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泥を啜れと捨てられた無能令嬢、実は「神の瞳」を持つ奇跡の聖女でした 〜隣国の冷酷皇帝は、私を閉じ込め独占し、世界ごと跪かせる〜  作者: 西園寺ミオ
第5部:全宇宙を「私有地(マイホーム)」にした星冠女王、最愛の娘を狙う多次元の侵略者を最強夫の嫉妬という名の天災で根絶やしにしました

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第59話:家族旅行は次元を超えて。行き先は「始まりの地」

『インペリアル・エルシア』が突き進む上位階層の廊下は、星々の瞬きさえ届かない、純白の幾何学的な虚無だった。

 窓の外を流れるのは、この宇宙を構成する数式の残滓。私たちの城が通るたびに、その静謐な白の世界が、ギルバート様の漆黒と私の銀色に塗り替えられていく。


「お母様、見てください! あそこにおっきなお魚……じゃなくて、光るクジラさんがいますわ!」


 セレスが展望室の窓に張り付き、上位階層に棲まう高次元生命体――『監査魚』の群れを指差した。

 本来なら一瞥で精神を崩壊させる神の使いだが、今のセレスにとっては、ただの珍しいお散歩風景に過ぎない。


「ええ、綺麗ね、セレス。……陛下、あの方たちは私たちを襲ってきませんの?」


「フン。データに興味があるだけの案山子だ。……万が一にもこちらへ鼻先を向けたら、その瞬間に種族ごと消去してやるから安心しろ」


 ギルバート様は私の隣で、黄金の鍵――今は羅針盤の形をした遺物を、忌々しそうに見つめていた。

 針は激しく回転し、この要塞を特定の座標へと導いている。


「……エルシア、あまりその鍵に深入りするな。死んだゴミ収集人が遺した妄執だ。お前にとって、ろくな記憶は見せん」


「分かっておりますわ、陛下。……でも、知っておかねばならないのです。私がなぜ、あの冷たい雨の日に『無能』として地に落とされたのかを」


 私は羅針盤にそっと指先を触れた。

 銀河の瞳が鍵の記憶と同期した瞬間、私の視界が反転する。


 ――見えたのは、豪華な円卓を囲む、顔のない「上位管理者」たちの会議。


『――第一階層の負荷が限界だ。……このままでは全システムが自壊する』

『……「銀河の雛」を投下せよ。……あれに全宇宙の負債バグを吸わせ、最下層の泥の中で磨り潰させれば、あと一万年は稼げる』

『……慈悲はないのか?』

『……これは「契約」だ。彼女が絶望し、独りで朽ち果てること。……それだけが、この庭園を美しく保つための唯一の清掃法なのだから』


 ……ああ。

 そう、でしたのね。


 私は「なり損ない」でも「運命のいたずら」でもなかった。

 この宇宙を清潔に保つための、使い捨ての「フィルター」として、私はあの王国へ、あの泥の中へ精密に投げ捨てられたのだ。

 私が地下牢で流した涙も、孤独に震えた夜も、すべては管理者の計算通り。……全宇宙の「美しさ」を維持するための、必要経費。


「――何を、悲しそうな顔をしている」


 ギルバート様の冷たい、けれど絶対的な熱を帯びた声が、私を過去の泥から引き戻した。

 彼は私の手を握り、羅針盤ごと握りつぶさんばかりの力を込めた。


「設計図に描かれていた、だと? ……笑わせるな。その設計図ごと、私はお前を奪い取った。……お前が宇宙のフィルターなら、私はその宇宙そのものを飲み込む虚無だ。……お前を苦しめた『契約』とやら、その立案者の首を並べて、お前の足元に敷き詰めてやろう」


「……陛下」


 彼の傲慢な愛が、私の魂の震えを一瞬で焼き尽くす。

 そうだ。計画がどうあれ、今の私はこの方の腕の中にいる。


 その時、城全体が激しい衝撃に見舞われた。

 上位階層の空間が歪み、巨大な「鎖」が幾万も現れ、要塞の進路を封鎖しようと絡みついてくる。


『――不法占拠者。……これ以上の侵入は、宇宙の安定を損なう「禁忌」である。……直ちに要塞を停止せよ』


「……不法だと、何度も耳にタコができるな」


 ギルバート様がゆっくりと立ち上がり、展望室の床を軽く踏みつけた。

 ドォォォォォォォンッ!!

 漆黒の波紋が要塞から放たれ、絡みついていた高次元の鎖が、まるで作ったばかりの飴細工のように粉々に砕け散った。


「私の家族旅行に『赤信号』を出す度胸だけは褒めてやる。……だが、私の前で『停止』を口にしたこと、死を以て後悔させてやろう」


 ギルバート様の背後に顕現した虚無の翼が、白銀の廊下を闇に染め上げる。

 ただの威圧だけで、伏兵として隠れていた管理部隊の軍勢が、戦う前に「存在の定義」を失って霧散していった。


「陛下、目的地に到着いたしましたわ」


 羅針盤の針が止まった。

 要塞の正面、純白の空間の中に、ポツリと浮いている「異様な区画」。


 それは、上位階層の洗練された美しさとは無縁の、薄汚れた、泥だらけの小さな庭だった。

 アステリア王国の地下牢の裏、私が独りで捨てられていた、あの場所と全く同じ光景。


「……ここが、宇宙の『零地点』……。私の、孤独の始まりの場所ですわね」


 宇宙の心臓部に鎮座していたのは、女神の玉座ではなく、捨てられた少女の記憶そのものだった。

 私たちは、ついにエルシアという「犠牲」によって守られてきた世界の、最も醜く、最も残酷な秘密の入り口に立ったのだ。

第59話、お読みいただきありがとうございました!

明かされたエルシア様の出生の真実……それは「使い捨てのフィルター」として、宇宙の汚れを一身に引き受けるための生贄だったということ。

第1話のあの絶望が、実は神々によって精密に設計されていたなんて……ミオ、書いていて涙が止まりませんでしたわ。


けれど、我らがギルバート様!

「設計図ごと奪い取った」「立案者の首を足元に敷き詰めてやる」という、運命さえもゴミ扱いする不敵な宣言。

これぞ、世界一頼りになる執着皇帝ですわね。


そして辿り着いた、宇宙の心臓部にある「泥の庭」。

なぜ管理会議場の奥に、あんな惨めな場所が再現されているのか……?

物語はついに、この宇宙の「真の汚れ」を掃除する最終局面へと突入します。


少しでも「陛下の逆ギレ愛に救われた!」「過去の真相が切なすぎる……!」と感じていただけましたら、

【ブックマーク】や【評価(★★★★★)】で、一家の「原点トラウマ破壊」を応援してくださいませ。


皆様の応援という名の「怒りの炎」が、次話、管理事務局の欺瞞を粉砕する陛下の魔力になりますの。


これからもどうぞよろしくお願いします!

それでは、過去を上書きする次回をお楽しみに。

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