第30話:神話の終焉、そして愛の始まり
天空の聖域『シルバー・パレス』。
数千年の間、静寂に包まれていたその場所は、今や帝都から移植された色とりどりの薔薇と、セレスティーナの無邪気な笑い声に満たされていた。
「お母様、お父様! 見てください、雲が綿菓子みたいですわ!」
セレスティーナが銀の翼を小さく羽ばたかせ、神殿の回廊を舞う。
かつては「畏怖」の対象だった聖域の魔力も、今やこの小さな皇女にとっては最高の遊び相手に過ぎない。
私は、神殿の最上階にあるバルコニーで、眼下に広がる大陸の夜景を見つめていた。
黄金の光を放つ帝国。かつての荒野は消え、私の祈りが届くすべての場所が、宝石箱をひっくり返したような輝きを放っている。
(……ああ。私は、本当に幸せですわ)
不意に、背後から熱い体温が私を包み込んだ。
説明するまでもない。この世でただ一人、神の領域に土足で踏み込み、私を「自分の所有物」だと言い切る男。
「……また、一人で空を見ていたな、エルシア」
ギルバート様が、私の腰に腕を回し、その顎を私の肩に乗せた。
彼の低い声が、心地よい振動となって私の胸に響く。
「陛下。……セレスがこちらを見ておりますわよ」
「構わん。あの子には、自分の父親がどれほど母親に狂っているか、英才教育を施さねばならんからな」
ギルバート様は私の髪を指に絡め、愛おしそうに、そして独占欲を隠しきれない瞳で私を見つめた。
「エルシア。……神としての記憶を取り戻し、この聖域を手に入れた今、お前はもうどこへも行かないと、改めて私に誓え」
「ふふ。まだ不安なのですか? 私はもう、貴方様なしでは呼吸の仕方も忘れてしまいますのに」
「足りない。お前が神であろうと、私はお前を繋ぎ止めるための鎖になる。お前が銀河の果てまで行こうとするなら、私はその果てまでを帝国の領土として塗り替えてやろう」
彼は私の左手をとり、あの『星の心臓』が輝く指輪に、熱い口づけを落とした。
それは、数千年前の約束よりも重く、どんな魔法よりも強固な「愛という名の呪い」。
「エルシア。……私はお前を、泥の中から拾ったことを一度も後悔していない。お前が私を、ただの男にしてくれたからだ」
「私もですわ、ギル様。……貴方様が私を、一人の女として愛してくださったから、私は『神』ではなく『貴方様の妻』になれたのです」
私たちは、星々の祝福を背に受けて、深く、長い接吻を交わした。
天空の聖域は、もはや神が人間を見下ろす場所ではない。
一人の男と女が、永遠の愛を誓い、家族の絆を育むための、世界で一番高い場所にある「家」となったのだ。
かつて泥を啜れと捨てられた少女の物語は、ここで一度幕を閉じる。
けれど、私たちの「逆転」は、これからも終わることなく続いていく。
明日も、その次も。
私の瞳には、彼という名の唯一の太陽が。
彼の瞳には、私という名の唯一の銀河が。
――愛している、エルシア。
――ええ、私も。心から愛しておりますわ、ギル様。
夜空に溶けていった二人の誓いは、星屑となって、平和な大地へと降り注いでいった。
読者の皆様、第二部『神話編』、これにて完結ですわ!
泥の中にいたエルシア様が、空の頂点に立ち、愛する家族と永遠の幸せを掴み取る……。
書き終えた今、私、西園寺ミオも感動で扇子を持つ手が震えております。
ギルバート様の「英才教育」発言には驚きましたが、彼らしい、あまりにも重すぎる愛の形。
これこそが、エルシア様が求めていた「本当の居場所」だったのです。
ジュリアン王子やイザベラへの「ざまぁ」から始まり、世界を救い、神話へと至ったこの物語。
皆様の温かな応援があったからこそ、ここまで美しく、壮大に描き切ることができました。
心より、感謝申し上げます。
少しでも「この物語に出会えて良かった!」「最高のエンディングだった!」と感じていただけましたら、
最後に【★★★★★】の評価や、温かな完結祝いのメッセージをいただけますと、
西園寺ミオとしてのこれ以上の幸せはございません。
皆様の応援という名の「奇跡」が、またいつか、新しい愛の物語を紡ぎ出す力になります。
これからも、貴方の日常に「究極の溺愛」と「スカッとする大逆転」を。
また次の物語でお会いしましょう。




