第50話:星冠の守護者、新たなる伝説の幕開け
宇宙の断裂から染み出したのは、絶対的な「拒絶」の色だった。
すべてを無に帰す虚無の深淵。その波打ち際に、彼は立っていた。
ギルバート様と同じ、夜を溶かしたような黒髪。同じ、鋭く整った貌。
けれど、その瞳には光がなく、ただ世界を呪うような、果てしない「孤独」の涙が溢れていた。
『……求メテモ、……得ラレズ。……満たサレテモ、……失ワレル。……ナラバ、全テヲ「無」ニ』
その影が手を伸ばすと、背後の次元が次々と剥がれ落ち、灰色の粒子となって消えていく。
これこそが、ギルバート様が内側に抱えていた『漆黒の虚無』の正体。かつて宇宙の創生に絶望し、自らを切り捨てた「原初の孤独」。
「……陛下」
私はギルバート様の腕を強く掴んだ。
彼の身体が、その「影」に共鳴するように、黒く、不吉に揺らめいている。
「……フン。不快だな、鏡合わせの己というのは。……これほどまでに惨めな顔をしていたとはな、私は」
ギルバート様が、自嘲気味に口角を上げた。
彼は私を背中に隠し、ゆっくりと、その「絶望の自分」へと歩み寄る。
『……忘レロ。……愛ナド、一瞬ノ陽炎。……コノ虚無コソガ、唯一ノ永遠ダ』
「永遠だと? ……あいにくだが、そんな退屈なものはエルシアに贈る花束だけで十分だ。……お前は孤独に耐えかねて世界を捨てた。だが、私は違う。……私はこの泥にまみれた世界で、エルシアを見つけたのだ」
ギルバート様の瞳が、紅く、鮮烈に燃え上がる。
彼が拳を握りしめると、絶望の影は叫びを上げる暇もなく、彼の身体へと吸収されていった。「拒絶」が「執着」へと書き換えられ、宇宙を捨てようとしていた力さえも、彼は一人の女を愛するための『道具』として、その支配下に置いたのだ。
「――聞こえるか、宇宙の外側に棲む掃除人ども。この宇宙は、今日から私の『私有地』だ。勝手に捨てようとするなら、その腕ごと切り落としてやる」
その一言で、宇宙の崩壊が止まった。
エルシアの銀河の光と、ギルバート様の掌握した虚無が混ざり合い、新しい「秩序」がこの世界に刻まれていく。
「パパ! 黒いおじさん、パパの中に隠れんぼしましたわね!」
セレスがパタパタと駆け寄り、ギルバート様の脚にしがみついた。
彼は優しく娘を抱き上げると、私に手を差し出した。
「……終わったよ、エルシア。これでお前を邪魔する不快な音も、理不尽なルールも、この宇宙には一つも残っていない」
「……はい、陛下。……いえ、私の『唯一』様」
泥を啜れと捨てられたあの日。
冷たい雨の中で、独り死を待っていたあの少女は、もうどこにもいない。
あるのは、宇宙を支配する愛と、終わることのない幸福の歴史だけ。
「……エルシア。さあ、帰ろう。……宇宙よりもずっと華やかな、私たちの家に」
「はい、陛下。……どこまでも、お供いたしますわ」
私たちは、光と闇が美しく混ざり合う次元の航路を通り、愛しき帝国へと帰還した。
――逆転の物語は、ここで幕を閉じる。
けれど、全宇宙を跪かせた二人の伝説は、永遠に語り継がれていくことだろう。
(完結)
読者の皆様、ついに、本当についに。
『泥を啜れと捨てられた令嬢、最強皇帝に拾われて全宇宙を跪かせる ~今更女神だと言われても、夫の執着が重すぎて帰れません~』
全50話、これにて完結でございますわ!!
第1話、雨の中、絶望の淵にいたエルシア様を書いていたあの日。
まさか彼女が宇宙の理を書き換え、全次元の支配者として凱旋する日が来ようとは……書き手である私、西園寺ミオも胸がいっぱいでございます。
ギルバート様の「宇宙を私有地にする」という、もはや愛なのか暴力なのか分からない究極の執着。
そして、泥の中から星の冠を戴くまでに至ったエルシア様の凛とした強さ。
この二人の物語を最後まで見届けてくださった皆様の応援こそが、彼らを神話の頂点へと押し上げる「奇跡」となりました。
「スカッとした!」「陛下の溺愛に溶けた!」「セレス様が可愛すぎた!」
皆様からいただいた一つ一つの温かなお声が、私の筆を走らせる最高の原動力でしたわ。
この物語はここで幕を閉じますが、二人の日常は、きっとこれからも騒がしく、そして甘やかに続いていくことでしょう。
いつかまた、別の空の下で、別の愛の物語でお会いできることを願っております。
もし、最後にこの物語を「最高のエンディングだった!」と感じていただけましたら、
完結の祝杯代わりに【★★★★★】の評価や、皆様の熱い完結メッセージをいただけますと、
西園寺ミオとしてのこれ以上の幸せはございません。
50話という長い旅路を共にしてくださり、本当に、本当にありがとうございました!
愛と感謝を込めて。
西園寺ミオ




