第26話:女神の休日、世界で一番甘い『家族の絆』
聖教国との戦いが終わり、大陸に真の静寂が訪れた。
教皇庁の偽りの権威は失墜し、今や人々は帝国の方角を向き、目に見えぬ「本物の女神」へと祈りを捧げている。
そんな喧騒を余所に、帝都の端にあるのどかな湖畔の町「アイテル」に、風変わりな三人連れが姿を現した。
「……陛下。いえ、ギル様。少し目立ちすぎてはいませんか?」
エルシアは、つばの広い麦わら帽子を押さえながら、隣を歩く夫を困ったように見上げた。
今日のギルバート様は、軍服を脱ぎ捨て、上質なリネンのシャツを纏った「旅の貴族」を装っている。……が、その隠しきれない圧倒的な覇気と、彫刻のような美貌のせいで、道ゆく人々が次々と石像のように固まっていく。
「これでも気配を殺しているつもりだ。……それよりもエルシア、帽子の紐が緩んでいる。誰かにその顔をまじまじと見られたら、私はその男の眼球を焼き潰さねばならなくなる」
「まあ、相変わらず物騒なことを……」
エルシアは苦笑しながら、夫の手を握り返した。
その二人の間を、小さな影が元気に跳ね回る。
「お父様、お母様! 見て、あそこに可愛いお菓子がありますわ!」
セレスティーナが指差したのは、地元のパン屋が焼いている素朴なハチミツパンだった。
三人で店先に歩み寄ると、店主の老人は、彼らの放つ尊いオーラに圧倒され、あわあわと手を擦り合わせた。
「い、いらっしゃいませ……! 旅のお方、よろしければ一ついかがですか? 今日はなぜだか、パンの膨らみが神懸かっておりまして……」
それもそのはず。エルシアがこの町に足を踏み入れた瞬間から、大気中の魔力が極上の「活性」を帯び、すべての命が輝き始めていたのだ。
エルシアが微笑みながらパンを受け取ると、指先が触れた瞬間、パンからは黄金色の湯気が立ち上り、周囲に天国のような甘い香りが広がった。
「美味しい……。ギル様、セレス、食べてみて」
一口食べた三人の顔に、穏やかな幸せが広がる。
ギルバート様は、娘の口元についたハチミツを指で拭い、それから愛しそうに妻の腰を抱き寄せた。
「……エルシア。かつて君を泥の中に捨てた世界は、もうどこにもない。今、君が歩く道には、私の愛と、君を慕う光だけが満ちている」
「ええ。……すべて、貴方様が私を見つけてくださったおかげですわ」
湖面に反射する光の中、二人は静かに唇を重ねた。
娘のセレスティーナが「わあ、またお父様が独り占めしていますわ!」と笑い声を上げる。
かつて孤独に雨に打たれていた少女は。
今、世界で最も強く、最も重い愛に守られながら、永遠に続く幸福な「休日」を歩み続けるのだった。
本話もお読みいただき、ありがとうございました!
お忍びデート(兼・家族サービス)。
ギルバート様の「眼球を焼き潰す」発言、相変わらずの溺愛暴走っぷりに、私も思わず頬が緩んでしまいましたわ。
皇帝という重責を背負いながら、結局は「妻と娘の笑顔」が最優先……これこそが、全読者が認める「理想の夫」ですわね。
そして、エルシア様が無意識にパンを「聖食」に変えてしまうシーン。
彼女の持つ神の力は、もはや戦うためのものではなく、愛する人たちを幸せにするための「魔法」として定着したようです。
さて、このまま穏やかな日々が続くのか……?
と思いきや、実は「神話の真実」はまだ完全に解明されたわけではありません。
少しでも「三人の幸せな姿に癒やされた!」「もっと甘いエピソードが読みたい!」と感じていただけましたら、
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皆様の応援という名の「ハチミツ」が、次話、エルシア様が『自分自身のルーツ』を探るための、新たな冒険への活力になりますの。
これからもどうぞよろしくお願いします!
それでは、次回の更新もお楽しみに。




