表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
運命点1000、自分には一点も使わなかった ~なお敵の転生者は全振りで最強になった模様~  作者: Lihito


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/19

2話:燃える石

翌朝。領主館の居間で、セバスが茶を運んできた。


「殿下。三日とおっしゃいましたが、あてはおありなのですか」


ヴォルフは壁に背を預けたまま無言だが、目はこちらを見ている。同じことを聞きたいのだろう。


「ある。北の山に登る。今日中に確認したいものがある」


「確認、でございますか」


「王城で北の山脈の地質記録を取り寄せた。食料になる作物と、燃料になる鉱物が眠っている可能性がある」


間を置いた。二人の目が変わった。


「ゲイルを連れて山に入る。ヴォルフは護衛。セバスは留守を頼む。ガルドとの窓口が切れると面倒だ」


「承知いたしました」


セバスが頷く。ヴォルフは壁から背を離した。それだけで準備完了の合図だった。


***


北の山までは、結構な道のりだった。


雪を踏みしめて登る。風が冷たい。息が白い。

ゲイルが隣で「寒ぃ」と呟いているが、足は止めない。この男、体力はある。


ゲイルは運命点で引き寄せた技官だ。王都で腕を持て余していた職人を、因果をねじ曲げてこの辺境に連れてきた。


仕込んだものが、この山のどこかにある。あとは自分の目で確かめるだけだ。


山の中腹まで来た。

周囲を見渡す。雪に覆われた斜面。露出した岩壁。枯れた低木。


俺は岩壁に近づいた。地層の断面が見える。


「殿下?」


「ゲイル、あの岩肌を見ろ。黒い筋が走ってるのが分かるか」


「ん? ああ、確かに。ありゃあ何です」


「石炭だ。大昔の植物が地中で熱と圧力を受けて炭になったもの。燃える石」


「石が燃える?」


「ああ。薪より火力が高くて、長く持つ」


岩壁を少し削ると、黒い塊が崩れ落ちた。手に取る。軽い。質感も悪くない。

褐炭よりは炭化が進んでいる。瀝青炭に近い。使える。


「これだけ地表に露出してるなら、採掘も難しくない」


ゲイルが黒い塊を受け取って、まじまじと見つめた。

指で表面を擦り、匂いを嗅ぐ。職人の癖だ。


「……本当に燃えるんですかい」


「帰ったら見せてやる」


もう一つ。

俺は斜面を下って、雪の薄い窪地を探した。日当たりと排水。寒冷地で育つ作物なら、こういう場所に自生する。


雪を払うと、土の中に塊があった。

掘り出す。拳大の、泥だらけの芋。


——あった。


ジャガイモに似ている。正確には、寒冷地で自生する野生種だろう。品種改良前のジャガイモは南米の高地原産で、寒さに強い。神がこの世界に仕込んだなら、性質は近いはずだ。


