第三話
コジョが眠そうにあくびをして友利の隣に座り込む。
「いやぁ。にしても珍しいですね? あんたヒトでしょ?」
「へ? ひ、人ですけど」
友利はあまりピンと来てない様子だった。
でも思えば当然なのかもしれない。
彼女にはこの世界が絶対に地球とは違う場所なことは分かる。
それに加え、獣の頭に人間の体をした生き物との遭遇。
もしそれが当たり前の世界なのなら、友利のような人間は珍しいのかもしれない。
「珍しいんですか?」
「……まぁ珍しいですね。そりゃハイエナどもにも狙われる訳ですわ」
「……あの。私って、なんか狙われる要素があるんですか?」
「そりゃあもう。全身狙われてるようなもんですよ? 多分爪一枚だけでも……十万くらいの価値があるんじゃないですかね」
「じゅ……!?」
彼女は息を飲む。
すると、部屋の扉がまた開かれる。
そこから現れたのは、先程友利を助けてくれた獅子頭の人だった。
ため息をつきながら部屋に入る。
「コジョ。あんまりその人を怖がらせるな」
「すんませーん。レオリアさん」
コジョがヘラヘラした様子で謝罪する。
友利は獅子頭──レオリアを見つめる。
動物園でよく見るライオンと同じタテガミに、可愛らしくも威厳の感じられる顔。
背が高くガタイも良い筋肉質な体と、友利からすれば異質な存在なことこの上ない。
だけど、どこか安心感も感じられる。
「具合の方はどうだ?」
「っ……! は、はい。大丈夫です……」
重みがあり、そして堂々としている声に友利はビクリとしてしまう。
ライオンからこんな声が聞けるものなのだろうかと、頭の中で混乱している。
レオリアは「ふむ」と呟く。
「特に問題は無さそうだな。それは何よりだ」
レオリアは安心したように微笑む。
友利は思わず彼に尋ねる。
「あの……貴方は……?」
「私の名はレオリア。この辺りの土地を統治している伯爵だ。そしてこの子は、この屋敷で使用人をしているコジョだ」
彼はコジョの紹介も軽く済ませる。
伯爵……? 統治……?
聞き慣れない単語ばかりに、友利は戸惑ってしまう。
「そう言う君は、一体何者だい?」
「え……えっと……」
「伝えられる範囲で構わない。私は君のプライバシーにまで触れるつもりは無い」
「……佐野友利です……その……ただの一般人です?」
自己紹介に困った彼女は、懸命に言葉を捻り出した。
コジョは「ふーん」と雑に返答し、レオリアは微笑んだ。
「友利……だな。よろしく頼む」
「は、はひ」
レオリアに手──というよりは獅子基準なら前足と思われる部位を差し出される。
握手なのだろうと思い友利は恐る恐る前足を握る。
「……へ?」
彼女は思わず声を上げる。
柔らかい。
レオリアの手が非常に柔らかいのだ。
握っていて心地の良い感覚に、友利はふと思い出す。
ライオンはネコ科の動物だ。
肉球くらいあっても当然である。
「……柔らかぁい」
夢中になってプニプニと肉球を触る友利。
するとレオリアが少し困った顔になる。
それを見てハッとした友利は、慌てて手を離す。
「ご、ごめんなさい! ついその……」
完全に相手のことを忘れていた。
いくら体の構造が獅子だからといい、この世界では人間のような立ち位置なのだ。
友利はこの世界でのセクハラを働いたようなものだ。
しかも相手は伯爵を名乗る人物──。
完全にやらかしたと、友利は全てを諦めたが。
「……はっはっ。構わないさ。このくらいのスキンシップ。減るものも無いからな」
「え、あぁ……そうですか」
「あぁ……強いて言うなら、少々くすぐったかったな」
レオリアは恥ずかしそうに視線を逸らし、顔をポリポリと掻く。
予想外に可愛らしい反応に友利は「ふふっ」と静かに笑う。
すっかり毒気の抜かれてしまった彼女は改めてレオリアに言う。
「えっと……レオリアさん。助けてくれてありがとうございました」
「……気にするな。この程度のこと朝飯前さ」
「レオリアさん、もう昼飯も食べましたよ?」
「……細かいことは気にするなコジョ」
レオリアの困った反応に、友利は更に笑った。
続く




