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永劫のセツナ  作者: ALOE
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報い

セツナは鉄でできた階段をゆっくり下りていった。

下から冷たい風が微かに頬を撫でる。

踊り場ごとに緑色の照明が光っていたが

空間全てを照らすほどではなく、暗がりの階段は

ただカンカンと虚しく音を立てた。


それにしてもさっきの帝国の兵器——

自分なら無効化する事はわけもない。

だがあんな物を一体何に使うというのか。


(少々厄介だな…)

何気なくそんな事を考えた。


セツナはふと動きを止めた。

索敵の魔法に何かの反応があったからだ。


小動物などの小さな反応は時折あるが

これはまた少し違っていた。


だが脅威と感じるものではなかった。

その反応はその場所から動いていない。

何かをしている、あるいは動けない状況なのか。


やがて階下に行く階段が無くなり

最下層と思しきフロアについた。

だがそこから長い廊下が伸びていた。

その先がぼんやりと明るい。


この施設に居たであろう労働者が一人も居ない——

恐らくここはうち捨てられたのだろう。

だがセツナにとってそんな事はどうでもいい事だ。

目的はすぐそこだ。


やがて広い部屋に行きついた

生臭さ、薬品の匂い、湿った空気…

酷い匂いだった。


沢山の割れた培養槽が均一に並べてあり

中から緑色の液体がこぼれていた。

そしてどのケースにも、人の形を成さない

異形が取り残されていた。

全て息絶えている——

恐らくはこの液体が無ければ生きていけないのだろう。


ここを出る時、故意に割っていったのかもしれない。


だが一つだけ索敵魔法で感知した生体反応は

この部屋に存在した。


一番角の培養槽からその気配はあった。


「う…あ…ああ…」

割れた培養槽の底にそれは居た。

呻くそれはかろうじて生きている状態だった。


「使徒か」

セツナは呟いた。


「そうさ、殺すのかい?」

背後から声がした。

いつの間にかハップ婆が立っていた。


「転移の魔法が使えるのか?」


「ふふ…別に驚きゃしないだろ?今更」


「それで…

あんたはどうするんだ?

人の命を弄んで、最後に破棄するのか?」


「そいつは実験材料なんだ

回収しに来たんだ。さ どいとくれ」

そう言うとハップ婆は瓶を取り出し

瀕死の使徒を瓶に入れ、蓋をした。


使徒は抵抗しなかった。

そしてセツナはハップ婆が使徒を扱う様子を見逃さなかった。


「それとあんた…

マナコアを回収するんだろ?」


「……」


「やめた方が良い」


「なぜ?」


「……」

ハップ婆は何も答えない。


ハップ婆は一瞬、瓶の中の使徒に視線を送った。


セツナは、くるりと向きを変え、隣の部屋の扉を開けた。

重い鉄の扉は、軋む音が鳴って開いた。


「フゥ…」

床から銀色の円柱が床から突き出ている。

いつもと違うのは、栓の突き出た穴に、無数の配線が

絡みついていた事だ。


セツナは手をかざした。

頭の中に数式や記号、文字の幾重にも重なった

魔法陣が流れ込んで来る。

その魔法陣を一つずつ分解していく。

まるで、頭の中にもう一人の魔術師がいるようだと

セツナはいつも思うのだ。


「あんたはいつもそれを一人で…?」

後ろからハップ婆が語りかけたが

セツナは答えない。


「あたしらはそれの解析を幾度と試みたんだ。」


「……」


「だけどねセツナさん、あんたにそれを回収されるわけには

いかないんだよ」

心なしかハップ婆の声は震えているようだった。


それでもセツナは黙って作業を続けた。


「悪いが止めさせてもらう。

力づくでも……!」

するとはハップ婆の体に無数の魔法陣が浮き出して

腕、脚、体と、みるみる膨らみ

筋肉の塊の様な姿になった。

そしてセツナめがけて踏み込んだ。

ハップ婆は弾丸のようにセツナに飛び掛かった。


「ッ…!」

セツナが気が付いた時には遅かった。


セツナの自動防御の魔法が発動し、ハップ婆の体に

激しい電流が流れた。


「クッ‥ハッ…うう…」


そこには黒く焼けただれたハップ婆が倒れていた。

だが、ハップ婆はまた立ち上がろうとしている。


「コアは…抜いて…は…」


「これの解除は後戻りできない

何度やっても同じことだ」

セツナがそう言った瞬間


ハップ婆の周りには魔法陣がいくつか展開していた。

それはハップ婆の中に吸収され、彼女の体は

ぼんやり光り始めた。


「強化の魔法を使ったって無駄だ。

衝撃が強いほど…」


その瞬間、再び、ハップ婆は空中で電流に打たれていた。

再度セツナに突進したのだ。

「ア…ァ…アア…」


ハップ婆は吹き飛ばされ、鉄の台の上に落下した。

全身から煙が出ている。

そこにはあの瓶があった。


ハップ婆は朦朧とする意識で、使徒の入った瓶を見た。

だが、瓶は空だった。


いつの間にか自分の傍らに、ウナギの様な生物がいた

口から、体液を吐き出し、ゼエゼエと息も絶え絶えに


「フッ…満身創痍だね…」

ハップ婆は声を絞り出した。


「ハ…ップ…お…お前も…」

使徒も声を絞り出した。


「ゆ…許して…おくれ… 今まで…辛い実験‥に」

ハップ婆の頬に一筋の涙が伝った。


使徒から粒子が煙のように漂い出している。



その時、轟音が鳴り響き

地面が揺れ出した。


栓が上昇を始めたのだ。

栓は徐々に速度を上げながら、建物の天井を突き破った。

絡みついた配線を引き千切りながら。



「……!」

クロフォードは部屋に入った瞬間

ハップ婆の口の中に何かがずるりと入っていくのを

目撃した。





「チッ…クロフォードが慌てて入って行きよったわ

俺に見向きもせずに」

フォクシールは舌打ちをした。


「中の使徒は諦める、急ぎここを離脱する。」


「ハッ」

フォクシールの部下は軽く頭を下げた。


フォクシールはマントを翻し、足早に飛空戦艦に戻っていった。



同時刻——


移動要塞・キング・バルディアのブリッジ内


「これより艦は再び中立地帯に向かう」

艦長のゼノギアの低く落ち着いた声だった。


「出力25%、水温安定、油温正常、マナコア充填55%」


「キング・バルディア発進」


「キングバルディア出力全開 発進します」


帝都の巨大基地を巨大な影が覆った。





薄れる意識の中ハップ婆は自分の中に何かが入って来たのを感じた。


(ふっ…あんたかい…)


(ハップ…お前の体を使わせてもらう…)


(もうどうにもならないね…)


(ああ…長らくは持つまい…だがあの魔術師…!

奴だけは…!)


(やめた方が良い、あいつは化け物だ。八つ裂きにさて終わりさ)


(50年…50年だ…俺は奴の実験道具にされたのだ

何度も切り刻まれた…

笑いながらだ!

ハップ…お前だって…!)


(もういいんだよ…終わった事だ…

使徒が混種に同情するんじゃないよ…)


(クロフォード…奴は俺が寄生したダークエルフとお前との…)


(…使徒ランドーラ…私の最後の願いを聞いてくれるかい?)


(?)


(この場所はもうすぐ消滅する…それを阻止したい)


(それはフォクシールが困る事か?)


(ああ そうだ…)


(何をするのだ?)


(一泡吹かせてやるのさ)



キング・バルディア ブリッジ——


「高度・速度共に安定、各機関異常ありません」


ゼノギア艦長はニヤリと黄ばんだ歯を見せた。


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