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永劫のセツナ  作者: ALOE
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空

「何も見えねえ…」

ニキルは目を閉じるしかなかった。


しかし、閃光はすぐに治まった。

周りにあった構造物が分解され始めている。


音の無い世界。

いや、音が大きすぎて耳がイカれたのか。


分解された欠片は、一瞬静止したかと思うと

ゆっくりと一方向に流れ出した。


流れの中心には小さな黒く丸い塊が浮かんでいた。

そこに欠片が渦を巻いて吸い込まれていく。


「ああ ペンダント…」

ジュリの首に掛けてあるペンダントも分解され

黒い塊に向かって流れていった。


「ジュリ…お前…」

ニキルは自分のおかれている状況を理解した。


ジュリの背中には虹色の羽が生え

二人は同じ色の球体の中に包まれていた。



■



少し前——


地上では皆が空を見上げていた。

空を覆いつくすほどの巨大な船が

ゆっくりと高度を落としながら、こちらに向かっていた。

あちらこちらから炎を噴き出し、黒い煙が尾を引いていた。

誰の目にも墜落していると思われた。


その瞬間、巨大な船は眩い光を発した。

直視できないほどの眩しさで、それはどんどん光を増していった。

だが長くは続かなかった。


やがて地上からは、徐々に黒い粉が中心に向かって

動き出しているように見えた。


しかし、それと同時に何かが落下している。

木箱や旗が見えた。

だがそれよりもパラパラと落下していくもの‥‥

人だった。

全ての人が落下していくのではなく、中には光を発し

魔力で落下速度を緩める者もいた。

飛行できる魔術を使える者、そうでない者。

飛行できる兵士に群がる兵士。


現場では阿鼻叫喚の世界が繰り広げられていた。


やがて黒い玉は、バルディアを吸収しつくすと

輝きを弱めながら、やがて消滅した。



■



クロフォードは目の前で起きたことに複雑な思いだった。

だが共に衣食を共にした部下や上官がいるかもしれない。

気が付けば、馬を駆り、墜落現場に進路をとっていた。


辺りは、瓦礫が散乱していた。

だが、不思議と火や煙は見当たらなかった。

瓦礫に混ざり、ダークエルフ兵の亡骸が散乱していた。

なんとか助かり、這い出している者も居た。


「何があった?」

クロフォードは馬を降り、駆け寄った。


「バルディアが…暴発したんだ…パニックになってそれで…」

その若い兵士は涙を流しながら震えていた。


クロフォードはその若者の肩に手を置き

「よくやった。大丈夫だ。」

と言った。


クロフォードは更に瓦礫の中を進んだ。

少し開けた場所に出た時、そこに何かが積まれたように

こんもりとした物があった。

「死体…」

クロフォードは呟いた。

山のようになっている死体を不自然に思ったその時

それが揺れるように動き出した。


「邪魔だ!」

がなり立てる声が聞こえると同時に

死体が2、3体吹き飛んだ。


「役立たずどもだったが、最後くらいは役に立ってくれたか

良いクッションだったよ。クズども。」

中から恰幅の良いダークエルフが姿を現した。


「ゼノギア艦長…」

クロフォードは呟いた。


「ん?」

ゼノギアは目の前に立つ男に気が付いた。


「何があった?」

クロフォードは低く静かに問うた。


「混種のクズですよ。やりやがった。」


クロフォードはハップの仕業だとは思っていたが。


「ああ そう言えば あんたも混種だそうですね」

ゼノギアは目を細めた。

殺気が溢れている。


「お前には関係ない事だ。 お前は落下の衝撃を和らげるために

部下を下敷きにしたのか?」


「ええ それが何か? 上官が部下を使って何かいけない

事でも?」


「それは帝国法に違反する。そのような規則は

存在せん。」


「あんた…聞けば軍を辞めるそうじゃないか

つまり一般人なわけだ。


帝国軍法第三項・4条にこうある

“非常時、平民は軍属の意思決定に従う“と。」


「お前には帝国兵としての誇りは無いのか?

