第15話 説明しろって言われるのが一番面倒です
朝。
宿の一階が、やけに静かだった。
いつもなら聞こえる、
商人の声も、
冒険者の笑い声もない。
(……嫌な静けさだな)
階段を降りると、
入口の前に人が立っていた。
きっちりした服装。
無駄のない動き。
仕事で来ている人間だ。
(来たな)
「ノア殿ですね」
「はい」
「商業ギルドから参りました」
「……そうですか」
隣には、
神殿関係者らしき人物。
白い衣。
だが、装飾は控えめだ。
「見学を」
それだけ言った。
(もう面倒)
場所は、ギルドの奥の部屋。
円卓。
書類。
インク。
見るだけで、
疲れる。
「まず確認したい」
商業ギルドの男が言う。
「この街の物流を、
誰が管理している?」
「……してません」
即答。
空気が、止まった。
「誰が指示を?」
「してません」
「責任者は?」
「いません」
男は、
ゆっくり深呼吸した。
「……ノア殿」
「はい」
「あなたが中心人物では?」
(またそれか)
「中心、
ではないです」
「では、なぜ皆が
あなたを見る?」
「……楽だから、
じゃないですか」
男が、
一瞬だけ言葉に詰まる。
神殿側が口を開く。
「あなたは、
神の加護を
受けているのですか?」
「分かりません」
「祈りは?」
「してません」
「奇跡は?」
「起きてません」
事実だ。
少なくとも、
ノアの認識では。
「では、
この異常な供給量は?」
「……たまたまです」
「この価格安定は?」
「……結果です」
説明としては、
最悪だ。
だが、
嘘は言っていない。
沈黙。
重い。
ノアは、
正直に言った。
「俺、
説明するの
向いてないです」
「……」
「仕組みは、
勝手に回ってます」
「……」
「俺は、
楽な方を選んだだけで」
それ以上は、
出てこない。
商業ギルドの男が、
諦めたように言う。
「……理解は、
できませんが」
「でしょうね」
「否定も、
証明もできない」
「はい」
「……困りました」
それが、
一番の本音だった。
神殿の者が、
静かに言う。
「少なくとも、
害意は感じません」
「助かります」
「ただし」
視線が、
鋭くなる。
「注視は続けます」
「どうぞ」
止める理由がない。
結局。
何も決まらなかった。
契約もない。
命令もない。
禁止もない。
ただ一つ。
“面倒な存在”として
認識されただけだ。
夜。
宿の部屋。
ノアは、
ベッドに倒れ込んだ。
「……やっぱり」
天井を見る。
「説明って、
一番面倒だ」
殴り合いの方が、
よっぽど楽だろう。
でも、
それは選ばない。
面倒だから。
この日。
ハブリスは、
正式に何者でもないまま、
“無視できない街”になった。
ノアもまた、
何も肩書きを持たないまま、
“無視できない人物”になった。
それが一番、
厄介で。
そして一番、
ノアらしい立場だった。
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