道連れ
「おいジュリ…方向は決められんのか?」
ギャリガンはポツリと言った。
「わからないよ…」
「だいぶ流されているぞ…」
ジュリ達はゆっくり下降しながらふわふわと
漂っていた。
「我は嫌な予感しかせぬ…」
ギャリガンが呟いた。
フォクシール専用飛空艦・ソーマ内——
「東に進路を取れ、キング・バルディアと邂逅し
着艦する。」
ブリッジの専用シートに座っていたフォクシールは
足を小刻みに揺らしていた。
グラスのブランデーの残りを一気にあおった。
「使徒ギャリガンとの融合体の捕縛に失敗、
研究施設にて使徒ランドーラの回収に失敗。
フフ…審問会ものだな。 これでは予算委員会に足元を見られるか…
ただでさえ、この実験は反対派の動きに押されているのだ
何とかせねばならぬ…」
「フォクシール様、しかし、これまでに大型兵器開発の成果に一定の
寄与をしたと思われますが」
側近が言った。
「ああ‥そうだったな…」
フォクシールはブランデーを継ぎ足した。
(くだらん…俺にとってそんな玩具はどうでも良いのだ…
だが…裏のスポンサーからも圧力がかかるだろう)
その時、一人の兵士が駆け込んできた。
「フォクシール様、南東の方角に怪しい物体が浮遊している
との事です。その物体は七色に光っていると。」
「何?」
フォクシールはもしやと思った。
「進路をそこへ向けろ!急げ!」
やがてフォクシールはその物体を確認した。
「ククク…まだ俺には運が残っていたらしい! ハハッ!」
「回収しろ!」
フォクシールは手を叩いた。
◆
「おいジュリ…あれを見ろ…」
ギャリガンの声はトーンが下がっていた。
「あれは‥‥」
ジュリが見ると、飛空船だった。黒くて大きな。
「ギャリガン…私達…」
「ヤレヤレ‥‥」
ギャリガンは大きくため息をついた。
ソーマ船内——
「離して! 離して!!」
ジュリは手足をバタつかせながら、兵士の腕に噛みついた。
「痛っ!! クソガキが!」
兵士はジュリを床に叩きつけた。
「オイオイ、大事に扱え、実験材料なんだぞ」
ニヤついたフォクシールがゆっくりと歩いてくる。
「必要なものは持ち主の元に戻って来るらしい…
また会ったな、娘。」
ジュリはフォクシールを睨み返した。
「ハッ! 調子に乗ってるとひねりつぶすぞ?」
フォクシールは光の輪を出現させ、ジュリの体を締めあげた。
「うっ…くっ…」
「ジュリを…か…解放しろ‥‥」
ニキルが声を絞り出した。
「ハイエルフ…純血に近づけるな。こいつはなんだ?」
「先ほど混種の娘と一緒に
回収しました。こいつはどうしますか?」
兵士が言った。
「捨てとけ…
いや待て、こういうのが趣味だったな?
あの艦長は…」
フォクシールがニヤついてそう言うと
兵士二人がニキルの肩を掴んだ。
その時
「フォクシール様、バルディアです。
これより本艦はキング・バルディアに収容されます。
着艦準備を!」
新たにやってきた兵士が早口で言った。
「とりあえず、ガキ二人は牢にぶち込んでおけ
念のため、二重防壁をかけておくのだ ククク…」
「ハッ 承知しました。」
うやうやしく兵士が頭を下げると
フォクシールは去っていった。
◆
キング・バルディア内部——
「大丈夫か?ハップ」
ランドーラが言った。
「あんたとの融合で少しはね…
だが転移を使った事で魔力の消費がな…
それにしても…
あたしを乗っ取らなかったね、あんた」
「どうせ朽ちる…
あんたに賭けるよ。」
帝国兵の服を着たハップは
大型兵器イオンフレイムの発射装置の機関部へと
向かっていた。
途中、すれ違った兵士に訝しんだ表情をされたが
なんとかやり過ごす事ができた。
「これより先、許可なき者は立ち入る事はならぬ」
機関室の扉の前の衛兵が抑揚のない口調で
ハップの行く手を遮った。
(もう転移は使えないだろう?…どうするのだ?)
ハップはランドーラの質問には答えず、衛兵に話しかけた。
「技術局の者だが、発射実験前の点検に派遣されたのだが
ここはイオンフレイムの機関室で間違いないか?」
衛兵は顔を見合わせた。
「なぜここが機関室だと知っている?」
無表情の衛兵の一人が言った。
(マヌケめ…間違いないらしいぞ…)
ギャリガンがつぶやいた。
「そう聞いたからだ」
ハップはランドーラとのやりとりをしり目に声を張った。
「何か証明するものは?」
「ああ」
そう言ってハップは胸のポケットからカードを取り出して手渡した。
「第15研究局・R細胞開発部
エリザベート・ハップルス…
第15? 聞いた事ないな。」
カードを受け取った衛兵が呟いた。
「念のため照合する、ここで待て」
(おい…大丈夫なのか?)