「こいつは?」


「寒い土地で育つ芋だ。栄養価が高い。量産できれば食料問題の基盤になる」


ゲイルが眉を上げた。


「……そいつは、大した話ですな」


「帰るぞ」


***


領主館に戻った。


居間に三人を集めて、まず見せた。


石炭を竈にくべて火をつける。最初は煙が出た。だが程なく、低い音とともに赤い炎が立ち上がる。

薪とは桁が違う熱量。部屋の温度が一気に上がった。


「……これは」


セバスが目を見開いた。


「石炭だ。北の山に大量にある。薪と違って火力が安定していて、長時間燃える」


次に、芋を切って鍋に放り込んだ。水と、昨日ガルドに渡さなかった干し肉の端切れ。

しばらく煮込むと、素朴だが確かに美味そうな匂いが立った。


全員に椀を配る。


ゲイルが一口啜って、唸った。


「いけますな、こいつは」


セバスも静かに頷いている。ヴォルフですら、二口目に手が伸びた。


「石炭で暖が取れる。芋で腹が膨れる」


俺は言った。


「これで、最低限の生存は確保できる」


ヴォルフが口を開いた。珍しい。


「炊き出しをされてはいかがでしょう。住民に配れば、すぐに効果が出ます」


正論だ。腹を空かせて凍えてる人間に飯と暖を届ける。まずはそれが先決。

だが——。


「それだけじゃ足りない」


三人の視線が集まった。


「炊き出しはやる。広場に住民を集めて、スープを配って、石炭を焚く。それで腹は膨れるし体も温まる。感謝もされるだろう。——でも、それは『もらった』で終わる」


俺は椀を置いた。


「昨日の住民を思い出してくれ。あいつらの目に何があった?」


誰も答えない。だが、分かっているはずだ。


「諦めだ。何をやっても無駄だと思ってる。その状態の人間に物を配っても、受け取って終わりだ。次の日にはまた同じ顔に戻る」


「人が変わるのは、モノをもらった時じゃない。『変われる』と実感した時だ」


セバスが静かに問うた。


「……具体的には、いかがなさいますか」


「二段構えでいく」


俺は領都の地図を広げた。


「第一段は炊き出し。広場の広間を使う。住民全員に声をかけて、温かいスープと石炭の火を見せる。これで腹と体を温める。ここまでは普通だ」


指を地図の端に動かした。


「第二段がこっち。広場の近くに使われてない廃屋があったな?」


「ございます。住人が出て行ってからしばらく空き家のままかと」


「その廃屋を改装する。隙間を全部埋めて、石炭の暖房を入れて、風呂を作る」


ゲイルが顔を上げた。


「風呂、ですかい」


「石炭があれば湯は沸かせる。大きな釜が一つあればいい。簡易的なもので構わない」


「で、そこに誰を入れるんで」


「子供だ。まず子供を招待する」


ゲイルが首を傾げた。だがセバスは何かを察したように目を細めている。


「暖かい部屋で温かい飯を食わせて、風呂に入れる。この領地の子供は、そんなもの知らないはずだ」


俺は地図から目を上げた。


「その子供たちが、外に出てくる。あとは——まあ、見てくれりゃ分かる」


ゲイルが腕を組み直した。


「……読めねえな。だが、殿下がそこまで言うなら乗りますよ」


「食い物を配るのは援助だ。暮らしを見せるのは未来だ。住民に必要なのは援助じゃなくて、未来が見えることだ」


ヴォルフが静かに頷いた。セバスが穏やかに微笑んでいる。


「問題は作業量だ。三日で全部やる。炊き出しの仕込みと、廃屋の改装と、風呂の設営。俺たちだけで徹夜になる」


「……我々だけで、でございますか」


「住民には手伝わせない。見せる前に巻き込んだら意味がない」


ゲイルが顎を撫でた。


「三日徹夜か。まあ、この歳になりゃ二日三日寝なくても死にゃしませんがね」


「御意」


ヴォルフが短く答えた。いつも通りだ。


***


そこからの三日間は、ほとんど眠らなかった。


初日。俺とゲイルで北の山に戻り、石炭と芋を可能な限り運び出した。ヴォルフの馬力がなければ三往復は無理だった。


二日目。廃屋の改装。壁の隙間を石と泥で埋める。屋根の穴を塞ぐ。ゲイルが石炭暖房の竈を組み上げる間に、俺は風呂の設計を詰めた。大きな鉄釜は領主館の倉庫にあった。水は近くの井戸から引く。排水の溝を掘る。


セバスは炊き出し用のスープを仕込みながら、ガルドとの調整を並行で進めてくれた。広場の使用許可と、住民への告知。


三日目の朝が来た頃には、全員泥だらけだった。


廃屋の扉を開ける。中に入ると——暖かい。

石炭の竈が赤々と燃えていて、隙間を埋めた壁が熱を逃がさない。

奥には湯気を上げる釜。ゲイルが最後まで苦労していたが、ちゃんと湯が沸いている。


「……やりましたぜ」


ゲイルが壁にもたれて笑った。目の下に隈がある。


「ああ」


俺も笑った。多分、似たような顔をしている。


外に出る。広場では、セバスが大鍋の最終準備をしていた。芋のスープの匂いが朝の冷気に混じる。


「準備は整いました、殿下」


セバスの声にも、さすがに疲れが滲んでいた。だが目は澄んでいる。


ヴォルフが戻ってきた。ガルドへの最終連絡を済ませたらしい。


「昼に民が集まります」


短い報告。だがその声に、わずかな熱があった。


俺は三人を見渡した。


三日間、誰も文句を言わなかった。誰も手を抜かなかった。

こいつらとなら、やれる。


「よし。まずは寝よう。昼まで少し時間がある」


ゲイルが床に崩れ落ちた。ヴォルフが壁に背を預けて目を閉じた。

セバスだけが「私は殿下の分の茶を淹れてから休みます」と言って、台所に消えた。


……あの爺さん、いつ寝てるんだ。


俺は壁にもたれて目を閉じた。

数時間後に、この領地が変わる。


——変えてみせる。

お読みいただきありがとうございます!

もし「面白そう!」「続きが気になる!」と思っていただけたら、

広告の下にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援していただけると、執筆(投稿)の励みになります!

ブックマークもぜひポチッとお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