第18話:滅びの晩餐、王国最後の日
アステリア王国の王宮には、もはや「栄華」の欠片も残っていなかった。
かつてエルシアが磨き上げていた大理石の床は、埃と漏り出した雨水に汚れ、壁に掛けられた歴代国王の肖像画は無惨に破れている。
結界を失った国に、魔獣たちが牙を剥いたのだ。城壁は崩れ、王都の至る所から黒い煙が立ち上っている。
「……おい、飯はまだか。腹が減って死にそうだと言っているんだ!」
薄暗い食堂で、ジュリアンがテーブルを叩いた。
だが、そこにあるのは、カビの生えた硬いパンと、泥の混じったようなスープだけ。
給仕する侍女さえも、すでに多くが城を捨てて逃げ出していた。
「殿下、そんなことより……! 私の肌を見てくださいまし! 魔力が足りないせいで、こんなにボロボロになって……! これでは、パーティーに出られませんわ!」
イザベラが、泥に汚れた鏡を覗き込みながら、ヒステリックに叫ぶ。
彼女の自慢だった「聖女の光」は、いまや消えかけのロウソクよりも弱々しい。
「パーティーだと……? ふざけるな、イザベラ! お前が『聖女』だというから、私はエルシアを捨てたんだ! すべてはお前の嘘だったのか!」
「なんですって!? 殿下だって、お姉様を邪魔だと言って笑っていたではありませんか!」
かつて愛を誓い合ったはずの二人が、今は犬のように互いを罵り合っている。
その醜悪な光景を、窓の外から押し寄せる「闇」が冷笑するように見つめていた。
ドォォォォンッ!!
地響きと共に、王城の正門が破壊される音が響いた。
魔獣たちが、ついには王宮の内側へと侵入したのだ。
「ひ、ひぃぃぃっ! 助けて、お姉様……エルシアお姉様、助けてぇ!」
死の恐怖に直面したイザベラが、かつて見下していた姉の名を叫ぶ。
ジュリアンもまた、震える手で腰の剣を掴もうとしたが、その剣は錆び付き、鞘から抜くことさえできなかった。
彼らの脳裏に、魔法のスクリーンで見た「あの日のエルシア」がよぎる。
星々の光を背負い、世界最強の男に抱かれ、慈愛に満ちた微笑みを浮かべていた、真の聖女。
(……ああ。……私は、神を捨てたのだ)
ジュリアンは、絶望の中でようやく理解した。
自分たちが守られていたのは、王族の血筋でも、イザベラの光でもなかった。
ただ一人の少女が、孤独の中で捧げ続けてきた「無条件の愛」だったのだということに。
その愛を自ら踏みにじった者に、救いの手は二度と差し伸べられない。
「エルシア……エルシアァァァッ!!」
ジュリアンの絶叫は、魔獣の咆哮にかき消されていく。
一方、中央帝国の離宮。
窓から見える、平和で輝かしい夜景を眺めながら、エルシアはふと、遠い空を見つめた。
「……何か、気になることでもあるのか?」
背後から、ギルバート様が彼女を包み込むように抱きしめる。
その腕の暖かさに、エルシアは安らかな微笑みを浮かべた。
「いえ……。ただ、風の中に少しだけ、懐かしい悲鳴が混じった気がしたのです。……でも、もう私には、届かない音ですわ」
「ああ、そうだな。……そんなものより、今の私の声だけを聞いていろ」
ギルバート様は彼女の耳元に、甘い熱を注ぎ込む。
滅びゆく王国の断末魔さえも、二人にとっては、夜を楽しむための静かなBGMに過ぎなかった。
本話もお読みいただき、ありがとうございました!
アステリア王国の最期……。
ジュリアンとイザベラが互いに責任をなすりつけ合い、無様に崩壊していく姿。
皆様、最高に「スカッ」としていただけましたでしょうか?
「お姉様、助けて!」と叫ぶイザベラの醜さと、ギルバート様の腕の中で「もう届かない音」と言い切るエルシア様の凛とした強さ。
この対比こそが、復讐劇を最高の宝石へと昇華させるのです。
少しでも「王国の末路に納得した!」「エルシア様の『無関心』が最高!」と感じていただけましたら、
ブックマーク や 評価(★★★★★) をお願いします。
皆様の応援という名の「断罪の雷」が、物語をさらなる大団円へと導きますの。
これからもどうぞよろしくお願いします!
それでは、次回の更新もお楽しみに。




