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停めてくれ!  作者: ちみあくた


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3/5



 行くぞ、まだまだ!


 車両の端まで走り抜け、通路へ放り出すように伸ばしている酔っ払いの足を跨ぎ……妙に重い連結部のドアをこじ開けて、更に奥へ……






 その間にも、列車は幾つも駅を通過する。


 吊り広告を潜り、通路へ伸ばす酔っ払いの足を跨ぎ……






 どれ位、僕は走り続けたのだろう?


 疲れがピークに達し、酔っ払いの足を跨ぎ損ねた挙句、通路の床へ転がって、そのまま仰向けに寝そべる。


 床に大の字で動きを止めても、文句を言う奴は誰もいなかった。


 そして……


 ぼうっと車両の天井を見上げる内、少しは頭も冷えたらしい。自ずと僕は気付いていた。 これ以上、走っても意味は無い。


 どの車両も中の様子は同じ。乗客の数、いびきをかく音、天吊り広告の中身まで同一内容のリフレイン。


 まるでメビウスの輪の上を堂々巡りしている感じさ。アニメとかで良くある「ループ」って奴だ。


 最前列の車両へ行き、運転手に会うのも、おそらく不可能。もしかしたら、この列車には運転手なんて初めから存在しないのかもしれない。


 或いは、列車の形をした何か、例えば異次元の迷宮みたいなモンへ紛れ込んでしまったのかも……


 だとしたら、どうなる?


 僕は永久に閉じ込められ、妻の元へ帰れないのか?


 胸の奥で急速に膨らむ絶望が、それ以外の感情を圧し潰し始める。妻の記憶に縋ろうとしても、何故か、その面影が遠ざかっていく。


 目に焼き付いていた筈の記憶が薄れ、あの大事な微笑みが、もう思い出せない。






 仰向けから俯きになり、僕は床へ顔を伏せて啜り泣いた。どうせ、誰も聞いていない。そう思ったのに、


「ふふっ……変なの」


 あの小柄な少女が、何時の間にか傍らに立ち、僕を上から見下している。何をしても無駄、そう宣告された気がして無性に腹が立ってきた。


「オイ、ふざけんな、お前ら! 一体、何のつもりで、僕を追い回す!?」


 思いっきり怒鳴り、後ずさる少女の肩を鷲掴みにして、つぶらな両目を僕の方から覗き込んでやる。


 特に怯えるでもなく、相変わらずの無反応だ。見つめ返す瞳の奥、その真っ黒い淀みから、まともな感情は何一つ伝わってこなかったが、


「あっ!」


 突然、或る『気付き』が胸に閃き、僕は声を上げて、少女を突き放した。


 そうだ、何もかも同じループって訳じゃない!


 どの車両にも、必ず僕をガン見する女がいた。その年齢、見た目はバラバラ。僕と目が合った時の反応も、それぞれ若干違っている。


 何故、客の中で女達だけループを免れているのか? どんな目的で僕を見つめ、何を伝えようとしているのか?


 もし、あいつらがグルで、何か企みが隠されているなら……そこにこそ、この状況を突破する秘密が隠されているかもしれない。


 例えば、ほら、ちょっと似たシチュエーションのゲーム、あったよな?


 あれは確か、列車じゃなく、広い地下鉄駅構内から出られなくなる筋書きだったと思う。


 幾ら歩き回ろうと、景色が変わらないループ。その辺も同じで、出口へ繋がる唯一のルートを探すんだが、その際、脱出のヒントが目立たない形で構内に隠されている。


 無限のループを免れた何か、捜索の度に変化していく要素が何処かにあるンだ。それを一つずつ見つけ出し、正しい順に辿って行く事で、出口へ到達できる。


 この列車の状況に例えるなら、「女達」がヒントで、「停車駅のホームに降り立つ事」が目指すゴールになるのだろう。






「……変なの……変なの……」


 同じ言葉を繰り返す少女の、たなびく栗色の髪を僕は優しく撫でた。


「あぁ、変なんだ、何もかも」


 キョトンとする少女をその場へ置き去りにし、僕はこれまでと逆方向、列車の最後尾へ向け、歩き出す。


 ひとまず逆戻りし、「女」以外のループしない要素を見逃さない為、辿ってきた経路を確認し直す必要を感じたんだよ。






 車両の端まで進み、ドア前に陣取る酔っ払いの足を跨ぐ。やたら重い連結部のドアをこじ開けて、更に奥へ……






 何台か走り抜け、止まって呼吸を整える。


 まだ客の配置、天吊り広告に目立った変化は無い。でも、各車両に陣取る「女」のキャラは確かに違う。


 完全な同キャラはいないんだ。似た容姿、ファッション、近い年齢の場合もあるけど、良く見たら微妙にずれが有る。


 ループしない要素が他に見当たらない以上、個々の女が見つめる状況、それ自体にヒントを見出すしかない。今、試すべきなのは、僕へ向けられる視線を一切無視せず、全部受け止める事。


 きっと何か変わる。焦るな。






 車両端まで進んで、酔っ払いの足を跨ぐ。重いドアをこじ開け、更に奥へ……






 今度は、あの太ったオバちゃんだ。


 前より少しだけ年恰好が若い。でも、キャッと恥じらい、栗色の髪をなびかせて目を逸らす動作は同じ。


 チラリ見の視線をしっかり受け、そのまま彼女の前を通過する。






 車両端まで進み、酔っ払いの足を跨いで、重い連結部のドアを開け、更に奥へ……






 お~、ちっちゃい婆ちゃん、こんにちは。一層老けてっけど、相変わらず怖い顔して、不機嫌そ~に睨んでくるねぇ。


 完全に開き直った勢いを駆り、僕は愛想良く会釈して、きっちり目を合わせたまま前を通り過ぎていく。






 車両端まで進み、酔っ払いの足を跨いで、重い連結部のドアをこじ開け、更に奥へ……






「おじちゃん、変なの……」


 ハイハイ、次は又、君なのね。僕は8才位に見える少女へ微笑み、酔っ払いを跨いで、重いドアをこじ開け……


読んで頂き、ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
本当に異変を見つけていく某ゲームのようですね。 次に何が起こるのか、気になります!
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