第40話:深淵のお茶会、神々の椅子は足りていない
アストライオスが差し出した招待状が光り輝き、私たちの周囲の景色を瞬時に書き換えた。
辿り着いたのは、星々の死骸が宝石のように敷き詰められた、静謐なる『虚無の庭園』。
中央には、銀河の渦をそのまま切り取ったような巨大な円卓が浮かび、そこには既に四人の「神々」が座していた。
いずれも私と同じ銀糸の髪をなびかせ、人間界では決して拝めないほど洗練された容姿……。けれど、その瞳には共通して、氷のような「選民意識」が宿っている。
「――遅いぞ、アストライオス。なり損ないの妹を連れてくるのに、どれほどの時間を費やしている」
円卓の奥、最も高い位置に座る男が冷淡に言い放つ。
深淵の長兄、プロトゴノス。彼が言葉を発するだけで、次元が震え、私の肌を刺すような重圧が押し寄せる。
「……申し訳ありません、兄上。……この男が、少々手に負えず……」
アストライオスが青ざめた顔で座につく。
神々は、私を一瞥し、次に私の隣で不遜に佇むギルバート様を見据えた。
「ほう。それがお前を狂わせたという、イレギュラーの『人間』か。……汚らわしい。神聖なる茶会に、泥を啜る種族の足跡を付けるとは」
もう一人の女神が、扇で口元を隠しながら嘲笑う。
円卓には、私たちが座るべき椅子は一つも用意されていなかった。
「エルシア。ここには、貴女が座るべき場所はないわ。地面に跪いて、私たちが零した雫でも啜っていなさい。それが、人間として生きた貴女に相応しい『格』よ」
「……」
私は静かに唇を噛んだ。
怒りよりも先に、彼らのあまりの「狭量さ」に悲しみが込み上げる。
だが、私の隣に立つ「最凶の夫」が、黙っているはずがなかった。
「――格、だと? 面白い冗談だ。……お前たちのような、椅子に座らなければ己の権威も保てぬ案山子が、我が妻を評価するのか?」
ギルバート様の声が響いた瞬間、庭園の温度が急激に下がった。
漆黒の魔力が、彼の足元から影のように広がり、神々が誇る銀河の円卓を侵食し始める。
「な……! 貴様、何を……!」
「言ったはずだ。……椅子が足りないのなら、私が作ってやる」
ギルバート様が右手を無造作に一振りした。
ドォォォォォォンッ!!
凄まじい轟音と共に、神殿を支えていた数本の白銀の巨柱が根元から折れ、宙で粉々に砕け散った。
砕かれた破片は、ギルバート様の魔力によって瞬時に再構成され、エルシアとセレス、そして私を囲むようにして、円卓よりも遥かに豪華で、遥かに高い位置に浮遊する「玉座」へと姿を変えた。
「……さあ、エルシア。セレス。……座るがいい。……この程度の安っぽい庭園、高い場所から見下ろしているくらいが丁度いいだろう?」
「……陛下、流石にやりすぎではありませんか?」
「足りないくらいだ。……ロザリア、ルチア。お前たちの分も作ってやった。遠慮なく座れ」
呆然とする騎士たちを尻目に、ギルバート様は私の隣に腰を下ろすと、私の肩を抱き寄せ、神々をゴミを見るような目で見下ろした。
「パパ、この椅子、キラキラしていて綺麗ですわ! あっちの冷たそうな椅子より、ずっと素敵!」
セレスが無邪気に笑いながら、神々の顔を真っ向から否定する。
神々の顔は怒りで朱に染まったが、ギルバート様から放たれる『漆黒の虚無』のプレッシャーに、誰も立ち上がることができない。
「……貴様。……ただの人間ではないな。その魂、どこかで……」
プロトゴノスが、震える拳を机に叩きつけた。
「魂の出処など知らぬ。……ただ、これだけは覚えておけ。……私のエルシアに『啜れ』と言ったその言葉、お前たちがその身で、血の一滴まで購うことになるということを」
ギルバート様が指先を鳴らすと、神々の円卓に置かれていた黄金の茶器が、パリンと音を立ててすべて割れた。
代わりに、私たちの前には、帝国から取り寄せた最高級の紅茶と、色とりどりの菓子が宙を舞って並べられる。
「……さあ、エルシア。茶会を続けよう。……この退屈な置物たちが、私たちをどう『審判』するのか、高みの見物といこうじゃないか」
審判されるべきは、私たちではない。
今、この瞬間から。
この深淵の理は、一人の皇帝の独占欲によって、完全に書き換えられようとしていた。
神々のプライドを、柱ごと叩き折るギルバート様!
「椅子がないなら作ればいい(ただし敵の柱で)」という暴君っぷり、これぞ陛下ですわね。
高慢な女神が「雫を啜れ」なんて言った報いが、最高にラグジュアリーな形で返ってきましたわ。
セレス様の「あっちの椅子より素敵!」という無邪気な追い打ち、最高にスカッといたしましたわね。
神々が自分たちの用意した舞台で、逆に陛下にもてなされる……いえ、圧倒される姿に、皆様も溜飲が下がったのではないでしょうか。
しかし、長兄プロトゴノスの怒りは頂点へ。
彼が隠し持っている、エルシア様の「神格」を無理やり奪い取るための禁忌の儀式とは……?
少しでも「陛下の特等席作成に痺れた!」「神々の狼狽っぷりが最高!」と感じていただけましたら、
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皆様の応援という名の「折れた柱」が、次話、神々を絶望の底に突き落とす陛下の『教育』の糧になりますの。
これからもどうぞよろしくお願いします!
それでは、次回の更新もお楽しみに。




