タブー
「お前の師匠は何を教えてたんだ?
チャンバラごっこか?」
クロフォードの言葉にバエトは背中に冷たい鉄で触れられた
気がした。
「先生の事を悪く言うな…!」
バエトはクロフォードを睨みつけた。
「お前がゴブリンと戦っている時…」
「!?」
「その先生とやらは何をしてたか
教えてやろう…」
クロフォードは目を細め、白い歯を見せた。
「なぜ知ってる?」
「見てたからさ。」
「え?」
「あの男もな。」
「!!」
バエトは一瞬怒りがこみ上げた。
その時、後ろから声がした。
「いい加減にしな!クロフォード!」
ハップ婆だった。
「バエト、クロフォードに礼を言いな!
お前とあの子をここまで運んだのは
クロフォードさ。」
ハップ婆の陰で裾を引っ張るハイエルフの少女が不安そうに
こちらを覗いていた。
「……」
バエトはハッとしてクロフォードを見た。
「た…助けて頂き…
ありがとうございました。」
片膝を突き、深く頭を下げた。
「フンッ途端にかしこまりやがって…」
バエトは目を伏せた。
「あいつは大方、お前が意識を失った所で
助けるつもりだったんだろうがな。」
「!」
(そう言えば…盗みに入った時…狼と戦った時…
おかしいと思ってた。)
バエトは思い返していた。
「お前は此処まで一人で来れたと思ってるのでは
あるまいな?」
「……」
「どうあれ…
お前ひとりの行動が、色んな人を巻き込んだのだ。
混種の分際で だ。」
バエトは歯を食いしばった。
憎しみや悔しさが絡み合う。
だが、涙はポロポロとこぼれるのだった。
「あの…先生はどこに…?」
「お前の妹のいる場所を教えたら、すっ飛んで行った。」
クロフォードはセツナが向かった先を顎でしゃくった。
(先生…)
また涙が溢れてきた。
「それくらいにしといてやりな
クロフォード。」
ハップ婆は、バエトの背中をパンと叩いた。
「おかげでこの子は助かったんだよ」
ハイエルフの少女はニコリと笑った。
少女を見るハップ婆の目は、笑っていなかったが。
「クロフォード…様…」
バエトは涙をぬぐってクロフォードを直視した。
「なんだ」
「僕に剣を教えてください。」
「は!?」
ハップ婆は目を丸くしている。
「何を言ってるんだ坊主」
「強くなりたいんです。お願いします!」
そう言って、バエトは額を地面に押し付けた。
「坊主、顔を上げろ。」
「はっきりさせておこう、これは
身分の問題だ。
俺は帝国軍人。お前は混種だ。
どの人種でもない。
人間族よりも下だ。」
「……」
「そもそも俺は…お前が対等に口が利ける相手ではないのだ
今お前を斬っても、俺は何の罪にも問われぬ。」
「ではなぜ…助けてくれたんですか?」
「問題が大きくなることを防いだまでの事」
「問題って…?」
ハップ婆が目を細めた。
「貴様には関係ない事だ。」
そう言うと、クロフォードは村の入り口に向かって去っていった。
「素直じゃないね…」
ハップ婆は小さい声でため息交じりに言った。
◆
クロフォードは、村の近くにつないであった
馬の縄を解いているところだった。
「……囲まれている…」
「何者だ? 姿を見せろ。」
すると、茂みから一人の人物が姿を現した。
「ほお…ハイエルフがなぜここに居る?」
クロフォードはそう言いつつ、すぐに剣を抜けるように
腕の力を抜いた。
ハイエルフの男はクロフォードと同じくらいの身長で
胸のあたりまで伸びた顎髭を三つ編みにして束ねていた。
歳も同じ位だろうか。
「私はアカヌ族のミキル。貴殿はこの村の住人か?」
ミキルは落ち着いた口調だった。
「その前に…後ろの樹上の二人の弓を退かせてくれないか?」
クロフォードはミキルから視線を外すことなくそう言った。
ミキルは人差し指と中指で下に下げる動作をした。
「いいだろう……」
クロフォードは自分に向けられた殺気が消えるのを感じた。
「帝国軍 第七特務観測官、クロフォードだ」
「質問の答えを聞きたい。」
ミキルは表情を変えず淡々と言った。
クロフォードは目の前の男の瞳に静かな怒りが宿っている事に
気が付いていた。
「知らんな。」
クロフォードは剣の柄に手をかけた。
「では自分の目で確かめるだけだ!」
そう言うやいなや、ミキルは抜刀し、閃光のごとく
クロフォードに斬りかかった。
キーンという高い音と共に
クロフォードの剣がミキルの斬撃を受け流す。
その時の衝撃波が地面を震わせた。
「お前たち!先に行け!」
ミキルは他のハイエルフに指示を飛ばした。
「チッ!」
クロフォードは村へ行こうとするハイエルフを追おうとしたが
ミキルが行く手を阻む。
「行かれては困る理由があるようだ。」
ミキルは落ち着いた口調だった。
「いいだろう。貴様を始末すれば良いだけの事」
クロフォードの剣が青白く光り始めた。
◆
ニキルは目の前の光景が信じられなかった。
人がゴミのように捨てられ
自分の同族がそこで談笑しているのだ。
考えるよりも先に体が動いていた。
茂みから飛び出したニキルは、連れだって歩く
ハイエルフ達に
「お前ら! ここで何してる!?」
と言って怒鳴った。
「あ?」
「なんだ?」
振り向く二人。
「ああ?なんだ坊主、お前も仕事をもらいに来たのか?」
「それともあれに志願しに来たのか?」
ニヤついた男たちにニキルは一層怒りが増した。
「なぜハイエルフがここに居る?
