第65話 誇りのため、潰えぬ愛のため
ルブラーン王宮前広場では、クラジューとドグラが激しい攻防を繰り広げていた。
「はああ!!!」
ドグラはクラジューの単調な攻撃を見逃さずにかわし、クラジューの顎を下から右拳で殴り上げた。
「っ!?」
「死ねええあああ!!!」
クラジューはドグラの右拳を顎で受け止め、右手に持っている天槌ラファールを右から左に振り抜き、ドグラの左側頭部に直撃した。
ドグラはクラジューから見て王宮の左側に吹き飛び、建物を突き抜けて城壁に激突した。
「〝雷球〟」
クラジューはドグラに向けて小さな光る球を無数に放ち、ドグラは球から放たれた雷が直撃した。
「……まあ死なねぇよな……」
するとドグラはその場で大きく右腕を広げるように素振り、周辺の建物を吹き飛ばして目の前を更地にした。
「クラジューくん……」
「問題ねぇ」
「こんなもんじゃねぇだろ、とっとと来やがれ」
「〝雷竜の巣〟」
そう言ってクラジューが槌を天にかざすと、雲も無く突然クラジューとドグラの2人を囲むように、10メートル程はある雷の電気を形状化した柱が立てられた。
「ほう、器用だな」
ドグラは立てられた柱と柱の、人一人は通れるだろう隙間に右手を伸ばすと、柱の電気はそれに反応し、激しい電気がドグラの体内を通った。
「うおっ……いや、マジで器用だな……面白ぇ」
反射でドグラは右手を引っ込めると、右手をプラプラと振りながら笑みを崩さずクラジューを見た。
「まだだ」
さらにクラジューは、全ての柱の頂点から電流を、柱の頂点と平行な空中の中心に向けて発した。
その中心でぶつかり合った雷のエネルギーの塊から、蛇のように長い体躯を持ち、凄まじい迫力の形相の龍が、ドグラに向かって襲いかかった。
「〝雷竜逆鱗〟」
まるで雷竜が飲み込むように、ドグラは真正面からその攻撃を受けた。
ドグラはその場から、一歩も動くことはなかった。
雷龍のエネルギー消費が激しく、電気で形どった柱は消えてなくなっていた。
(まあかわしてもくらうまで追尾するヤツだったんだけど……これでもかわさねぇのかよ……)
「クラジューくん、だいじょうぶ?……」
周囲の闘う轟音なんかも一切気に出来ず、ゾーネはただただ、クラジューの事が心配で仕方がない。
「安心しろ……俺は無傷だ……」
ゾーネはどれだけクラジューの言葉を聞いても、安心は全く出来なかった。
ドグラの気配が、一切ブレないからだ。
「そうか……ソラの一族か……呪力とは違うベクトルの力だったからなぁ~」
「……無傷かよ……」
結局ドグラはその場から一歩も動かないまま、もろに大技をくらってなお、無傷で立っている。
「悪ぃが俺は雷とか効かねぇよ」
「ならもっと強ぇのぶち込みゃいいだけだ」
クラジューは右腕をドグラに向かって伸ばし、体中にみなぎる雷エネルギーを右手の平に一点に集約させ、雷も纏う光線を放った。
「〝雷光放閃〟」
それは以前、カヴガコロシアムでベイルに放ったものよりも、強大で、洗練され、より確かな威力を誇っている。
「……で?」
「……今当たっただろ……」
「聞いたことあるな~、ソラの一族には属性がある───晴れ、雨雪、そして風……だがごく稀に生まれる、どの属性にも耐性を持ち、絶大な力を保持する……雷の属性……、
……そいつらがいるからソラの一族は〝単体で唯一全世界を滅ぼす力を持つ種族〟なんてホラが回ったんだろ?」
「知るかよ」
クラジューは槌からドグラへ一直線に雷を放つも、ドグラには全く効くことはなく無傷のまま立っていた。
「頭回せよ、効かねぇなら他あるだろ」
(呪力で雷無効化してんのか……なんにせよこのままじゃマジで勝機はねぇな……突破するしかねぇ……)
「遅ぇよ」
「っ!?」
ドグラは僅かなスキを突いてクラジューの背後に回り、クラジューの背骨にピンポイントで右蹴を入れた。
「がっ……」
「雑魚が」
そして怯んだクラジューの背後に恐ろしいスピードで拳の連打を浴びせた。
「うらああっ!!!」
ドグラは空中に跳んで一回転し、クラジューの脳天に強烈なかかと落としを加えた。
クラジューはうつぶせに倒れ、ドグラの一撃によりクラジューの頭の着く地面から広範囲にわたって地割れが発生した。
「やっぱデケぇ街ぶっ壊すのは爽快感あるわ~……妖人の分際で龍人に肉弾戦で勝てると思ってんのか、生まれた瞬間から優劣は決まってんだよ」
