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永劫のセツナ  作者: ALOE
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「お母さん、この辺で少し休憩しよう。」


「そうね、じゃあ あの木の下はどう?。」

 

大きな荷物を背負った母娘のエルフ達は

巨大なアカマツの木の根に腰を下ろした。


霞のかかったような紫色の空に

巨大な猛禽が輪を描いて飛んでいる。


ふと、二人が横を見ると、先客が居た。


「あら、気が付かなくてごめんなさいね。」

母親は顔をほころばせた。

目じわが深く、苦労の色が見て取れた。


「いえ、お気になさらず」

先客は小柄な青年で、薄水色の仮面をつけていた。



母と娘は無言で干しパンと水を口に運んだ。


そしてしばらく静かな時間が過ぎていった。

時折吹く北風が、汗ばんだ体に心地よかった。


「あの、どちらからいらしたのですか?」

ふいに娘のエルフが切り出した。


「南のほうからです。

あなた達は?」


その声はまだ少年のようだった。


「ずっと西です。

この先の宿場町まで行商に行くんです。」


「この先の谷で賊が出るそうです。

早いうちに此処を発ったほうがいいですよ。」

少年はそう言った。


「教えて頂きありがとうございます。

あなたはどちらに?」

と母親が聞いた。


「このまま北に。」

と少年は答えた。


「ご存じかどうか。真っすぐは行けません。

セラミュ山脈を迂回しなくちゃいけないのです。

途中でハイエルフの街、フェンタを通って

さらに歩いて二日で山脈の向こうのドワーフの街

ダギリです。」

と娘は説明してくれた。


「なぜ山脈を迂回する必要があるのですか?」


「進めないのです。」

母親が言った。


「どういう事ですか?」


「この道をずっと行くと、三叉路があります。

右と左は行けるんですが、真っすぐ行っても

一向に山には近づけないんですよ。」


「……」


「気が付いたら元の三叉路に戻っていた…

という人が後を絶たず、その道は封鎖されたんです。」


「そうなんですか… 教えて頂き

ありがとうございました。」


母親はこの少年が仮面越しに自分達をじっと見ている気がした。

「見ての通り、ハーフエルフです。

私達は定住する国がありませんから。

こうして旅を続けているのですよ。


だけど今の話は本当です。

くれぐれもお気をつけて。」


「ご親切にありがとうございます。

そうだ…これを。」

そう言って少年は袈裟袋から何かを取り出して

母親に渡した。


「まあ、指輪!」


母親の手のひらには二つの指輪が置かれていた。

どちらも石がはめ込まれていた。

一つは紫色、一つは黄色の石だ。


「綺麗!」

娘の声のトーンが一気に上がった。


「いいんですか!?これ…」


「親切にして頂いたお礼です。

大したものじゃありませんから。」


「ありがとうございます。」


「それと…ずっと東の獣人族の国のその先に

人間族の街があります。

そこは種族関係なく暮らせるそうです。

おせっかいかもしれませんが…」


「人間…ですか…」

母親は少し顔を曇らせた。



「では…」

そう言って少年は少しだけ頭を下げ、北に向かって歩き出した。



「殺意の指輪が発動しない事を願う…と」

セツナは呟いた。



「あの人はきっと名のある方よ。」

ハーフエルフの母親は言った。


「どうしてそう思うの?」


「あの服、あの藍色は獣人族領の位の高い人しか

身に着ける事ができない染料で染められているし、

腰の剣のレリーフも獣人族の王族のものだわ。」

母が興奮気味に言った。


「ええー! 獣人族の国って今色んな華やかな噂で持ちきりの国じゃない!

