第16話 人が増えると、面倒も増えるらしい
最近、街がうるさい。
物音じゃない。
人の気配だ。
朝から晩まで、
誰かが歩いている。
誰かが話している。
(……前は、
こんなじゃなかった)
宿の一階。
席が足りない。
「すみません、
相席いいですか?」
「どうぞ」
ノアは、
断る理由がなかった。
理由がない、
というのは面倒だ。
「最近、
人増えましたね」
相席の男が言う。
「そうですね」
「仕事も多い」
「……それは、
いいことでは?」
「まあ」
男は、
少し言い淀んだ。
「住む場所が、
足りなくて」
(来たな)
街を歩く。
空き地は、
もう空いていない。
仮設の家。
増築された建物。
路地に置かれた荷物。
「……狭いな」
これは、
純粋に面倒だ。
「ノアさん!」
今度は、
怒った声。
露店の店主だった。
「冒険者が、
勝手に通路使ってます!」
「荷物が邪魔で、
通れないんです!」
言い争いが、
あちこちで起きている。
(……増えすぎたな)
ギルド。
掲示板の前で、
冒険者同士が揉めている。
「先に受けたのは俺だ!」
「いや、
紙を貼ったのは俺だ!」
受付は、
完全に疲れ切っていた。
「……秩序、
追いついてないな」
ノアの感想は、
それだけだ。
昼。
リリアとバルドが、
揃ってやってきた。
二人とも、
珍しく疲れた顔をしている。
「……問題です」
「でしょうね」
ノアは、
先に答えた。
「人が増えすぎました」
「住居が足りません」
「仕事の線引きが、
曖昧です」
「トラブルが、
増えています」
報告は、
止まらない。
(聞くだけで、
面倒だ)
「どうします?」
リリアが聞く。
ノアは、
少しだけ考えた。
ほんの、
少しだけ。
「……勝手に
増えたんですよね」
「はい」
「なら」
ノアは、
椅子にもたれた。
「勝手に
整理してください」
リリアとバルドが、
同時に固まった。
「ただし」
ノアは続ける。
「ルールは三つだけ」
「三つ?」
「増やさない」
「……?」
「面倒な手続き、
作らない」
「……?」
「揉めたら、
楽な方を選ぶ」
それだけだ。
沈黙。
次に、
バルドが口を開いた。
「……最低限、
区画整理は必要です」
「どうぞ」
「住居区と、
商業区」
「いいですね」
「冒険者宿の集中配置も」
「楽そうです」
話が、
勝手に進み始めた。
夕方。
街の各所に、
簡単な掲示が貼られた。
【仮区画案】
【住居/商業/作業】
「……早いな」
ノアは、
他人事のように思った。
夜。
街の喧騒は、
少しだけ落ち着いた。
まだ問題はある。
だが、
殴り合いは減った。
宿の部屋。
ノアは、
ベッドに腰を下ろす。
「……人が増えると」
独り言。
「戦わなくても、
面倒だな」
これが、
街を持つということか。
できれば、
持ちたくなかった。
この日。
ハブリスは、
初めて“内部問題”に直面した。
外敵ではない。
陰謀でもない。
ただ、
人が増えた結果だ。
そしてノアは、
それが一番
厄介だと知った。
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