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第四話  国を変えたい人の意見も余すことなく聞きたいです

リディールの記憶と、私の前世の孤独が、胸の中で混ざり合う。


「私も、前世で家族を傷つけて、自分を愛せなかったし愛されなかった。誰からも見てもらえなくて、ただの影みたいに生きてた。でも、それでも私は変われたんだ。だからあなたも、シリルさんの分まで生きて、誰かを守れるようになれるよ。革命じゃなくてさ」


アズルクは黙って、私の言葉を聞いていた。

やがて、彼は苦笑いを浮かべる。


「嬢ちゃん、随分と熱いな。まるで、シリルみたいだ。あいつはいつも、そんな風に俺を説教してくれたよ。『アズルク、お前はもっと優しくなれよ。世界はそんなに悪いもんじゃない。人と向き合えよ』ってな」


私はアズルクの言葉に、思わず息を飲んだ。

シリルさんの言葉が、まるで今ここにいるみたいに響いてくる。


『アズルク、お前はもっと優しくなれよ。世界はそんなに悪いもんじゃない。人と向き合えよ』


シンプルで、でも心に染みる言葉。

きっと、シリルさんはアズルクの人生で、唯一の光だったんだろうな。

前世の私も、そんな光を求めて、ただオタク趣味に逃げ込んでた。

誰かに「もっと優しくなれよ」「もっと人と向き合えよ」って言ってほしくて……。

でも誰も言ってくれなくて……。


「シリルさん、きっと今もあなたを見守ってるよ。だから、復讐じゃなくて、優しくなる道を選んでよ。父さんを殺しても、シリルさんは喜ばない。あなたが笑える世界を作ってくれたら、それで十分だと思う」


私はそっと、アズルクの袖を掴んだ。

リディールの細い指が、彼の荒れた布地に触れる。

アズルクは私の手を、驚いたように見下ろした。

その瞬間、外から慌ただしい足音が聞こえてきた。

扉が勢いよく開き、数人の革命派の男達が飛び込んでくる。

みんな息を切らして剣を握り、顔は青ざめている。


「アズルク!ヤバいぞ、王宮の騎士や魔法師団が動き出した!拠点がバレてる!」


一人が私を見て、目を細めた。


「この嬢ちゃん、まだ生きてんのか?殺すように命令されてただろ!」

「……まだ殺さない」

「あー、クソッ!なら、人質として連れてくぞ!」


アズルクは立ち上がり、私を庇うように前に出た。


「待て、こいつは……ただの巻き添えだ。家に帰す」


男の一人が苛立ったように舌打ちする。


「甘いこと言ってんじゃねぇよ!革命のためだ、その嬢ちゃんを人質として連れて逃げるんだよ!」


部屋が一気に緊張に包まれる。

この人達も、アズルクと同じように、傷を抱えてるんだ。

革命派は、絶望の集まり。

そう知ったからには、みんなを救いたい。

なら、今ここで止めるしかない。


「待ってください!!」


私は立ち上がり、声を張った。

王女らしい、凛とした声で。

男達が一斉に私を睨む。


「何だよ、このガキ。黙ってろ!」

「いいえ、聞くべきよ!革命なんて、誰も救わない。貴族の腐敗を壊したって、平民の苦しみが消えるわけじゃない。あなた達だって、きっと家族や友を失って、悔しい思いをしてるんでしょう?」

「だから何だ!」

「私が変える!」


私の言葉が、部屋に響き渡った瞬間、男達の動きがピタリと止まった。

剣を握った手がわずかに震え、苛立った視線が私に集中する。

アズルクが、私の肩にそっと手を置いた。

庇うような、でも信じるような温かさ。


「嬢ちゃん……何を……」


私は深呼吸をし、胸に手を当てた。

リディールの王女としての誇り、そして前世のヒキニートが、ようやく手に入れた勇気が、そこにあった。


「あなた達が革命派に入った理由を聞かせて。きっと、みんな違う痛みを抱えてるんでしょう?家族を失ったり、貴族に踏みにじられたり……。私も知ってるよ。そんな絶望を」


男の一人が、鼻で笑った。


「 何の戯言だよ?ガキが、俺達の苦しみをわかったつもりか?」

「わかってるつもりじゃない」


部屋の空気が、わずかに緩んだ。

最初に口を開いたのは、若い男だった。

剣を握る手が白く、目には怯えと怒りが混ざってる。


「俺……の妹が、貴族の馬車に轢かれて死んだんだ。全部向こうが悪いのに、『平民の命など、安い』って吐き捨てられて、それきり。笑わせるな……!妹の夢は、色んな人を救える医者になることだったのに!」


