第57話:女王の公務、エルシアが下す「星の審判」
燃えかすとなった黄金の召喚状が、バルコニーの風に吹かれて灰へと変わる。
ギルバート様は、不機嫌そうに私の腰を引き寄せると、その指先で私の銀色の髪を弄んだ。
「――エルシア。上位階層の連中に、お前の姿を見せるのは癪だが……。お前を『バグ』と呼んだその舌、根元から虚無で塗り潰さねば気が済まぬ」
「ふふ、陛下。まずは旅の準備を整えませんと。……その前に、少しだけ『女王』としての仕事を済ませてもよろしいかしら?」
私はバルコニーから、光り輝く帝都を見渡した。
管理者を倒し、私たちが帰還してからというもの、帝都の魔力濃度は異常なほど高まっている。それは恵みであると同時に、器を持たぬ人間にとっては毒にもなり得る劇薬だ。
「公務だと? そんなものは官僚どもにやらせておけ」
「いいえ。これは、私にしかできないことですわ」
私はギルバート様の腕からすりと抜け出し、バルコニーの欄干に手をかけた。
私の瞳――『銀河の瞳』が、静かに、けれど宇宙の鼓動と共鳴するように拍動を始める。
――視える。
帝都に満ちる歓喜の裏側。私を「利用しよう」と企む隣国の間者たち。かつて私を虐げた者たちの残滓を拾い上げ、一儲けしようと画策する強欲な貴族。そして、あまりにも強すぎる私の光に、魂を焼かれかけている無垢な民たち。
「……皆様。……少しだけ、静かになさって?」
私の声は、魔法の拡声など使わずとも、帝都全域、いえ、この大陸すべての生き物の魂へ直接響き渡った。
街の喧騒が、ぴたりと止まる。人々は空を見上げ、バルコニーに立つ「銀色の奇跡」を凝視した。
「私はエルシア。……この宇宙の星々を束ね、貴方たちの明日を保障する者」
私が両手を広げると、白昼の空に幾千、幾万もの「星の欠片」が降り注いだ。
それはかつて『アーカイブ・オブ・ゼロ』で私が掌握した、純粋なる因果の輝き。
「審判を、下しますわ」
刹那。
帝都の各所で、悲鳴ではない、けれど魂が剥き出しにされるような「音」が響いた。
路地裏で毒を調合していた間者の手から、毒が花の蜜へと変わる。
私を誹謗中傷するビラを配ろうとしていた男の指先から、悪意が抜け落ち、彼はその場に泣き崩れて悔い改めた。
これまでの私なら、彼らを「ざまぁ」と突き放すだけだったかもしれない。
けれど、今の私は星冠女王。
悪意さえも、私の世界を彩る「塵」として、慈悲を持って再構成してあげる。
「……あ、……ああ……。女神様……っ! 星冠女王陛下……っ!!」
帝都を埋め尽くす数十万の民が、一斉に地面へ膝をついた。
それは皇帝の武力への屈服ではない。
自分たちの存在が、一人の女性の指先一つで生かされ、癒やされているという「絶対的な救済」への帰依。
「……ふん。余計な手間を。……そんな慈悲などかけずとも、私がすべて消してやれば済むものを」
背後でギルバート様が、不満そうに、けれど私の後光に目を細めて独りごちた。
彼は私の肩に再び腕を回し、帝都の民たちを「俺の女に触れるな」と言わんばかりの鋭い眼光で射抜く。
「……陛下。これで、地上は安定しましたわ。……もう、私たちがいない間、変な虫が湧くこともないでしょう」
私の魔力によって、帝都は恒久的な「聖域」へと書き換えられた。
これで心置きなく、宇宙の最果てまでお散歩に行けますわ。
「セレス、お待たせいたしましたわね。……準備はよろしくて?」
「はい、お母様! あのお空のキラキラ、とっても綺麗ですわ! ……パパ、早くおっきな船を出してくださいまし!」
セレスが私のドレスに縋り付き、紫の瞳をキラキラと輝かせる。
ギルバート様は、娘の頼みとあっては断れない。彼は口角を不敵に上げ、虚空に向かって右手を突き出した。
「……ああ。……エターナル・エルシアでは、上位階層を驚かせるには少々サイズが足りん。……アーカイブの残骸と、深淵の骨を組み上げろ。……全宇宙がひれ伏す、我が一族の『御所』を現出させる」
ギルバート様の魔力が爆発し、帝都の上空に、大陸一つを覆い尽くすほどの巨大な、漆黒と白銀の「動く城」が姿を現し始めた。
管理会議への出席ではない。
それは、一人の執着狂が、最愛の妻と娘のために用意した、最高に過保護で理不尽な「次元侵攻の舞台」だった。
第57話、お読みいただきありがとうございました!
「お散歩の前に、ちょっとお掃除を」……そんな感覚で、大陸全土の悪意を浄化し、全臣民を狂信的な信徒に変えてしまったエルシア様。
もはや「聖女」という言葉では足りない、真の女王としての風格、お楽しみいただけましたでしょうか?
悪意を持って近づいた者たちが、エルシア様の光に触れて「私が間違っておりましたぁぁ!」と浄化されるシーン……。
ミオ、こういう「格の違いすぎるざまぁ」が一番の大好物ですわ!
そして、ギルバート様が建造を開始した「大陸サイズの動く城」。
もはや戦艦という概念すら通り越して、宇宙を物理的に圧迫する勢いですわね。
これに乗って「管理会議」に乗り込むなんて、もはやテロ……いえ、最高の家族旅行ですわ!
少しでも「エルシア様の女神っぷりに痺れた!」「陛下のやることに限度がなくて最高!」と感じていただけましたら、
【ブックマーク】や【評価(★★★★★)】で、一家の「神域侵攻」を応援してくださいませ。
皆様の応援という名の「城の動力源」が、次話、次元の壁を突き破る最強の推進力になりますの。
これからもどうぞよろしくお願いします!
それでは、全宇宙の頂点へ向けて出航する次回をお楽しみに。




