第六話 呪をかけた人は違和感を感じたあの人でした
そう、犯人はエステリーゼだったのだ。
あの日、王宮魔法師団の塔に行こうとした日に感じた違和感はこれだったんだ。
「おかしいと思ったんです。人はそんな簡単には痩せない。そして何より、どうやってそばかすを消したんですか?髪はケアしたんですか?あなたが?」
エステリーゼはめんどくさがりだったはずだ。
それが、急に美意識に目覚めた。
年頃の令嬢ならばありがちなことだが、ここまで急激に綺麗になることはない。
「あなたと親しくしていたとされる魔女の元へ行って、事情を聞かせてもらいました。どうやら、美容に関すること、それと呪いについて相談をされていたそうですね」
「……っ」
「……なぜ、私に呪いをかけたんですか?」
私が訊くとエステリーゼは小刻みに震え出した。
「あ、あなたが悪いのよ!潔く死なないから!!」
潔く死なない……?
どういうことだ?
リディールに自殺願望はないはずだけど……。
「あなたが噴水に落ちた日、私が渡した水に毒を混ぜたのになぜ死なないの!?」
初耳すぎるんだけどー。
ていうか……。
えぇ?
あ、なるほどね。
今まで謎だったことが繋がっていくわ。
リディールは瀕死にはなったんだね?
だから私が転生したのね。
オッケー理解。
「なぜ毒を盛ったんですか?」
「ずっと邪魔だったからよ!王女という地位にあぐらをかいて!何にもしなかったくせに――」
私はエステリーゼをグーで殴った。
派手に吹き飛んだエステリーゼは困惑した様子で頬を抑えている。
「王女という地位にあぐらをかいていた?こっちも色々と葛藤があったんですけど!?そんなことも知らずに自分の一存で王女に呪いをかける!?いい加減にしてください!ぶん殴りますよ!?」
「もう殴ってますよね!?」
「あなたのその行動が、あなたの家族にどれだけ迷惑をかけるか考えなかったんですか?」
私が言うと、エステリーゼは周りを見渡した。
私の後ろには口を押さえて絶望するエステリーゼの母、呆れたようにこの様子を見るエステリーゼの父、まだ現実を受け入れられないスパールがいる。
「あなたは私に呪いをかけただけではありませんね?」
「…………」
「王宮に竜を召喚したのもあなたですよね?」
「…………」
エステリーゼはうなずいた。
罪を認めたな。
「王女殿下」
「……詳しくは城で訊くわ。連れて行きなさい」
エステリーゼは無気力に騎士達に連行された。
彼女の両親に事情を話さないとな。
「王女殿下……」
「話は聞いていましたよね?詳しいことをお話しします」
◇◆◇
私はエステリーゼがしたことを、彼女の両親に話した。
私に毒を盛ったこと、上位の禁呪を私にかけたこと、王宮に竜を召喚したこと、この呪いを解くためにはエステリーゼを殺さなければならないこと。
全てを嘘偽りなく話した。
「そんな……じゃあリーゼは……」
「な、なんとかならないのですか?」
「できません。毒を盛ったことはまだしも、呪いをかけたことや、王宮に竜が召喚されたことまでは庇えません。竜の召喚により、第一王子のアルカ・ミヤ・メッチャツオイが大怪我を負いました」
申し訳ないけど、これに関してはどうもできない。
娘を溺愛していたカエルコワイ夫妻は、この事実を受け入れられないだろう。
「せめて、解呪方法が術者を殺すものじゃなかったらな……」
その呟きは誰の耳にも届かずに、空気中に溶けていった。
◇◆◇
「だーかーらー!術者を殺さずに解呪する方法を考えてって言ってんの!頭悪いな!クソカスは!」
『貴様は我輩の扱いが雑だ!もう少し労われ!』
「絶対やだ!お兄様殺したことはまだ恨んでるから!」
『終わったことではないか!』
「終わってねーよ!まだ目を覚さないんだから!」
『それは我輩のせいではない!』
「お前のせいだよバーカ!!」
『ちょっと、あなた達またやってるの?』
私達にそう言ってきたリュミエールはかなり呆れ顔だ。
エステリーゼが王宮に連行されて、私も追うように王宮に戻った。
エステリーゼを殺さずに解呪をする方法をクソカスに訊いたんだけど、休ませろの一点張り。
だからこうして口喧嘩に発展したのだ。
「リュミエール!!聞いてよ!!」
『リュミエール!!聞きたまえ!!』
『二人同時に言うのやめてくれないかしら』
「クソカスが解呪の他の方法を探して欲しいって言ってるのに話聞いてくれないんだよ!?どう思う!?やっぱりクソカスって名前はピッタリだよね!!」
『リディールが我輩の扱いをちゃんとしてくれぬのだ!!我輩だって疲労は溜まるのに!!少しは休ませてやれと言ってくれ!!』
『一緒に言うのやめてくれないかしら』
私はクソカスを睨んだ。
クソカスも同じように私を睨んだ。
「普通に主人の言うことくらい聞いてくれない!?」
『貴様は使い魔を丁寧に扱え!竜との契約なんてありがたいものなのだぞ!?』
「知らねー!そんなこと知らねー!不可抗力での契約だから敬わなくていいよね!?」
『なぜそうなるんだ!!いい加減にしないと生身で竜の巣にぶち込むぞ!』
「ほぉう?やれるもんならやってみなよ!こちとら並外れた魔力があるんでね!」
『ぐぬぬぬ……っ!大体貴様は――』
『うるっさーい!!』
リュミエールの叫びによって、場は一瞬静まり返った。
黙って見守る役のリュミエールが役割を放棄した。
『あなた達二人共うるっさいのよ!どっちもどっちだし!!クソカスに関してはアルカを殺したんだからリディールの言うことくらい聞きなさい!!』
『……はい』
『全くもう!』
いじけてるクソカス可愛いなオイ。
小さくなったクソカスは元々可愛かったけど、いじけるとさらに可愛いな。
「そういえばさ、結構前に上位精霊は姿を変えられるって本で読んだんだけど、リュミエールはできるの?」
『ええ、動物とか色々なれるわよ』
「人間は?」
『もちろんなれるわ』
「やってみてよ!」
リュミエールはなぜか一瞬微妙な顔をした。え?
そんな顔する?
よっぽど嫌なのかな。
『いいけど、騒がないでね』
「……?うん」
リュミエールは光を放って姿を変え始めた。
手のひらサイズだったリュミエールは大きくなり、私の身長を超えた。
光が収まって、見えたリュミエールの姿は麗しかった。