次に、隣の男が呟くように続けた。


「俺の親父は、下級貴族の借金取りに追われて自殺した。ちゃんと返した借金を、あとから利子もつけろって……!『平民の分際で、俺たちに逆らうな』ってよ。親父はただ、家族を守りたかっただけなのに!」


他の男たちも、ぽつぽつと語り始めた。

失ったもの、奪われたもの。

革命の炎の下に隠された、ただの人間の悲しみ。

私は彼らの言葉を、一つ一つ胸に刻んだ。

妹の夢、親父の無念……。

それぞれの物語が、革命の炎を燃やし続けていた。

部屋の中には嗚咽のような息遣いが広がる。


「嬢ちゃん……なんでそんな目で俺達を見るんだよ……」


若い男が、剣を床に落とした。

カラン、という音が、静寂を破る。


「お前、本当に俺たちの苦しみを分かってんのか?ただの貴族のボンボンじゃねぇのかよ?」

「うん。私も、ただ一人で抱え込んでいたことがあるの。だから、あなた達の気持ち、痛いほど分かるの。妹さんの夢を、親父さんの無念を、絶対に無駄にしない。この腐りきった国を、少しずつ変えていくよ」

全員が私を見て、信じられないという顔をしている。

「見ててよ。異端児差別だって、私が変えたんだ。早く魔法を使える子達が、笑えるようになった。あなた達の痛みも一緒に、変える」


男達は、互いの顔を見合わせた。

怯えと怒りが、わずかに溶け始める。

希望の欠片が、炎の隙間から覗く。

アズルクが、ゆっくりと頷いた。

その瞬間、外から轟音が響いた。

壁が崩れ、煙が舞う中、騎士団の団員が飛び込んでくる。


「リディール王女殿下! ご無事ですか!」


革命派の人達が、危険を察知し、剣を構えた。

剣の閃光が部屋を駆け巡るが、アズルクが叫んだ。


「待て! 俺達はもう戦わない!!武器を捨てろ!」


男たちは、アズルクの叫びに一瞬、動きを止めた。

剣を握る手が、わずかに緩む。


「アズルク……お前、何言ってんだよ!」


若い男が、混乱した声で叫ぶ。

妹の夢を語ったばかりの彼の目には、まだ涙の跡が残っている。


「こいつ……リディール王女殿下の言う通りだ。俺達はもう血を流さない!革命じゃなくて、変えてもらうんだ!」


アズルクの声は、部屋中に響き渡った。

煙がまだ立ち込める中、騎士団の団員達が、次々と部屋に飛び込んでくる。

剣を構え、魔法の光を灯し、革命派を囲む。


「王女殿下の安全を確保する!」


団員の一人が縄を手に革命派の人達に近づく。

革命派の男達は、互いに顔を見合わせ、ゆっくりと剣を床に落とした。

カラン、カラン……。

静寂が、再び部屋を満たす。

若い男が、膝から崩れ落ちるように座り込んだ。


「これで……終わりか。妹の仇も、晴らせねぇまま……」


私はそっと、彼の肩に手を置いた。


「終わりじゃないよ。始まりだ。あなたの妹さんの夢、医者になること……叶えてあげることはできないけど、もう二度と同じ事が起きないようにする」


私は拘束された革命派の人達の前に立った。

そして、胸に手を当てて、堂々と言った。


「メッチャツオイ王国第一王女が一人、リディール・セア・メッチャツオイが宣言します。この国の平民差別をなくします!」

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