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第一話

ビースタル


第一話

とある平凡な女子大学生──佐野友利さのともりは、大学の講義を終えて近くの猫カフェに友達と来ていた。

周りにいる多種多様な猫達に、友利は気分が高揚する。


「うわぁ……今日も猫ちゃん達可愛いねぇ……」


様々な猫に囲まれた状態で、頬が緩みきった感覚に陥っている。

友達の女子もそれに同調するように頷く。


「猫って可愛いよねぇ。犬も好きだけど、猫には敵わへんよぉ」


「わかるぅ……はぁ……幸せだけど、うち猫飼えないんだよなぁ」


「あー。親が苦手とか?」


「そーなのー。あぁーいつまでもこうして触れ合ってたいよぉ……」


友利は猫の体に頬を擦り付けながら嘆く。

その頬には微かに涙が伝っていた。

友達の女の子が驚く。


「ちょっ友利!? そんな泣いちゃう程なの!?」


女子が必死に友利を宥める中、猫達はそれを知らずに「ニャー」と鳴いていた。



帰り時間。

友利が涙目になりながら店を出て、友達と向き合う。


「と、友利大丈夫?」


「大丈夫……! また明日にでも来ればいいから!」


「お金とか……大丈夫?」


「大丈夫! 明日給料日だし!」


そう言って二人はそれぞれの帰路につき、別々の道を歩き始めた。

友利は夕暮れの空を見上げながら帰宅する。

スマホを手に取り近くの自販機で飲み物を購入する。

すると自販機が反応した。

アプリ数回使用記念のサービスだった。

購入した物の他に炭酸飲料がオマケでついてきた。

ただ友利はそこまで嬉しくなさそうだった。


「私炭酸苦手なのにぃ……」


苦虫を噛み潰したような顔で炭酸を鞄にしまいこむ。

次の瞬間。


「ナーゴ」


先程とは違う種類の猫に出くわした。

友利は目を見開く。


「あ! 猫ちゃん!」


友利は猫に無邪気に近づく。

猫はそれを直ぐさま察知して逃げ去った。

友利が後を追いかける。

猫の消えた方向に進む。

森の様な道をひたすら突き進み──。



気がついたら、全く身に覚えの無い森に来ていた。

友利は違和感を覚えて周りを見渡す。

よく見ると森というよりは、ジャングルに近かった。

先程まで茜色の夕暮れだったのに、朝日に変わっている。

友利は怖くなって震えた。


「何……ここ……?」


彼女にはここにやってきた理由が分からない。

ただ猫を追いかけてここに来ただけなのに。

そんなに長い距離は移動してない筈なのに──。

状況が飲み込み切れず、友利は辺りをキョロキョロ見回す。


「と、とりあえず歩こう」


手に下げた鞄をキュッと握りしめて歩き始める。

足元は細くも太くも無い木の根が剥き出しになっており、時折足を引っ掛けてしまう。

あと小さい虫がずっと飛んでいる。

虫除けスプレーでも持ってくれば良かったと、彼女は心の中で思う。

と、友利は不意に一本の木を見つめる。

その直後「ひっ」と小さな悲鳴を上げて、その場に尻餅をつく。

木の幹に大きな爪痕のような三本の線がついていたのだ。

恐らく、人間なんて簡単に三等分されてしまう程のものだ。

立て続けに引き起こる怪奇的な状況に、友利の体の震えは勢いを増した。

その直後だ──。

周囲の茂みからガサガサと音が鳴り始めた。

全方位から聞こえるそれに、友利は息を詰まらせる。

茂みからゆっくりと、音の正体が顔を見せる。

現れたのは──ハイエナだ。

目と牙を鋭く光らせ、口から涎を垂らしながら彼女を睨む。

逃げなきゃいけないことは、友利にも分かっている。

なのに体が動かない。

周囲の大量のハイエナが、ジリジリと彼女に寄ってくる。

完全に獣達は、彼女を"捕食対象"として見ている。

友利が恐怖の余り、意識が飛びそうになった時。


「おいおいやめろよテメェら──こいつぁ珍しい」


声が聞こえる。

同時にハイエナ達は友利から距離を起き始める。


「え──?」


不思議に思い声の方を見る友利。

そして再び息を飲んだ。

そこに居たのは、人のような体や足を持った……ハイエナの顔をした生き物だ。

目の前の光景がただただ信じられない。

彼女は19年の人生で一度たりとも、あんな生き物を見たことがない。

しかも人間の言葉を話している。

突然のジャングルに、ハイエナの襲撃に、ハイエナ頭の謎の生き物の出現。

友利の脳内は「?」で埋め尽くされていた。

するとハイエナ頭の生き物は彼女を物珍しそうに見て笑う。


「こんなとこに……ヒトがいるなんてなぁ」


「え……あの……その……」


友利は何と返せば良いか分からずに言葉に迷う。

するとハイエナ頭がニヤリと笑う。


「こいつぁ……高くなりそうだ」


「え」


ハイエナ頭が腰からナイフを取り出し、友利に突き立てた。

彼女の頭の中が完全に真っ白になった。

唐突な鼠色の鋭い輝きに、友利は息がキュッと詰まる。


「俺も出会ったのは数十年振りだったか……運が良いもんだなぁ?」


「ひっ……い、や……たす……」


周囲のハイエナ達が、まるで舞台を盛り上げる観客のように鳴き声を規則的に上げ続ける。

友利の手のひらにナイフの先端がチクリと刺される。


「っっ……!」


うっすらと血が浮き出し、本能的な恐怖を覚える。

殺される──と思ったその時。


「そこまでだ──スナッチ」


そんな声が、彼女の後ろから響いてきた。

友利は思わず振り返る。

面影は大柄な人間だった。

だけど、ハイエナ頭と同じく頭だけが動物だった。

──獅子だ。

大きなたてがみによって、存在感や威厳が感じ取れる。

訳の分からない私の脳内を──明るく照らす太陽みたいだった。


続く

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