そんな事をして許されるとでも?」


「ごちゃごちゃうるせーな お前。」


「何?」


その瞬間、クロフォードの頬を何かが掠めた。

間一髪でよけたが、頬から血が滴った。


「避けるとは…さすがですね クロフォード様」


ゼノギアはベロリと長い舌を出して舌なめずりをした。


「ゼノギア…貴様…」


「他愛もない、すぐに消してやる」

ゼノギアの背後には、無数の触手が蠢いていた。


「魂を売ったかゼノギア!」


ゼノギアは鈎爪のついた触手を鞭のように繰り出した。


クロフォードは全て剣でいなしていく。

いなしながら少しずつ進んで間合いに入る。


「どうした?かわし切れまい」

ゼノギアの攻撃は一層苛烈さをましてゆく。


ゼノギアがそう言った瞬間


「どうかな?」


クロフォードはすでにゼノギアの目の前におり

ゼノギアの腹にはクロフォードの剣が突き立てられていた。


「い…いつのまに…」

ゼノギアは喘ぎながら言った。


クロフォードは手首を捻り、剣を回転させた。


「ぐはっ…」

ゼノギアは血を吐いた。


とその時

「なーんてねっ!」

ゼノギアはぱっと表情を変えた。

瞳はあべこべの方向に向いていた。


「何!?… 抜けん!」


「つっかまーえた!」


ゼノギアがそう言った瞬間、


クロフォードの背中に触手が刺さっていく。


「グハッ…!」

クロフォードは血を吐いた。


ゼノギアの数十本の触手がクロフォードに絡みつき

締めあげると同時に、鈎爪が背中に差し込まれてゆく。


「ぬおおお!」

クロフォードの目は赤く光り、食いしばった歯には

犬歯が見えていた。


触手は一瞬で切断され、クロフォードはゼノギアと

距離を取った。


「やれやれ、無駄なあがきを。」

ゼノギアの触手は一瞬で再生した。


一方のクロフォードは片膝を突き

呼吸は荒かった。

腹から出血している。


「おやおや、怪我をしていたらしい

そんな体で俺に挑むとは舐められたもんだ…ククク」


「なんだ…視界が二重に…」

クロフォードは目を押さえた。


「麻痺毒だよ。癒しの魔法も効かぬ毒だ」


「クッ…貴様…」


「お前の心臓を我が主に捧げるのだ」

ゼノギアは懐から短剣を取り出した。

柄の部分に人の脳のような形の彫刻が施されていた。


「ネクロス教の…!」

クロフォードは次第に頭がぼやけ、やがて地面に伏した。


しかし、クロフォードの耳にうっすらと声が聞こえる。


「貴様、何者だ?」


「……」


「なんだこのガキは、気味の悪い仮面なんぞ

つけおって。」


その者は一瞬でゼノギアの眼前に現れ

手をゼノギアの顔に押し当てた。


「何?」

ゼノギアがそう言った瞬間


「う…うわ…ぐああああああ!!

血が沸いて…」


ボンッといってゼノギアは粉々になった。


そこでクロフォードの意識は途切れた。



◆



「なあジュリ…俺たちどこに向かってるんだ?」

ニキルが言った。


「その羽で羽ばたけんのか?」

ギャリガンが言った。


「無理を言わないで!」

ジュリが叫んだ。


「腹減ったなー…ん? 


なんだあれ?」

ニキルが指さした。


「人?」


「人が浮かんでいるぞ!」


ジュリ達はゆっくりとその人物の方へ近づいて行った。


「あ…あの人は…あの仮面は…」

ジュリの頬を涙が伝った。



◆



クロフォードはゆっくりと目を開けた。

古びたむき出しの梁が見える。


「ああ、クロフォードさん 良かった…」

子供の声がした。


「もう目覚めないのかと思って俺…

俺のせいで怪我を…」

どうやら泣いているようだ。


「バエトか…」

クロフォードの声には力が無かった。


「はい…今長老を呼んで来ます…」

バエトがそう言って椅子から立ち上がろうとした時


「待て…」

クロフォードがバエトの手を掴んだ。


「ここはどこだ?状況が知りたい」

頭はまだぼんやりとしている。

目を開けているのが眩しくて、腕を目の上に乗せた。


「ここは忌み子の村です。

3日前にあなたがこの村の入り口で倒れてたのを

長老が見つけたんです。」


「3日だと!?」

クロフォードは目を見開いた。


「はい。俺はてっきりあなたがこのまま…」


「もう一つの村の方はどうなっている?」


「西の村の方は大変な惨状だと、シロンが言ってました。

村の男たちが総出で処理に向かっています。」


「そうか…」


「じゃあ、爺ちゃんを呼んできます。」


そう言ってバエトは外に出て行った。


クロフォードは目をつむり

ため息をひとつついた。



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