王様はイケメンだって噂だし…

名前だけでも聞いておけば良かった~」

娘は残念がった。


————


翌朝、宿場町の近くの谷で、4人の賊の黒焦げの死体が発見された。

宿場町を訪れる者で北からの来訪者が

3か月ぶりで、しかも二人の女だったという事は、

宿場町を少しばかりざわつかせた。





「これ…か」

セツナはあの母娘が言っていた三叉路に立っていた。

真ん中の道の入口には、「危険・封鎖」と書かれた衝立が置かれていた。


だがセツナの目には、道の奥が無数の記号や数字が

縦に流れているのが見える。


「旅の人、そっちは行かんほうがええ。」

(くわ)をかついだノーム族の男がそう言った。


「ありがとう。ちょっと見てるだけだから」


「そうかい。まあ 気をつけな。」


「ああ。」


そう言葉を返したのもつかの間

セツナは真ん中の道を歩いて行った。


「おおいっ!」

ノームの男は声を掛けたが

次の瞬間、セツナは消えた。


「まぁ じきに出て来るわい」

ノームの男は三叉路の前に立って待っていた。

少年が出てきたら、笑ってやろうと思ったのだ。


しかし…いくら待っても少年は姿を現す事は無かった。





アクセスコード確認中‥…‥


その文字が目の前に浮かび、赤く文字が点滅していた。

セツナは立ち尽くし、ただそれを眺めていた。

栓の時もそうだった。

まるで天から降って来るように、文字や記号が頭の中に流入し

それが目の前の対象に流れていく。


その度に、エントリという言葉だけが

鮮明にフラッシュバックする。

だが、それで心が軽くなるような気分にはならなかった。


この世界の(ことわり)では説明できない物や

事象があった時、まるで導かれるように。

何かの足跡をたどるように。

自分はなぜか自然に受け入れてしまう。

日常の行動の一部として。

だが、毎回、先に進んで良い物かどうか、心の中の

何かが抵抗していた。


アクセスコード確認

進入を許可します。


目の前に表示された文字が変わり、文字がグリーンに

色を変えた。


すると、セツナの目の前の景色が手前から

奥に向かって構築されていく。

建物や道が出来ていく。


噴水、露店、見知らぬ乗り物、巨大な門、たくさんの曲がり角

ずっと先には巨大な建物が建っていた。

セツナの目の前に、巨大な街が姿を現した。


見たことが無い街だ…


だが町は様子が変だった。


人の話し声や笑い声、子供たちのはしゃぐ声が

囁くように、直接セツナの心に語りかけているようだ。

そして人々の残像だけが、黒くぼやけたシルエットを

残していた。


時間が止まっているみたいだ。


かつてここでは人々の生活があったのだ。

だが、一瞬で断たれてしまったのかもしれない

彼らが気づく間もなく。


陽の光が石畳の道にセツナの影を伸ばした。

外はまだ午前中だったはずだ。

だけどここはオレンジ色の西日が射していた。


索敵の魔法陣を展開しようとしたが

魔法は発動しなかった。



セツナはそのまま石畳を進んだ。

足音がやけに響いた。


いつのまにか巨大なドーム状の建物の前に立っていた。

最初の場所から見えていた建物だ。


入り口の前に、子供の背丈ほどのモニュメントが立っていた。

先端が赤く光っており、セツナが近づくと緑色に変わり

建物のドアが開いた。


中は薄暗く、ひんやりとした空気と共に

かび臭い匂いが鼻をついた。


そこは書庫だった。

無数の本、壁も全て本棚で、びっしりと本が

並べられていた。


セツナは一番近くの本棚に行き

一冊手に取った。


“ハリーポッター JK・ローリング著“

どうやら、創作文の本らしい。


“罪と罰 ドストエフスキー著”

“ファーブル昆虫記”

“生命とは何か”


それからしばらくセツナは夢中になって片っ端から本を読み漁った。


どれくらい時間が経ったろうか。

かすかにページをめくる音がした。

そしてふと、どこからか視線を感じた。

実際、最初からかすかな気配はあったが、気に留めないでいたのだ。


「君も読むのかい?」

セツナは視線の主に語りかけた。


すると何かが暗がりから姿を現した。


それは人の形をしていた。

だが人ではなかった。


白銀と黒曜石を溶かし合わせて作られたかのような肌を持ち、その顔には目も鼻も口も無かった。

あるべき場所には、黒く磨かれた鏡が嵌め込まれている。


その鏡は周囲の景色を映していたが、なぜか見つめられているような錯覚を覚える。

しかし腕や脚の節々には筋肉も腱も見当たらず、代わりに銀色の骨と輪が幾重にも組み合わされていた。

それは鎧でもなく、生き物でもなかった。


だがどこか懐かしい。

そして何より――セツナは知っている気がした。


「君は?」

セツナは話しかけた。


だがそれは何も答えず、ゆっくりと首を傾けた。


そしてセツナの前を通り過ぎ、セツナが無造作に

本棚に戻した本を綺麗に並べていった。


「アポカリプスについて。知ってるかい?」

セツナは投げかけた。


その人型はピタリと動きを止め

首を半回転させ、振り返った。


今まで聞こえていた、消えた人々のざわめきが

ピタリと止まった。


人型は首をこちらに向けたまま

書庫の奥へと歩き出した。


「ついて来いって事か…」


セツナは人型の後について歩き出した。



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