第二話
友利は獅子の姿を見つめたまま固まってしまう。
"スナッチ"と呼ばれたハイエナ頭が舌打ちをする。
だがその顔には不敵な笑みが貼り付いていた。
「これはこれは。レオリア伯爵じゃないですか」
「スナッチ……貴様またその様な非道な真似を」
「いやそうは言いましても。ハイエナってそう言う生物なのですよ。それに今回は話が違いますからねぇ」
スナッチがそう言う。
レオリアが首を傾げる。
「何が違うんだ?」
「伯爵だって分かってますよね? こいつぁ……"人間"だ。人間の肉体が闇市で高く売られてることくらい知ってますよねぇ? 確かそうだな……少なくとも一億はくだらないですね」
スナッチのその話を聞き、友利が身震いする。
闇市……? 一億……? 私が……そんなに?
本能的な恐怖と、不可解さに再び脳がグラグラし始める。
レオリアがそれを聞いて呆れたように鼻を鳴らす。
「人身売買か。お前たちは相変わらず変わらないな」
「まぁそうですな。そんな訳で、このまま見逃してくださりませんか? 伯爵様ぁ」
「お前ならいい加減分かるであろう。私がお前を逃がすとでも?」
「まぁね。でもこっちには群れと人質が──」
言いかけた時。
レオリアは深く息を吸い込みハイエナ達に向かって咆哮を上げた。
ライオン特有の耳に響く力強い鳴き声が、周囲の木々を揺らす。
スナッチの周りを囲むハイエナが、震えながら後退し始める。
ただし、彼は一切動じていない。
「相変わらずの覇気に咆哮だ。こんな野生のハイエナ共じゃあこうなるか」
「さぁどうする?」
「……まぁしゃあねぇか。今回も引くとしよう」
スナッチは友利を解放し、ハイエナ達を率いてこの場を去ろうとする。
その前に振り返る。
「その人間……いずれは目の一つだけでも貰いに行くぜ」
そんな捨て台詞を吐いてスナッチ達は去って行った。
それを見たレオリアは「ふぅ」と息をつき、友利に歩み寄る。
「君、大丈夫か?」
「え……そ、その。ありが」
友利が素直にお礼の言葉を口にしようとした時。
彼女の目の前がくらりと歪み、体から力が抜けていく。
「…………ぁ」
声にもならない声を漏らし、その場に彼女は倒れかける。
倒れきる前にレオリアがバッと受け止めた。
意識を失った友利の顔を見て、彼は苦笑いする。
「あんな目に遭ったのだから当然だ。ひとまず屋敷に向かうか」
レオリアは友利を抱えたままジャングルを駆け始めた。
友利の目が覚めた時、ベッドの上に寝かされていた。
天井にホテルでよく見るオシャレな明かりがぶら下がっており、眩しくて思わず目を細める。
彼女が体を起こす。
手のひらには包帯が巻かれている。
スナッチにナイフを刺されたところだ。
大怪我な訳では無かったが、大袈裟に包帯が巻かれている。
「……助かった……の?」
少なくともここは友利の家ではない。
今までのは全て夢という訳でも無い。
とは言え、あんな状況で生き残れたことにも驚いてしまう。
すると部屋の扉が開かれる。
扉の奥から現れたのは、細身の肌白い生き物だ。
顔を見ると、それはまるでイタチのような顔立ちだった。
白い色のイタチ……オコジョかな?
彼女は頭の中で該当する動物を探し出す。
オコジョと思われる生き物はこちらを少し驚いた顔で見る。
「おー。大丈夫ですかー?」
やる気が無さそうなフランクな問いかけ。
友利は困惑しつつも答える
「だ、大丈夫です。えっと……ここって?」
「ここはレオリアさんの領地の屋敷ですねー。私はこの屋敷の使用人のコジョって言いますー。よろー」
使用人のイメージとは遥かにかけ離れた態度をしている。
友利は思わず苦笑する。
「よ、よろしくお願いします……」
何だか不思議なことに巻き込まれてしまったと、友利は心の中で思ってしまう。
だけど、少しワクワクしている彼女もいた。
続く




