第七話 呪いをかけた人にも手を差し伸べたいです
「……神っ!!え?天使??」
『リディール?言い過ぎよ?』
「アマテラスってもしかしてリュミエールのことを言ってるのかな??リュミエールってフランス語で光って意味だし、私の命名に狂いはなかったってことかな??いやー、才能だわー。それより美形すぎない??」
思わずオタクの語りをしてしまうほど、リュミエールは美しかった。
リュミエールは恥ずかしそうに頬を赤らめながら言った。
『リディール、黙って』
「なんで?騒いでないよ?」
『恥ずかしいの!もうっ!』
はー、可愛い。
ファンサなの?
無意識のファンサなの?
小さい精霊の姿も可愛かったけど、大人っぽくなると最高だなオイ。
『おい、この変態をどっかへ連れてけ』
『あなたがどっかにやってよ!私がやったら逆効果でしょ!それに、竜も人型になれるでしょ?』
『仕方ないな』
クソカスはどんよりした霧に包まれた。
え?
竜も人型になれるの?
クソカスは人型になり、背丈は私と同じくらいになった。
霧が晴れるとそこにいたのは、魔王のような雰囲気をまとうショタだった。
「……竜人ってみんなショタになるの?」
『貴様が我輩の尻尾を切り落としたから、積み重ねていた年がなくなったのだろうが!』
積み重ねた年がなくなった?
どういうことだろう。
首をかしげていると、リュミエールが私に解説をしてきた。
『竜の尻尾は年齢を象徴するものでもあるの。尻尾が短ければ生まれて間もない、長ければ長生きしている象徴なの。切り落とされたら、切られた尻尾の長さの分だけ若返る』
「へー、ってことはその間に高めた魔力もなくなるの?」
『理解が早いわね。そういうことよ』
あれ?
そういえば、思ってたのと違う竜人を見て正気に戻ったのか、リュミエールを見ても平気になったな。
まあいいか。
「竜と精霊は性質が似てるって言ってたよね?なら、精霊もどこかを切られれば生きてきた年を削られるの?」
『精霊は羽を傷つけられれば、生きてきた年と記憶を失うの』
「記憶まで?そこが竜と違うところなんだ」
この設定に関しては意外とありきたりなのかな?
大事なところを失うと、それに見合った代償を伴う。
うん、これに関しては普通だな。
「まあ、クソカスの尻尾に関しては自業自得ってことで」
『この野郎』
「とりあえず、リュミエールにはメイド服着て護衛してもらってもいい?まだ呪い解けてないし、エステリーゼを慕ってた輩が何か仕掛けてくるかもだしね」
リュミエールは少し嫌そうな顔をした。
クソカスの人間体では不審に思われてしまう。
それを理解していたリュミエールは渋々うなずいてくれた。
それからしばらく、呪について話していた。
「王女殿下、少しよろしいでしょうか」
扉がノックされ、メイドの声が聞こえてきた。
「どうしたの?」
「スパール様がお越しです」
「あー、やっぱり来たか……」
『行くのか?』
「行くしかないよねー。準備するから、応接室に通して」
「かしこまりました」
メイドの足音が遠ざかっていくのを確認して、私は紙紐を解いた。
少し緩んでたから、直していこう。
『リディール、結んであげようか?』
「いいの?」
私はリュミエールに紙紐を渡した。
ドレッサーの前に座ると、リュミエールが右側に立って、三つ編みをし始めた。
「上手いね」
『前に契約していた人の髪型が、三つ編みのハーフアップだったからね』
懐かしそうに話すリュミエールの顔には、少し寂しさが混ざっている。
「……どんな人だったの?」
『明るくて、優しくて、面白い人だった。恋には一途な女の子だったんだけど、本人にそれを伝えることもできずに、事故で亡くなってしまったの』
なんだか切ない話だ。
二人は両思いだったのかな……。
両思いだったら、本当に悲しい話だ。
「ごめん、思い出させちゃって」
『気にしないで。さ、できたわよ』
「ありがとう。それじゃあ行こうか。クソカスは部屋で待ってて」
『あいわかった』
私は部屋を出た。
スパール……。
カエルコワイ夫妻に呪いの説明をしている時、その場にいなかったから話を聞きに来たのだろうか。
私は応接室の扉をノックした。
「どうぞ……」
扉を開けると、ソファーに泣き腫らした顔をしているスパールがいた。
私は向かいのソファーに座って、メイドに紅茶を出させた。
「スパール様、大丈夫ですか……?」
「…………エステリーゼは?」
「独房に入っております。刑は決まっていません」
「そうですか……」
刑について、嘘は言っていない。
ただ、彼は自分の妹が何をしたのか分かっているだろう。
だから、図々しくも「刑を軽くしろ」なんて言わない。
彼女の刑は、恐らく……。
「呪いの解呪方法がそれしかないならば、国王夫妻はそのような判断をするでしょう」
「…………では、他の解呪方法が見つかったのならば、エステリーゼは生きて家に帰ってこられるのですか……?」
酷く悲しそうな顔で、私を見るスパールの声は震えている。
「それは……」
「俺がエステリーゼの代わりに罪を被れば、エステリーゼは解放されるのでしょうか?エステリーゼに呪いの知識を与えた魔女を連れてこれば、エステリーゼの刑は軽くなるのでしょうか?」
「スパールさ――」
「我がカエルコワイ家が国に貢献すれば、エステリーゼを返してもらえるのでしょうか?」
「落ち着いてください!!」
無我夢中で妹を返せと言うスパールは、私の声なんて聞こえてないみたいだった。
何をしたって罪は変わらない。
どれだけ国に貢献しようと、魔女を連れてこようと、スパールが罪を被ろうと、エステリーゼがやったことは覆らない。
「リディール様、どうか……。どうか妹を助けてください」
「…………酷なことを言いますが、極刑を免れたとしても、彼女が家に帰ることはないかと……」
私が言うと、スパールは目から涙を流し始めた。
その姿に胸が痛む。
「エステリーゼ様が召喚した竜によって、王宮の鍛錬場は破壊されて、大怪我をしたアルカお兄様が回復魔法をかけても目覚めない状況にあります。毒や呪いだけなら、刑はマシだったでしょう」
アルカは変わらずに目を覚まさない。
他に死人が出なくてよかったけど、私が魔力の開花をしなければ国が滅びていただろう。
でも……。
このままじゃ、寝覚が悪いよね?
「スパール様、もしもあなたが手を貸してくださるなら、なんとかしてあげられるかもしれません」
「……え?」
「それじゃあ、今夜私の部屋に来てね?」
「夜這いしろと?」
「君もろとも処刑してやろうか?」
「ごめんなさい」




