第68話:静寂を破るノックの音。陛下の「不機嫌」は全次元を震わせる
カツン、カツン、と。
全宇宙を漆黒の虚無で塗りつぶし、光子一つの侵入さえ許さないはずの「愛の檻」に、その音は確かに響き渡った。
私はギルバート様の胸の中で、銀河の瞳を微かに開く。
そこには、次元の壁を透過するようにして歩いてくる、一人の「男」の姿があった。
彼は白銀の長衣を纏い、顔には感情を削ぎ落としたような黄金の仮面を付けている。その周囲には、この宇宙の理とは根本的に異なる、透き通るような不気味な「静謐」が漂っていた。
「……あらあら。陛下、お客様が玄関を通らずにいらっしゃいましたわよ」
私はあえて穏やかな声を出す。
けれど、私を抱きしめるギルバート様の腕には、岩盤を砕くほどの力がこもっていた。
彼の背後から立ち昇る漆黒の魔力は、もはや殺意という言葉では生ぬるい。それは、自分たちの聖域を汚されたことへの、絶対的な「拒絶」の具現。
「……不快だ。耳障りな音を立てるなと言ったはずだ、ロザリア」
「――申し訳ございません、陛下。私の結界を、あの者は『存在しないもの』として通り抜けました。……今すぐ、魂ごと噛み砕いて参ります」
影の中からロザリアが姿を現し、短剣を構える。
だが、黄金の仮面の男は、止まることなく玉座の間へと足を踏み入れた。
『――止まれ、亡霊の末裔よ。私は「外側」の調整者。……この廃棄区画の掃除が終わったと聞き、データの最終回収に赴いた』
男の声は、感情を排した鐘の音のように議場に響く。
彼は私を、そして私を抱くギルバート様を、まるで試験管の中の虫でも見るような冷徹な眼差しで見下ろした。
『不適切なデータ、ギルバート。……お前がこの泥溜めで「王」の真似事をしているとはな。……お前はかつて、我ら「真なる理」が造り出し、制御不能として虚無に捨てた、ただの「壊れた影」に過ぎぬというのに』
「……壊れた影、ですって?」
私はギルバート様の胸から顔を上げ、男を真っ直ぐに見据えた。
銀河の瞳が、男の構成要素を解析する。
……ああ、分かりましたわ。
この方は、ギルバート様と同じ「虚無」を基盤にしながら、それを「秩序」という鎖で無理やり縛り付けた、ひどく窮屈で退屈な存在。
「陛下。……この方、陛下のことを『失敗作』だなんて仰っていますわよ。……ふふ、なんて審美眼のない方かしら」
「……エルシア。お前が気にする必要はない。……ゴミが何を喚こうが、ゴミの言葉に価値はないからな」
ギルバート様がゆっくりと立ち上がる。
彼が動くだけで、宮殿の重力が悲鳴を上げ、宝石の床が粉々に砕け散った。
彼は私を玉座のソファに優しく座らせると、一歩、侵入者へと歩み寄る。
『――無駄な抵抗だ。お前の「虚無」は、我らが与えた欠陥品。……今こそ、その力を回収し、この宇宙ごと初期化してやろう』
仮面の男が右手を掲げると、そこから「白の虚無」が放たれた。
それは物質も魂も、すべてを白紙に戻す究極の消去プログラム。
だが。
ギルバート様は、その光を避けることさえしなかった。
彼はただ、迫り来る白光を、煩わしい虫でも払うように素手で掴み取った。
バギィィィィィィィィンッ!!
次元を初期化するはずの力が、彼の拳の中で、まるでもろい粘土細工のように粉砕される。
砕け散った白光の破片が、ギルバート様の足元で黒い炎に飲み込まれ、エネルギーへと変換されていく。
『……なっ!? 我らの理を、物理的に……噛み砕いたというのか!?』
「……お茶会の最中だと言ったはずだ。……お前のその汚い『白』は、エルシアの銀髪に似合わない」
ギルバート様が男の首を、音速を超えた速度で掴み上げた。
黄金の仮面が、彼の殺気だけでミシミシとひび割れていく。
「お前たちが私を捨てたのか、それとも私が飽きて出てきたのかなど、どうでもいい。……ただ一つ確かなのは、今の私は、エルシアという女王の所有物だということだ」
ギルバート様は、恐怖に震え始めた「外側の使者」の耳元で、死神よりも冷たい声で囁いた。
「……私の愛する女が、お前を『審美眼がない』と言った。……その罪、全次元を跨いでも償い切れぬ絶望と共に、私の腹の中で永遠に味わうがいい」
ギルバート様の影が、巨大な顎となって男を飲み込もうとした――その瞬間。
『――待て! ……お前は、自分がなぜ「虚無」として生まれたか、その対となる「対価」が何であったかを知らぬのか!? ……エルシアという娘が、なぜ「銀河の瞳」を持って生まれたか……その理由を!』
男の叫びと共に、私の右目が熱く拍動する。
宇宙の「外側」からもたらされた、不吉な真実の予感。
最強の皇帝と、星を束ねる女王。二人の「完璧な世界」に、ついに逃れられぬ根源の因縁が牙を剥こうとしていた。
第68話、お読みいただきありがとうございました!
陛下の完璧な「入室禁止」を突破してきた黄金の仮面の男。
「外側」の調整者と名乗る彼が放った衝撃の言葉……陛下は「制御不能な失敗作として捨てられた虚無」だった!?
ミオ、書いていて陛下の「不機嫌な迎撃」の格好良さに、自分でお茶をこぼしてしまいましたわ!
「調整」だの「初期化」だのと高尚な言葉を並べる敵を、「お茶会の邪魔だ」と物理的に握りつぶす陛下の理不尽な愛。
これぞ、私たちが愛してやまない「なろうの金字塔」の姿ですわね。
しかし、ラストに放たれた「エルシア様が銀河の瞳を持って生まれた理由」。
二人の出会いは、偶然ではなく、遥か「外側」で仕組まれた壮大な対価だったのでしょうか……?
少しでも「陛下の不機嫌な強さが最高!」「エルシア様の『陛下は最高傑作』という全肯定に痺れる!」と感じていただけましたら、
【ブックマーク】や【評価(★★★★★)】で、二人の「宿命への反逆」を応援してくださいませ。
皆様の応援という名の「真実の灯火」が、次話、外側の神々さえも戦慄させる陛下のさらなる暴走(溺愛)を引き出す魔力になりますの。
これからもどうぞよろしくお願いします!
それでは、二人の存在の根源に迫る次回をお楽しみに。




