第五話
その後、友利はコジョの案内で応接間へと移される。
先程の"ビースタル"の輝きによって傷が消えた際、体の疲れも同時に消え去った気がしたのだ。
だけど、あれ以降時折ボーッとしてしまう。
"ビースタル"の輝きが忘れられずにいた。
まるであの石に取り憑かれたみたいに。
「友利ー? もーしもーし?」
「ふへ?」
彼女はコジョの呼びかけに反射的に答える。
コジョは怪訝そうな顔で言った。
「大丈夫ですかー? まだ眠り足りなかったですか?」
「え、あぁいいえ……大丈夫です」
「ふーん? まぁならいいや。それより着きましたよ応接室」
「は、はい。ありがとうございます」
友利がコジョに御礼を言う。
コジョはあくびをしながら頷き、扉を開けようとする。
するとピタッと動きを止める。
「……あ、あの?」
「あー……すみません。先客いるっぽいんですが」
「へ? 大丈夫ですよ」
「……まぁ。ファイトです」
コジョは何か諦めたように友利を鼓舞し、扉を開ける。
中は本当に豪勢な装飾が施されており、ファンタジーの世界みたいな風景だ。
白くてふわふわしてそうな大きいソファに、高さは低いがとてもキラキラして見えるテーブル。
思わず目を瞑りたくなるくらい綺麗で、自分にとって場違い感が半端では無いと感じる友利。
「……凄い」
最早彼女には、こんな言葉を呟くことしか出来ない。
ふと見ると、部屋の中にはコジョの言う通り一人の先客がいた。
ソファにゆったり座ってくつろいでいる様子。
「……き、狐?」
その者の顔は狐だった。
口にはタバコと思われる紙束を咥えている。
彼女は薄々勘づいてはいた。
この世界の住人が大体獣頭なことは。
だけど未だに慣れない。
というより違和感を拭い切れない。
「……狐がタバコ?」
「……?」
つい友利は狐頭の人を凝視して首を傾げた。
狐頭もその行動に困惑する。
「……コジョ、このお嬢ちゃんは客人?」
「そうですよー。友利だって」
コジョがあくびしながら答える。
面識があるってことは、この屋敷の関係者なのだろうか。
友利が考えこんでいると、狐頭は灰皿にタバコを捨てる。
そして彼女のことを十秒程見つめる。
「……こいつぁたまげた。まさか人間だとは」
「へ……あ……そ、の……」
友利は本能的に恐怖を感じた。
スナッチにあんな目に合わされたことが、彼女の脳裏にチラついてしまう。
するとコジョが間に入る。
「フォウスさん。貴方は乙女心を理解してください」
「え? そいつぁどういう──」
「スナッチの件です」
「……なるほど。そいつは失敬」
狐頭のフォウスが、友利に深く頭を下げて謝罪する。
「初めまして。俺はフォウス。見ての通り狐だ。レオとは腐れ縁でな、ここには良く来るんだ。ま、よろしく頼むぜ」
「あ、は、はい! 私は友利って言います」
「なぁに。あいつの連れて来たやつなら悪いやつはいねぇだろうさ。固くならなくても平気だぜ」
フォウスが片目をウィンクしながら気作に言う。
コジョが気怠そうにフォウスに言う。
「この部屋でのタバコは控えてくださいって何回言いましたっけ?」
「でも別にここは禁煙では無いだろう。それにレオだって許してくれてるし、コジョは面倒くさがりの割に真面目だよなぁ」
「……まー。これでも一応使用人なんで」
コジョが眠たげにそう言う。
するとフォウスは友利にズイっと顔を向ける。
「で、友利だっけ? レオとはどういうあれなんだ?」
「あ、あれ?」
「どういう関係か、だよ。あいつは確かに物好きだが、そう簡単に人を屋敷に入れるたぁ思えねぇからな」
「か、関係って……! そ、そそそんなもの無いです! た、助けて貰っただけです!」
友利は羞恥心の余り顔を真っ赤にして否定する。
フォウスが大笑いする中、コジョは眠そうに頭をカクンカクン動かしていた。
続く




