウチが相手しとくからちゃんと教わるんだよ?」
こうしてオレは久しぶりに先生のまね事を始めることになった。
そして――
なるほど、確かに少々遅れているようだ。中学三年だともう高校受験は当然のこと、人によっては大学までを見据えて勉強に取り組んでいておかしくない。
しかし里美の学力は中学一年の数学ですでにつまずいていた。これは先が思いやられる。
オレはそんなことを考えながら、薄暗くなった公園を走り回るチカと宗太を眺めていた。




