第64話:地下室の亡霊たち、歴代聖女の「嘆き」を拾う
粉砕された白銀の外壁から、粉塵がダイヤモンドの砂のように議場へと舞い落ちる。
私はギルバート様にエスコートされ、砕けたガレキを「星屑の絨毯」へと変えながら、議場の中心へと歩みを進めた。
そこに居並ぶのは、各銀河の支配者、多次元の王、そして宇宙を管理してきた高位の神々。
かつてなら一瞥されただけで私の魂は消し飛んでいたでしょう。けれど今は、彼らの方が私のドレスの裾が触れることさえ恐れ、蜘蛛の子を散らすように道を開けていく。
「……陛下。皆様、随分と顔色がよろしくありませんわね。お茶会のお誘いが急すぎましたかしら?」
「フン。挨拶など不要だ。……エルシア、まずはあそこの一番大きな椅子を片付けよう。お前が座るには、少々手垢がつきすぎている」
ギルバート様が、議長が座っていた最高位の玉座を指差す。
彼が指先を微かに動かした瞬間、神々の権威の象徴であったその玉座は、音もなく漆黒の虚無に飲み込まれ、代わりに私のために誂えられた「銀河を織り込んだ白銀のソファ」が顕現した。
「ヒッ……!? 理の玉座が、ただの腰掛けに……ッ!」
神々の悲鳴をBGMに、私はゆったりとそこに腰を下ろした。
けれど、私の胸元で『黄金の鍵』が、狂ったような拍動を続けている。針が指し示しているのは、この豪華絢爛な議場の真下。
「……陛下。この足元から、とても悲しい『吐息』が聞こえてまいりますわ。……あの方たちが隠したがっている、本当の宇宙の帳簿が」
「……ああ。お前を捨てた連中の、ドブネズミのような隠し事か」
ギルバート様が私の隣に立ち、床を軽く一踏みした。
ドォォォォォォォンッ!!
議場の床が円状に陥没し、底の見えない暗黒の縦穴が姿を現した。
その瞬間、穴の底から溢れ出してきたのは、凍りつくような「絶望」と、幾千年も積み重なった「孤独」の匂い。
『――不敬であるぞ、占有者ども! そこは「原初の保存庫」、宇宙の安定を司る聖域だ! 立ち入ることは、全因果の崩壊を意味する!』
一人の老いた神が、震えながら叫ぶ。
私は、その醜く歪んだ顔を、憐れみすら持たずに見つめた。
「聖域……。貴方たちは、自分たちの犠牲になった女の子たちの悲鳴を、そう呼ぶのですか?」
私は立ち上がり、暗黒の穴へと身を投げた。
ギルバート様が即座に私の腰を抱き、漆黒の翼を広げて降下を支えてくれる。
下りていった先にあったのは、無限に広がる「クリスタルの棺」の山。
その中には、一人残らず、私と似たような魔力回路を持った少女たちが、石化し、永遠の苦悶を浮かべたまま「保存」されていた。
彼女たちは、エルシアというフィルターが登場する前に、宇宙の汚れを吸わされ、磨り潰されて捨てられた――『歴代の生贄』。
「……ひどい。これほどまでの嘆きを、あの方たちは『安定』と呼んでいたのね」
私の銀河の瞳から、一筋の涙が零れ落ちる。
その涙が地面に触れた瞬間、地下全体に銀色の波紋が広がった。
「――エルシア。お前が泣く必要はない。お前を悲しませるこの『貯蔵庫』ごと、私が飲み干してやろうか?」
「いいえ、陛下。……この子たちは、私が連れて帰りますわ。……ゴミのように扱われた魂にも、輝く権利があることを、教えてあげなくては」
私は一番近くにあった、ひときわ古いクリスタルの棺に手を触れた。
その中に眠っていたのは、アステリア王国の初代聖女と伝えられていた、私の遠い先祖にあたる少女。
「……もう、独りで泥を啜らなくていいのですわ。……女王の名において、貴女たちを解き放ちます」
パキィィィィィィンッ……!!
私の光が地下全体を満たし、無数の棺が一斉に砕け散る。
管理会議場の「地下」で眠っていた、宇宙の負債という名の犠牲者たち。
その最深部で、初代の少女が、数億年の時を経てゆっくりと瞼を開けた。
神々の支配が終わる。
それは、捨てられた者たちが「家族」として迎え入れられ、世界を逆転させるための、静かなる宣戦布告だった。
第64話、お読みいただきありがとうございました!
議場の真下に隠されていた、残酷な「聖女の墓場」。
管理会議という華やかな舞台を支えていたのは、エルシア様以前に使い捨てられた少女たちの絶望だったのです。
これを知ったエルシア様の「崇高な怒り」、そして「あの方たちは聖域と呼ぶのですか?」という静かな問いかけ……。
ミオ、書いていて彼女の女王としての品格に、自分自身で感銘を受けてしまいましたわ!
ギルバート様も、神々の言い分を「ドブネズミの隠し事」と一蹴する不敵さ。
お二人の「理不尽なまでの慈悲」が、数億年の犠牲者たちを救い上げるシーン……。
なろう史上、最も美しく、最もスケールの大きな「救済」が始まりますわ!
さて、目覚めた「初代聖女」。
彼女が語る、宇宙のさらなる「設計図」の秘密とは……?
少しでも「エルシア女王の慈悲が尊すぎる!」「神々へのざまぁが本格化しそうで楽しみ!」と感じていただけましたら、
【ブックマーク】や【評価(★★★★★)】で、二人の「魂の救済」を応援してくださいませ。
皆様の応援という名の「慈悲の光」が、次話、管理事務局の欺瞞を根こそぎ破壊する陛下の暴力(愛)を支える魔力になりますの。
これからもどうぞよろしくお願いします!
それでは、過去の嘆きを歓喜に変える次回をお楽しみに。