「……終わりか」
するとクラジューは天槌ラファールを体内にしまい、その場から消えたかのように移動しドグラの懐に入った。
「っ!?」
「死ねああ!!!」
クラジューは右拳でドグラのみぞおちを思い切り殴り込み、息つく間もなくドグラの両側頭部を両手で押さえ、顔面に右膝を思い切り入れた。
「うがぁっ……」
「こうだっけか?」
クラジューはさっきドグラがやってみせたような連打をドグラの正面に浴びせ、空中で一回転して脳天にかかと落としを直撃させた。
「うおおお!!!!」
クラジューはさらに押し込み、ドグラの頭の着く地面からは広範囲の地割れとドグラの頭の位置を中心に地面がえぐれ剥がれていった。
「はぁ……はぁ……」
クラジューはそのまま浮遊してゾーネの前に降り立った。
「大丈夫か……はぁ……はぁ……」
「うん……けどクラジューくん……」
「俺は問題ねぇ、まだ重り外してねぇし……さすがに今のはダメージくら……なっ……」
ドグラは立ち上がり、何事もなかったかのようにクラジューの方へとゆっくり歩き始めた。
「まだ底見せてなかったのか……なら外せよ、フェアのために俺も底見せるからよ」
「お前に見せるほど俺の底は安くねぇな」
「無傷なのが見えねぇのか?おい」
「っ……ふざけやがって……」
クラジューは無傷のドグラの肉体とドグラが溢れ出るオーラに差を見せつけられ、重りを全て外した。
「これで終わりだ」
クラジューは明らかに増したスピードでドグラの懐に入り、右拳を振り上げた。
「っ……」
「大して変わってねぇなおい」
ドグラはそんなクラジューの速度に余裕を見せて追いつき、左手でクラジューの右拳を掴み防いだ。
「お~らよっと」
ドグラはクラジューの右拳を掴んだまま、クラジューを地面に叩き付けた。
「がはっ……」
「ひとつ言っとくぜ……理由は知らねぇが……龍人族の真価は、武器持って初めて発揮されるんだ~ぜっと」
ドグラは破壊された家屋の中にあった剣を拾い、抜いてクラジューに切っ先を向けた。
「……通りで今までのが大したことねぇ訳だ」
「ほざけ」
ドグラは右手で剣を振り下ろしクラジューの首を狙うも、クラジューは寸前でかわし、再び天槌ラファールを繰り出した。
「おらああ!!!!」
「はっ、威勢すらも良くねぇの」
クラジューはドグラの八方を動き回り応戦するも、ドグラは右手で剣を振りながら一歩も動かず全ての攻撃を受け止めた。
「くそがっ!!!」
「俺の番な」
するとドグラは剣裁きを加速させ、全ての攻撃を命中させた。
「……く……クラジューくん!!!」
ゾーネが思わず叫ぶと、気絶したボロボロのクラジューをドグラがゾーネの前に蹴り飛ばした。
「クラジューくん!!おきてよクラジューくん!!」
ゾーネは必死に呼びかけるも、クラジューが応答することはなかった。
「気絶は負けの理由にはならねぇ、今楽にしてやるよ」
ドグラがクラジューの喉仏目掛けて剣を刺しにかかると、ゾーネがクラジューの前に出て両手を広げた。
「ダメ!!クラジューくんにさわらないで!!」
「……おいおい、〝闘戦〟は第三者の加入は御法度だぜ?……まあいい、器デカくねぇと女にモテねぇし、死ぬの待つか」
そう言ってドグラはその場に腰を下ろした。
その頃、クラジューは夢を見ていた。
幼少期の記憶の一片を、夢で見ていた。
※ ※ ※ ※ ※
「いいかクラジュー、いくら妖術が苦手でもこの2つだけはマジで覚えるんだ」
ガタイの良い男は、少年クラジューに修業をつけていた。
「なんだよ」
「まずは〝治癒の妖術〟、高難度だが最高に役に立つ……それからもう一つ、これは妖術の中で最も難しいものだ」
「はあ……」
「しかもこいつの効力は1分だけだ」
「役に立たねぇだろそれ」
「まあ確かに時間は短い、霊力値関係なく1分ってところもたちが悪い……が、その1分だけ……使った奴は無敵になる」
「無敵?」
「そうだ……こいつを使えば1分間、全ての攻撃は必中し、あらゆる外的攻撃を無力化出来る……さらにもうひとつの効果が───」
※ ※ ※ ※ ※
するとクラジューは異様なオーラを放ちながら立ち上がった。
「……もうお前には……俺が見えない」
「クラジューくん……」
「……なんだそりゃ……」
「最強の妖術、〝無双の妖術〟」




