悪女の幼なじみ 5
テラス内部は、天窓付近から吊りさがったいくつものスワロフスキー製のサンキャッチャーが、優しい太陽の日差しを反射する輝く空間だ。
中央に位置するここ、メインテラスはなだらかな丘の上に建っている。
庭園中が見渡せるよう、貴重なガラスをテラス全面に壁として用いており、どこからでも好きな景色のガーデニングを楽しめる造りだ。
天窓からは暖かい日差しが差し込み、どこからともなくバラとハーブの香りがほのかに流れ込んでくる。
花の色彩を楽しめるように室内は最低限の情報量に抑え、インテリアは全てクリスタルか、オフホワイトの物で整えている。そして、それらのスタイリングは、テラスに来た客が好きな植物を鑑賞できるように自在に配置を変えられる。
広大な庭園の敷地内には、ここ以外にも2つほどテラスが存在するが、それぞれの庭園のテーマにあてて、テラスの建築様式も変えている。この中心にあるミニバラとハーブのメインテラスは近代建築で、機能性とデザイン性を兼ね備えた設計だ。
当主がこだわり抜いたド・シルヴァ家のそんな庭園は、国内でも一番の完成度との呼び声が高い。
けど、そんな風景式庭園、ナチュラル意識のド・シルヴァ家の庭園は、悪女にはあまり相応しくないんだよね。
好きだけど、本当は大好きなんだけど、悪女には、きっちりきっかり揃えられた整形式庭園……、そう、宮廷のような、一寸の狂いなく設計された生垣に囲まれた庭の中心で、オホホホホと高笑いをするのがお似合いだろう。
ソファに体を埋め、徐にそんなことを思いつつ庭を眺めていれば、サラが隣に立った。
どきっ。小心者の心臓が跳ねる。
「何からお話しすれば良いですかね、」
サラが思案げに呟きながら、ティーカップを私の前へ置いた。中の紅茶が、静かに波打つ。
まるでその様子は今の私の心を表しているかのようである。
どきどき。
私は今、未だかつてない緊張感に包まれている。
王族と会う時のように背筋を伸ばして、指先を膝の上で握り込んだ。
一体、何が明かされようと言うのか!
「えーと、そうですね、全ての発端は……、うーん、難しいわね、何が最初なのかしら、えーと、」
………どきどき。
ああでもないこうでもないとサラが唸る。
……どきどき。
どきどき……。どきどきを弄ばれている私。
サラが唸っている間、行き場なく視線を彷徨わせていれば、サラと反対側に立つキースが目に入った。
彼は何かそわそわした後、気まずそうに俯いている。
なに?
どうした、さっきまでの勢いどうした?
首をかしげるも、思い当たる節はない。
サラはそんな中、突如として爆弾を落とした。
「……えー、そうですね、まず、キースはディアナ様が好きなのですわ」
「え?」
「は!?」
聞くや否や、キースが素早くサラに摑みかかった。
おっと戦争だ!!!
「てめぇ何言ってんだ!」
「あらいやだ! ほんとに一番どうでもいいことからお話ししてしまいましたわ!!」
「ほんっとにお前ぇ……!!」
殴りたいのを抑えてか、拳を振り上げたまま、わなわなと震えるキース。
私は驚いて、思わずキースを凝視した。
いやいや、こんなサラの冗談に、どんだけ怒ってんだ……!?
あり得ない嘘にも、これ程過剰に反応するとは。ちょっとの可能性でも、私に勘違いされたくないのか。どんだけだ。ねえ、私のこと嫌いすぎない?
「キース。私はこんな嘘信じないから、落ち着いてくれるかしら?」
内心傷つきながらも、宥めるため言う。なんと大人な対応であろうか。
すると、途端にキースはサラから手を離し、苦虫を噛み潰したような顔で私を見た。
え、なに、その顔。
気を利かせてやったというのに、何か文句でもあんのか?
「ああー、微妙な気持ち……」
ボソリと呟くキース。
微妙とはなんだ!
一方サラは何事もなかったかのように、掴まれてシワが寄った襟元をしれっと正すと、これまた、しれっと話を続けた。
「いいですか、ディアナ様。……よくお聞き下さいませ」
「は、はい……」
しっかりと目を合わせた後言い聞かせるように言われ、私の返答はもはやしどろもどろだ。そして、突如として不安に襲われる。
一体、何を言われると言うのだ。
再び激しい緊張が身を包み、私はゴクリと喉を鳴らした。
私が緊張のあまり姿勢を正すのをしかと見届けたサラは、一つ大きく頷く。
そして、その小さな桃色の口を開いた。
「キースは嫉妬に狂い、ディアナ様が婚約破棄のために性格の悪い人物を演じていることを王子たちに話してしまったのです」
ーーーは?
静かな怒りを讃える声で紡がれたその言葉は、瞬間、私の頭を空っぽにした。
ーーーなに? キースが王子に話した??
ーーー………?
ーーーなんですと!?!?!?!!?