第61話:最高管理者の誤算、皇帝は「愛」で次元を食らう
宝石へと作り変えられた「零地点」の宮殿。
その中央に、音もなく、光もなく、ただ『絶対的な正解』のような重圧を伴って、その者は現れた。
姿はない。強いて言えば、それは人の形をした「宇宙の深淵」そのもの。
管理事務局のトップ、最高管理者。
彼がそこに立つだけで、周囲の宝石たちは恐怖に震えるようにパキパキと音を立て、宮殿の時間は凍りついたように停止する。
『――事態は深刻だ。……生贄が玉座に座り、不適切なデータが理を侵食している。……修正を開始する』
最高管理者が指先を――それがあるべき場所を微かに動かす。
刹那、宮殿全体が「絶対零度」を超えた虚無の冷気に包まれた。
それは物質を凍らせるのではない。存在そのものの熱を奪い、分子の運動を停止させ、全宇宙の記録から「消去」するための処刑魔法――『終焉の吐息』。
「……あらあら。陛下、少し肌寒くなってまいりましたわね」
私は、銀河の瞳を微かに細めて微笑んだ。
普通なら、この冷気に触れた瞬間に魂ごと粉砕されているはず。けれど、私の背後には、冷気すらも焼き尽くすほどの、あまりに「重すぎる体温」があった。
「フン。気が利くな、お掃除番。……エルシアの淹れてくれた紅茶が少し熱すぎたのだ。……ちょうどいい温度に冷やせ」
ギルバート様が、ゆったりと椅子に座ったまま、最高管理者が放った消滅の冷気を――あろうことか、自分のティーカップの上へと手繰り寄せた。
バヂ、バヂヂィィィッ!!
全宇宙を滅ぼすはずの絶対的な消去エネルギーが、ギルバート様の指先で「ただの冷たい風」へとねじ伏せられる。
彼はそれをカップに数秒当てると、満足そうに一口啜った。
「……ああ、良い加減だ。……お前、掃除屋にしては使えるな。……これからも、我が家の冷房代わりとしてそこに立っていろ」
『…………論理破綻。……私の「終焉」を、温度調節に利用したというのか……?』
最高管理者の無機質な声に、初めて「驚愕」のノイズが混じった。
当然ですわ。彼らが「世界の理」として誇る力は、愛する妻とのティータイムを何よりも優先するこの皇帝陛下にとっては、ただの「便利な日用品」に過ぎないのですから。
「陛下、あまりいじめては可哀想ですわ。……最高管理者様。貴方がここへ来たのは、私を再び『あの泥の庭』へ戻すためかしら?」
私は立ち上がり、白銀のドレスの裾を翻して一歩踏み出した。
私の足元から溢れ出す銀河の光が、最高管理者が支配する「静寂」を物理的に押し返していく。
「申し上げたはずです。……私はもう、泥を啜る生贄ではありません。……この宇宙を、陛下の溺愛に相応しい、宝石箱のような場所に変える。……それが、新たな『理』ですわ」
『……傲慢な。……一人の女の感情で、幾億の銀河のバランスを崩すというのか。……そのような「愛」は、宇宙にとっては猛毒に過ぎない!』
最高管理者が激昂し、その姿を漆黒の大蛇へと変えた。
彼の意志が、宇宙そのものの「斥力」となって私に襲いかかる。
「毒、ですって? ……ふふ。……なら、その毒を全身に浴びて、狂い死になさるといいわ」
私は、右手を静かに掲げた。
私とギルバート様。二人の魂が重なった今、私たちの愛は単なる感情ではない。
それは、宇宙を書き換える「強制プログラム」そのもの。
「陛下。……あの方、私を猛毒だなんて仰いましたわ」
「……そうか。……なら、その舌を引き抜いて、二度と不快な音を出せないようにしてやろう。……エルシア、お前はただ美しく笑っていればいい。……この世の汚れ(管理者)は、すべて私が噛み砕いてくれる」
ギルバート様の背後に、宇宙の裏側さえも飲み込む巨大な「虚無の顎」が顕現した。
最高管理者の絶望に満ちた叫びが、宝石の宮殿に響き渡る。
――管理される時代は終わった。
ここからは、最強の夫に世界一甘やかされる女王による、理不尽で美しい「統治」の時間ですわ。
皆様、第61話いかがでしたでしょうか!
全宇宙を滅ぼす「終焉の冷気」をお茶の温度調節に使う陛下……!
これぞ、なろう読者が最も求めていた「格の違いすぎる無双」ですわね。
最高管理者が必死に「論理」を説いている横で、悠然と紅茶を啜るお二人の姿……。ミオ、書いていてゾクゾクいたしましたわ!
最高管理者の皆様も、まさか自分たちの究極奥義が「便利な家電」扱いされるとは夢にも思わなかったでしょう。
でも、エルシア様を泣かせた罪は重いのです。これからもっと、身の程を弁えさせてあげなくては。
少しでも「陛下の温度調節が最高にかっこいい!」「エルシア女王の不敵な微笑みに痺れる!」と感じていただけましたら、
【ブックマーク】や【評価(★★★★★)】で、一家の「お掃除番への再教育」を応援してくださいませ。
皆様の応援という名の「砂糖とミルク」が、次話、最高管理者をさらに絶望させる陛下の激甘溺愛シーン(と暴力)を支える魔力になりますの。
これからもどうぞよろしくお願いします!
それでは、神の権能を物理で粉砕する次回をお楽しみに。




