第29話:鏡の中の愚者、後悔に狂う亡国の人々
天空の聖域の中央に鎮座する、巨大な『真実の鏡』。
その鏡面は水面のように揺らぎ、私の意志に応えて「かつての故郷」の惨状を映し出した。
そこにあったのは、もはや国と呼ぶことさえ憚られる、灰色の廃墟だった。
「……ひどい。これほどまでに……」
私が思わず声を漏らすと、ギルバート様は私の肩に手を置き、冷淡な眼差しで鏡を見据えた。
「自業自得だ。……見ろ、エルシア。お前を捨て、偽りの光を崇めた愚か者たちの末路を」
鏡がズームしたのは、かつて私を裏切った元婚約者、ジュリアン王子の姿だった。
彼は泥にまみれた王宮の跡地で、正気を失った瞳を泳がせながら、道端に落ちている汚れた布切れを必死に抱きしめていた。
『ああ……エルシア……。私の、私の聖女……。戻ってきてくれ……。今なら分かる……君こそが、この国のすべてだったんだ……!』
彼はその布切れを私だと思い込み、頬ずりをしながら、枯れた喉で私の名を呼び続けている。
かつての傲慢な面影はどこにもなく、ただ過去の幻影に縋るだけの、惨めな亡霊。
その傍らで、地を這い回っていたのは義妹のイザベラだった。
彼女の自慢だった「聖女の光」は、代償として彼女の生命力を食いつぶし、今や彼女の肌は老婆のように萎び、美貌は見る影もない。
『どうして……!? お姉様さえいれば、私はずっとお姫様でいられたのに……! あんな女、死んでしまえばよかったのよ……!』
彼女は今もなお、自分の過ちを認めず、憎悪と嫉妬の言葉を吐き散らしている。
だが、その声を聞く者は、周囲を徘徊する魔獣たち以外に誰もいない。
「……もう、十分ですわ」
私は静かに鏡から目を逸らした。
恨みも、怒りも、もう湧いてこない。
ただ、自分たちで選んだ「暗闇」の中で朽ちていく彼らに対して、深い「無関心」だけが胸を満たしていた。
その時、ギルバート様が私の視界を遮るように、鏡の前に立った。
彼は指先で鏡面を叩き、その映像を粉々に打ち砕いた。
「無価値なものにその銀河の瞳を使うな、エルシア。……あのようなゴミ共は、お前の記憶に残ることさえ許されん」
彼は私を強く抱き寄せ、耳元で独占欲を露わにした低い声で囁く。
「お前の瞳には、私と、私たちの未来だけを映していればいい。……過去という名の地獄は、奴らだけで共有させておけばいいのだ」
「……ふふ。そうですわね。私にはもう、帰る場所も、振り返る理由もございませんもの」
私はギルバート様の胸に顔を埋め、天空の聖域に流れる清らかな風を感じていた。
鏡が砕けた破片は光の粒となって消え、私の心からも、かつての「アステリア王国」という呪縛が、完全に消滅したのだった。
本話もお読みいただき、ありがとうございました!
「ざまぁ」の極致……!
ジュリアン王子が汚れた布をエルシア様だと思い込んで縋りつく姿、これ以上の「後悔」の形はございませんわね。
そして、他者の力を搾取して輝いていたイザベラの無惨な末路。
これが、偽物の光を求めた者たちが支払うべき対価なのです。
しかし、私が一番痺れたのは、ギルバート様の「鏡すら嫉妬の対象にする」という徹底ぶりですわ!
エルシア様が過去の男を(例え断罪のためであっても)見つめることすら許さない。
この独占欲こそが、エルシア様をどんな神話よりも大切に守り抜く盾なのです。
さて、過去を完全に清算した二人。
いよいよ物語は、真のハッピーエンド、そして「神の国」での新たな統治へと向かいます。
少しでも「王子の惨めな姿にスカッとした!」「陛下の独占欲が最高に甘い!」と感じていただけましたら、
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皆様の応援が、次回、エルシア様が『全知全能の女神』として、ギルバート様と共に永遠の誓いを立てる、最高のフィナーレの輝きになりますの。
これからもどうぞよろしくお願いします!
それでは、第二部もいよいよ佳境。次回の更新をお楽しみに。