なぜダークエルフと一緒にいるんだ!?」
二人は顔を見合わせた。
「ああ、そういう事」
「お前は見ちゃいけないもん 見ちまった訳だ」
そう言うと、二人の目玉がぐるりとあべこべに動いた。
「じゃあ死ね!」
ハイエルフの二人の体はみるみる巨大化し、体中に
植物の蔦が絡みつき、赤い花が咲いた。
その瞬間
男の巨大な拳がニキルの腹に食い込んだ。
「ブハッ!!」
ニキルは吹き飛ばされ、巨木に叩きつけられた。
全ての感覚が麻痺し、指すら動かせない。
「う…あ…く…」
口から噴き出る血で息が詰まる。
「おいおい、もうちょっと楽しませてくれよ」
そう言ってもう一人の男がニキルの髪の毛を掴み
持ち上げた。
その時
「やめてー!! ニキルを離して!!」
男たちは動きを止め、振り返った。
「ん?」
「ああ? なんだぁ? 商品じゃねーか!」
「逃げ出してるぞ」
「おい!捕まえろ」
そこにはジュリが立っていた。
ニキルの霞む視界にジュリが映る。
「ジュ…ジュ…リ…に…げろ…」
だが一瞬でジュリの元に到達した男は
乱暴にジュリを掴み上げた。
「ううう…が…あ…」
ジュリは締めあげられ、骨が軋み
胃の内容物が口から噴き出した。
「たまに居るんだよな、ちょっとだけ意志を持った
木偶が。」
「アニキ、こいつどうする?報告するか?」
ニキルを掴んだ男が言った。
「ククク…」
アニキと呼ばれた男が舌なめずりをした。
「ああ…そうしよう」
不気味な笑みを浮かべた。
その時だった。
彼らの前を風が吹き抜けた。
妙に冷たい。
「ああ?」
「なんだ?」
二人の男が気が付くと、いつの間にか腕が切断されていた。
そして背後には、子供を両脇に抱えた男が
立っていた。
ジュリはぼんやりとした視界に自分が抱えられている事を
悟った。
「動くなよ…すぐ終わる」
ジュリはその声に聞き覚えがあった。
「セツナ…」
緑のオーラがニキルとジュリを覆った。
「おい…!」
「誰だてめえ」
男たちはそう言うやいなや、一瞬で
セツナに迫った。
その瞬間
男たちの体を冷たい風がいくつも通り抜けた。
遅れてシュシュシュと風を切る音がした。
そして…
細切れの肉片がボタボタと辺りに降り注いだ。
肉片と共に赤い花びらが落ちている。
「またか…」
セツナは呟いた。
◆
「セツナ!セツナ!」
回復したジュリはセツナに抱きついた。
セツナはジュリの頭にポンと手を置いた。
セツナはもう一人の少年を見た。
「ありがとう」
そう声を掛けられたが
ニキルは呆気に取られていた。
(何が…起きた…?)
もう死ぬのだと、本気で思っていたが
傷は一瞬で癒え、こうやって立っている。
脳内がパンクしそうだったが
真っ先に知りたいのは
この仮面の男が何者なのか
という事だった。
「あ…あの、助けて頂いて
ありがとうございました。」
ニキルは恐る恐る声に出した。
「君がジュリと一緒に居てくれたんだろ?」
ニキルはコクリと頷いた。
「セツナだ」
手を差し出す。
「俺はアカヌ族のニキル」
二人は握手を交わした。
「ここから離れた方が良い」
「でもどこに行けば?」
ニキルは不安そうな顔で答えた。
しかしいつの間にかニキルとジュリは
両脇に抱えられていた。
そしてフッと消えた。




