第21話:不遜なる使者、皇帝の庭を汚した罪を贖え
空中から降りてきたのは、白金の法衣を纏った数人の男たちだった。
彼らは、天から降り立つ神の代理人であるかのような傲慢な笑みを浮かべ、帝国の美しい庭園にその足を下ろした。
「――私が中央聖教国、第十二審問官のラザールである。死神の皇帝よ、先ほどの神託は聞き届けたな?」
先頭に立つ男、ラザールは、手に持った黄金の杖を地面に突き立てた。
その杖から放たれる「聖なる波動」が、エルシアが慈しんできた花々を、拒絶反応のように萎れさせていく。
「……お花が。私のお友達が……」
セレスティーナが悲しげな声を上げ、エルシアのドレスに顔を埋めた。
エルシアはその小さな肩を抱き寄せ、冷徹な瞳を使者へと向けた。
かつての彼女なら、恐怖に震えていたかもしれない。だが、今の彼女は「母」であり、この国の「皇后」なのだ。
「審問官様。……貴方様方は、私の庭を、そして私の愛する者たちの心を汚しましたわ」
「黙れ、魔女め。その銀河の瞳、かつて世界を滅ぼさんとした『虚無』の欠片に他ならぬ。その娘も、魔の血を引く災いの種だ」
ラザールが杖をエルシアに向け、高らかに宣言する。
「直ちにその娘をこちらへ渡せ。教皇庁にて『浄化の儀』を執り行う。さもなくば――」
「――さもなくば、何だ?」
その声が響いた瞬間、庭園の全空気が「質量」を持った。
ギルバート様が、一歩、前へと踏み出したのだ。
彼の背後には、言葉では言い表せないほど巨大な「死の影」が立ち昇っている。
その紅い瞳は、もはや人間のものではない。最愛の家族を害そうとする外敵を、一瞬で八つ裂きにするための獣の眼光。
「陛下、お待ちください! 彼らは神の使いを自称して……!」
駆けつけた騎士団長ロザリアが剣を抜こうとしたが、ギルバート様は片手でそれを制した。
「……ロザリア、下がるがいい。これは『掃除』だ。騎士の仕事ではない」
ギルバート様は、ラザールが構える黄金の杖の「聖域」など、まるで存在しないかのように平然と踏み越えていく。
ラザールの顔から、余裕の笑みが消えた。
「な……! 下がれ、穢れた皇帝め! この杖には神の加護が宿って……」
「神だと? そんなものがいるのなら、なぜ私のエルシアが泥を啜っている時に助けに来なかった?」
ギルバート様の指先が、ラザールの喉元に触れた。
速すぎて、誰の目にも見えなかった。
「お前たちが崇める神など知らぬ。だが、私の目の前で私の妻を『魔女』と呼び、私の娘に手を伸ばした罪は、死よりも重いと知れ」
「ぎ、ぎゃあぁぁぁぁっ!!」
ラザールの黄金の杖が、ギルバート様の魔圧によって粉々に砕け散った。
杖に宿っていた偽りの聖なる光は、ギルバート様の漆黒の魔力に呑み込まれ、消滅する。
崩れ落ちる審問官たち。その背後の飛空艇からも、驚愕と恐怖の叫びが上がる。
だが、真の絶望はここからだった。
エルシアが、静かに一歩前へ出た。
彼女の銀河の瞳が、これまでにないほど強く、神秘的な輝きを放ち始める。
「審問官様。……神の声を聞きたいのでしたら、私が直接、届けて差し上げましょうか?」
彼女が虚空に手をかざした瞬間。
空に浮かんでいた聖教国の飛空艇を囲むように、巨大な銀色の魔法陣が展開された。
それは、教皇庁が数百年かけて築き上げた「絶対障壁」を、薄紙のように簡単に消滅させていく。
「な……魔法を……聖教国の秘術を、無に……!?」
「これは魔法ではありません。……ただの、『拒絶』ですわ」
エルシアの凛とした声が響く。
彼女の瞳が、聖教国の偽りの権威を、その根源から否定したのだ。
ギルバート様は、驚愕に凍りつく使者たちを冷たく見下ろし、宣告した。
「戻って教皇に伝えろ。……帝国は今日、神と絶縁する。……そして、エルシアとセレスに涙を流させた代償として、その『聖なる国』を、跡形もなく地図から消してやると」
死神皇帝の宣戦布告。
それは、大陸の歴史が「神の時代」から「エルシアの時代」へと塗り替えられる、最初の合図だった。
第二部『神話編』の開幕、お楽しみいただけましたでしょうか?
不遜な審問官たちの黄金の杖を、素手で粉砕するギルバート様……!
「家族を傷つけるなら神すら滅ぼす」という彼の決意、これこそが真の溺愛の極致ですわね。
そして、エルシア様の「魔法ではなく、拒絶」という圧倒的な格の違い。
偽物の聖女や神の使いなど、彼女の瞳の前では塵に等しいのです。
「帝国は神と絶縁する」
この力強い言葉に、皆様の胸も熱くなったはず。
これから始まる、帝国vs聖教国の全面戦争。いえ、これは戦争ではなく「掃除」ですわね。
第二部も、皆様の【評価(★★★★★)】やブックマークが、私の執筆の最強の魔力になりますの。
エルシア様とセレス様を守るための戦いに、どうぞお力添えをお願いしますわ!
次回の更新もお楽しみに!