ランドーラが言った。
(リストには載ってるさ、あのパスは紛れもなく
私のだからね。だが問題は
その証書が60年前の物だって事…)
しばらくすると衛兵が詰所から戻って来た。
「たしかに確認した。だが15研究局は20年前に
廃局している。 怪しいな。
お前は何者だ?」
フウとため息をハップはついた。
そしてこう続けた。
「これは機密事項だからお前たちに言ってはいけないのだが…
私に命令したのは宮廷魔導士団・二等術士フォクシール様だが。」
「何!?」
衛兵たちの顔色がみるみる青ざめていく。
「…フォクシールって…あの男…」
「おい! 声に出すな!」
二人の衛兵は囁きあっていた。
「わ…わかった…今回は特別に入室を許可する。」
そう言うと、衛兵はハップにパスを返却し
巨大な扉のハンドルを回した。
「すまないね、あとでフォクシール様に伝えておくわ。
あなた達の事…」
そう言ってハップはウインクした。
その時、ランドーラが呟いた。
「ハップ、そう言えばお前、若返っているな。
俺のおかげだな。
あの衛兵達、お前を見て鼻の下を伸ばしてたぜ」
「ハッ、どうでもいいわそんな事。
中身はババアさ。」
「……」
ランドーラは何も答えなかった。
◆
「順調そうだな、ゼノギア艦長」
後ろ手に組んだフォクシールがブリッジに現れた。
「これはフォクシール様、出向えに行くところ、わざわざお越しくださり。
お会いでき、光栄の至りにございます。」
ゼノギアはでっぷりとした腹を折り畳んでお辞儀をした。
(なんでこいつがここに居るんだ?)
とゼノギアは心の中で呟いた。
「思っても無いことを言うでない、そんな腹では
お辞儀もまともにできぬではないか?」
フォクシールは片眉をあげて言った。
一瞬、だれかの「プッ」という声が聞こえたが
この人数では特定できない。
(こいつ…いつかぶっ殺してやる…)
俯きながらゼノギアは歯を食いしばった。
「ところで、今回は中立地帯への実験と聞いているが。」
「さようでございます。本来、前回の実験で攻撃する予定だった
地域が対象です。出力を30%上げての実験でございます。」
「しかるに、先ほどまで私はそこに居た。
実験の報告が入ったのが今しがた。
もし報告が遅れていれば、どうなったであろうな?」
「フォクシール様がいらっしゃる事は把握しておりました。
フォクシール様の大事な用事が済んでから と
ギリギリまで報告を押しとどめた次第であります。」
(…な訳ねーだろ、いるとわかってたら躊躇わず発射だ!)
「惜しかったの、ゼノギア、いや、バルディアの乗組員の方々よ
クハハハハ…!」
フォクシールは高らかに笑った。
ブリッジにジリジリと緊張が走った。
「ところで、イオンフレイムだが…
今回は何人の核を使ったのだ?」
「はっ…4700人分でございます。フォクシール様」
「あまり無駄にはできぬ、私の一存ではどうにもならんが…
有限だ…節約してもらわねば。質の良い混種を作るのも
簡単ではないのだ。」
「そこは重々…」
「我らダークエルフの純血だけが生き残ればよい。
目的はそこだ。」
「来るべき日に!」
ゼノギアは腕を胸に当てた。
「来るべき日に!」
フォクシールも同じく腕を胸に当てた。
「来るべき日に!」
ブリッジに居る全員が声を上げた。
その時、轟音と共に船が揺れた。
「艦長! 報告致します! 何者かが本艦に侵入し
イオンフレイムの動力を破壊した模様です!
最下層で火災が発生、現在クルーが消火活動に当たっております。」
息を切らした兵士が煤がたくさんついた顔で叫んだ。
「何!?」
「何者だ?」
フォクシールは涼しい顔で問うた。
◆
「おい! ハップ、急げよ。衛兵共は完全に
信用しちゃいない」
「コードが読めん…私が担当してた頃と
まるで違うんだよ!」
その時、扉の向こうで声がした。
「おい! まだか?何をしている?」
衛兵だ。
「おい…なんかおかしいぞ?メモリの針が
レッドゾーンに入っているぞ?」
ランドーラの声は少し震えている。
「危ない!」
その瞬間、操作パネルが爆発し、爆風でハップは吹き飛ばされ
出入り口の扉を突き破った。
「う…」
扉の前に居た衛兵達が直撃をもろに受け
床で這いつくばっている。
「だ…大丈夫か…」
「ああ…なんとか…硬化の魔法でダメージはさほど…
だが、頭がくらくらする…魔力がもう…」
「何をしたんだ?」
「さあね…いくつかの消去できる安全プログラムを
削除してやったのさ。」
「この船はどうなる?」
「それもわからん…だが最悪
イオンに分解されるかもしれない。」
「奴は‥‥」
「そうなれば責任は追及されるだろうな。
奴の秘密の研究施設の研究員が起こした事だからね。」
◆
音も無くやってきた兵がスッとフォクシールに耳打ちする。
「ハップか……
脱出する、発艦準備、急げ」
耳打ちの内容はフォクシールの顔を鬼のように
変えさせた。
「艦長…残念ながらこの艦は消滅する。
急ぎ、脱出されたほうが良い。」
「ハハハ、何をおっしゃるのかと思えば
この艦に限ってそのような事が起こるはずは無い。」
ゼノギアは高らかに笑った。
「チッ…」
フォクシールは舌打ちをしてブリッジを出て行った。
◆
「あれは…フォクシール…!!」
ランドーラが言った。
飛空船のドックに佇む戦艦ソーマに、フォークシールが乗り込んでいくのが
見えた。
「運がいいのか悪いのか…
チャンスかもしれないね。」
ハップは呟いた。




