第24話:禁忌の召喚、古の魔王すらエルシアに跪く
帝都から遥か西、聖教国との国境付近の空が、どす黒い「亀裂」に飲み込まれた。
十二聖騎士を失い、追い詰められた教皇庁が禁忌の魔導書を開いたのだ。
次元の裂け目から溢れ出すのは、おぞましいまでの瘴気と、生きとし生けるものの魂を凍らせる絶望の波動。
「――出でよ、古の破壊神! 我が国の敵を、あの魔女と死神を、根こそぎ喰らい尽くせ!!」
国境付近に集結していた聖教国の魔導師たちが、自らの命を削るような絶叫を上げる。
すると、裂け目から巨大な、漆黒の翼を持つ巨人が這い出してきた。
かつて神話の時代、神々に叛旗を翻し、世界を半分焼き尽くしたと言われる伝説の魔王・アスタロト。
「……あ、あれは……」
帝都のバルコニーで、エルシアはその「闇」を見つめた。
セレスティーナを背中に隠し、彼女の銀河の瞳が、無意識のうちにその深淵を見透かす。
「エルシア、下がっていろ。……あれは、少々『掃除』に時間がかかるかもしれん」
ギルバート様が、愛剣を抜き放ち、戦鬼の如き冷徹な表情で前に出る。
だが、その時だった。
咆哮を上げ、帝都を壊滅させようと飛来した魔王アスタロトが、エルシアと視線が合った瞬間――。
巨体が、空中でぴたりと止まった。
「……? どうした、死神。……いや、違う」
魔王アスタロトは、震える瞳でエルシアを凝視した。
その凶悪な双眸から、あろうことか、大粒の涙が溢れ出す。
「お、……おお……! ああ……!!」
魔王は、重力に逆らうことも忘れ、地面へと垂直に落下した。
ドォォォォンッ!! という轟音と共に、彼はギルバート様を素通りし、エルシアの立つバルコニーの足元に、まるで壊れた人形のように跪いたのだ。
「――母様……っ! 我が、真なる創造主よ……!!」
地響きのような、けれど泣きじゃくる子供のような声が響き渡った。
魔王は自らの漆黒の角を石畳に擦り付け、必死に忠誠を示そうと身を震わせる。
「……は、母様? 私が……ですか?」
エルシアは困惑して瞬きをした。
魔王アスタロトは、嗚咽を漏らしながら語る。
「数千年の間、貴方様の再臨を待っておりました……。私を創り、この世界に理を与えた、銀河の瞳の主よ! あの聖教国の不届き者どもは、貴方様を『魔女』と呼び、あまつさえその尊い命を狙おうと私を呼び出したのです……! ああ、万死に値する!!」
「……待て。創造主、だと?」
ギルバート様が、剣を構えたまま、何とも言えない複雑な表情で魔王を見下ろした。
彼はエルシアを抱き寄せ、魔王を牽制するように睨みつける。
「おい。その『母様』という呼び方は気に入らんな。彼女は私の妻だ。……たとえ魔王であろうと、気安く呼ぶことは許さん」
「ひっ、し、失礼いたしました! しかし、彼女の瞳に宿る銀河は、この世界が生まれる前の『原初の輝き』そのもの……! 我ら魔族にとって、彼女こそが絶対の真理なのです!」
魔王アスタロトは、跪いたまま、今度は聖教国のある西の空へ向かって、凄まじい殺意を放った。
「母様。……あのような、貴方様の力を盗み見て『神』を騙る、厚顔無恥な羽虫どもを掃除する許可を。……このアスタロト、今すぐあの国を、塵の一つも残さず消滅させて参ります!」
「ちょ、ちょっと待ってください! ……陛下、どうしましょう……?」
エルシアが狼狽える中、ギルバート様はふっ、と不敵な笑みを浮かべた。
「いいだろう。……エルシア、これは好都合だ。我々が手を汚すまでもない。……魔王よ。聖教国のすべての『権威』を、その根源から食い破ってこい。……ただし、エルシアの気分を害するような『残酷すぎる光景』は、彼女の目に入らぬよう配慮しろ」
「御意!!」
魔王アスタロトは、歓喜の咆哮を上げながら、再び黒い翼を広げて飛び立った。
聖教国の崩壊は、もはや時間の問題となった。
聖教国が自ら召喚した「最強のカード」が、エルシア様への「狂信的なファン」へと豹変した瞬間であった。
本話もお読みいただき、ありがとうございました!
教皇庁が「これで勝てる!」と確信して呼び出した魔王が、エルシア様を見た瞬間に「ママぁ!」と泣いて跪く……。
これぞ、究極の「無自覚・神格・逆転劇」ですわね!
ギルバート様の「母様という呼び方は気に入らん」という嫉妬、最高ですわ。
魔王に対しても、嫉妬の炎を絶やさない……。これこそが、私たちが愛する陛下です。
さて、魔王を味方につけたエルシア様。
聖教国は、自分たちが呼び出した魔王によって滅ぼされるという、これ以上ない皮肉な末路を迎えることになります。
少しでも「魔王の忠犬っぷりに笑った!」「聖教国の自業自得が楽しみ!」と感じていただけましたら、
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皆様の応援が、次回、聖教国の教皇が絶望の中でエルシア様の『真実』を知るための、最高の演出になりますの。
これからもどうぞよろしくお願いします!
それでは、次回の更新もお楽しみに。




