第二話 精霊界へ行く前に転移者を見つけました
私の発言に影とアルデーヌが固まる。
リュミエールとクソカスは何も言わずにじっとしている。
「転生……ではありませんが、王女殿下は転生者なのですか?」
「そう」
「え、ええ!?王女殿下が転生者!?マジですか!?うわー!同じ世界の仲間がいて嬉しい〜!!」
影は私の手を上下に乱暴に振り下ろす。
元気だな。
「あなたは転生者じゃないの?」
「私は転移者ですよ」
軽いノリで返すノリは、肝の座り具合がよく分かる。
どうやらかなりポジティブで元気な人だったんだろう。
「私がこの世界に来た経緯をお話いたしましょう!!とくと聞くがいい!!」
◇◆◇
私は前世では社畜でした。
楽しみにしているものもなく、ただ会社のために会社に振り回される、会社のための捨て駒。
なんでこんなブラック企業に就職したのかわからない。
どうして辞職しないのか。
そんな言葉はあの会社には存在しない。
私は疲れ切って玄関で倒れるように眠ってしまった。
目を覚ますと、そこは天国のような空間だった。
「……ここは?」
『ここは天界だ』
私の目の前に、椅子に座った偉そうな……。
まるで部長のような若い人がいた。
「あなた誰?」
『私は神だ』
「あっそ」
『反応薄っ』
神とか髪とかどうでもいいからとっとと返してほしい。
こんなことしてる場合じゃないんだ。
仕事しなきゃいけないんだから!
「早く帰してください」
『お主、今の生活で満足しているのか?』
「してます、早く家に帰してください」
『本当か?』
「本当ですから早く帰してください!!出社しないと首が飛ぶんですよ!!」
『明らかに社畜の発言!!』
私は正座をして、地面に何度も頭を叩きつけた。
こうでもしないと返してもらえないから。
「お願いします帰してくださいお願いします帰してくださいお願いします帰してくださいお願いします帰してくださいお願いします帰してくださいお願いします帰してくださいお願いします帰してくださいお願いします帰してくださいお願いします帰してくださいお願いします帰してくださいお願いします帰してくださいお願いします帰してください」
『怖い怖い怖い!!私はお主を地獄のような生活から解放してやろうと言っているのだぞ!?嬉しくないのか!?』
「出社させてください!!」
『話を聞け!!』
「出社して部長と課長の靴舐めないといけないんです!!」
『その会社大丈夫かよ!?』
神の叫びが、天界のふわふわした雲みたいな床に響き渡った。
私は正座のまま頭を地面にコツコツ叩き続ける。
神の顔がどんどん引きつっていく。
部長に「残業代出ない」って言われた時の私より、こいつの顔色悪いかも。
『と、とりあえずお主に異世界転移させてやろう』
「現実帰還させてください」
『無理』
神は指を鳴らして私を異世界へ飛ばした。
目を覚ますと明らかに異世界の野原にいた。
私は空に向かって叫んだ。
「クソ神!!今すぐ出社させろぉぉぉぉおおお!!ボイコットは趣味じゃねぇんだよぉぉぉおおお!!」
◇◆◇
死ぬほどドン引きしている私達をよそに、話を終わらせた影。
社畜ってこんなに怖いんだ。
明らかに洗脳されてる人の行動で怖すぎる。
「で、王宮騎士団に保護されて、影になりました」
まあ、だいたい状況は把握できたけど、社畜が怖いと感じた。
「今までの話、リディール王女殿下は理解できたのですか?」
アルデーヌが訊いてきた。
おっと、まずった。
アルデーヌには転生の話をしていない。
これを気に話しておくか。
「アルデーヌ、私はこの世界の人間じゃないの」
「……え?」
「私は彼女と同じ世界から、魂だけ転移してきた存在なの」
アルデーヌは信じられないという顔でうつむいている。
「つまり、全くこの世界と関係ないあなたが、俺達のために奮闘していた……と」
流石に拒絶されたかな。
そう思ったのに、アルデーヌは私の手を優しく取って微笑んだ。
「本当にあなたはお人好しですね」
「…………」
「他の世界から来たあなたが、あなたとなんの関係もない人を何十人も何百人も救った。それはすごいことですよ」
その言葉に胸が痛くなる。
関係なくなんてない。
こんな世界を作ったのは私なんだから。
「この世界は、私が作った物語の世界なの。あなたが異端児なのも私のせい。だから感謝なんてしないで」
「いえ、あなたがどれだけ自分を卑下しようと、俺は感謝し続けます。俺を不幸にしたのがあなただとしても、幸福にしてくれたのも他でもないあなただからです。……あなたが本物のリディール王女殿下じゃなくでいい。だって、俺にとってのリディール王女殿下はあなただけですから」
「……ありがとう」
何だか照れ臭いな。
重い空気が消えていく。
しばらくすると影は手を叩いた。
「さて、リディール王女殿下。精霊界に行くのですか?」
「うん、行かないと呪いが解けないからね」
「では私も同行いたします」
「いいの?」
「はい、あなたを守ることが、私の仕事ですので」
なんだろう、すごく仕事に深い意味を感じる……。
◇◆◇
私達は誰にも気づかれないように、王宮の裏にある塔に向かった。
塔に入ると、そこは埃っぽくて、長い間誰も出入りしていないことがわかった。
昼なのに光があまり差し込まない塔は、不気味としか言いようがない。
「何だかアルデーヌのいた塔に似てるね」
「あなた螺旋階段だけ見て言ってるでしょう」
何でバレたんだろう。
それより、足元が暗くて危ないな……。
リュミエールが私の気持ちを察してか、すぐに光の玉を魔法で出した。
「ありがとう」
『造作もないわ』
ツンデレだなー。
そんなことを思いながら、私は階段を登った。
「そういえばさ、影の名前は?」
「私の名前ですか?玲奈です」
「玲奈……?」
玲奈……。
友達にそんな名前の子がいたような気がする……。
まあ、玲奈ってよくある名前だし、別人だな。
「リディール王女殿下と玲奈殿がいた世界はどんなところだったのですか?」
アルデーヌが訊いてきた。
どんなところって訊かれてもなぁ……。
玲奈も返答に困っているようだ。
「うーん、魔法もなくて、貴族社会みたいな位もない世界?」
「……想像できません」
「そりゃそうだよ。アルデーヌはこの世界の人間なんだから。私や玲奈からしたら、この世界がありえないことだらけなの」
「そうですね……。魔法の存在はあるけど使えない。そんな世界でした」
アルデーヌは首を傾げた。
まあ、納得できないよね。
存在してるのに使えない。
なんて複雑なこと、すぐ理解するのは難しいだろう。
「ここは私が作った物語の世界って言ったでしょ?向こうの世界から見たら、この世界は本の中の世界なの。魔法は本の中のでしか存在してなくて、私達の世界には存在してなかったの」
「なるほど……。精霊達はその世界のことを知っているんですか?」
『いいえ、私達もこの世界で生まれた存在だから、他の世界は知らない。ただ、リディールがその世界の人間でないことは知っていたわ』
リュミエールが淡々と話す。
それに、ショタ姿のクソカスもうなずく。
だからアルデーヌにカミングアウトした時に無反応だったのか。
『精霊や竜は魂を見ることができる。だから我輩もリュミエールも知っていた』
やばい、私の契約精霊と竜がスパダリすぎる。
そんなこんなで、話していたら精霊界に繋がる扉のところについた。
扉は淡く光り輝いていて、薔薇のようなものが巻き付いている。
「これが精霊界への扉……」




