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永劫のセツナ  作者: ALOE
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名も無き者

道はますます険しくなっていた。

途中、断崖絶壁のような場所があり

子供を背負ってでは、とてもじゃないが登れない。


バエトは仕方なく迂回を余儀なくされた。

それよりも今自分が進んでいる方向が正しいのかも

分かっていなかったが、辛うじてそれとわかる小道を

ただ前に進むしかなかった。


蒸し暑さと、背中の少女の重み、それに空腹が

鉛のように足にまとわりついた。

1歩進むごとに、景色が霞む。


背中の少女は眠ったようだ。

体温を感じる。

だが彼女を降ろして確認しようとは思わない。

残酷な葛藤はずっと付きまとっていた。


いつしか何も考えず、ただ前に進んでいた。

どれほど歩いたか、前方の木々の間が明るい。


(開けた場所がある…)

バエトはぼんやりとその方向に進んだ。


そして木々の間を抜けた瞬間…


「おわっ!!」


前に出した右足が地面につかなかったのだ。

あわてて、飛び出た蔦に捕まった。


「危ねえ……」


そこは断崖絶壁だった。

そこで地面は不自然にすっぱりと終わっていた。

まるでバターが切り取られたように断面が滑らかだった。


断崖は湾のように綺麗に弧を描いていた。

下を見ると、波が打ちつけている。

異様に垂直で、下まで30メートルはあろうか。


バエトの勘は当たっていたのだ。

まさにこの前見た光の発生源に到達したのだ。

バエト本人は気が付いてないが。


「ここはどこなんだ?」


バエトはようやく少女を降ろし、荷物も置いた。


あくびをする少女に

「お前はどこから来たんだ?

ハイエルフ領か?」

と問うた。


少女はぽかんとするばかりだった。


バエトは鞄から水筒を取り出し

少女に与えた。


少女は奪うように水筒を取り上げた。

口に入りきらず、こぼれる。


「おい! 俺の分も残しといてくれよ!」


少女が水に夢中になっている間

バエトは辺りを見渡し

この辺りで一番高そうな木に登った。


頂上まで来ると完全とは言わないが

森を見渡す事が出来た。

すると、先の方で煙が上がっている場所があった。

(…村か何かか…)


バエトはとりあえず、その方向に進む事にした。


木から降り、着地しようとした瞬間

頭に何かが当たった。


「痛っ!?」


茂みがガサガサと揺れ、何かが姿を現した。


「こいつら…ゴブリンだ!」


小さい子供の様な身長で緑色の皮膚をしている。

2体のゴブリンは、棍棒を振り回しながら、向かって来た。


少女を横目で見ると、さらに2体のゴブリンに

足を引きずられている所だった。


こっちの2体のゴブリンはバエトを通り過ぎ

一目散に少女へと向かう。


「おい!!」

(狙いはそっちか!)


あわてて少女の腕をつかむ

力強く引っ張ると、ゴブリンは少女を離した。


バエトは少女を抱き上げ、大木の下に座らせると

少女を背にし、木剣を正眼に構えた。


棍棒を持ったゴブリンもピタリとその場所で止まった。


「来い!!」

バエトは叫んだ。


「ギャギャー!!」

1体のゴブリンがバエトに躍りかかった。


しかしバエトは落ち着いていた。

棍棒の一振りをかわし、よろめいたゴブリンの腕に

一撃を入れた。


今度は2体同時に躍りかかる。

転がってよけるバエト。


だがその隙に少女に向かうゴブリン。


バエトの木剣がゴブリンの背中に当たる。


しかし、バエトの背中に棍棒がヒットする。

棍棒がさらにもう一撃


「立って…いられ…ない」


倒れたバエトに追い打ちをかけるような追撃

滅多打ちだった。


やがて痛みも無くなり、景色がぼやけ、瞼が閉じようと

した時


「ギャ!」

「グァ!」」


というゴブリンの叫び声が聞こえた。

そして薄れゆく景色の中に静かに佇む黒い人影が見えた。

突っ伏したバエトからは顔は見えなかった。


そこでバエトの視界は暗転した。







「そこにいるんだろ?人間」


「……」

セツナは静かに地面に降り立った。


そこら中にゴブリンの細切れの体の部位が

転がっている。


「何故助けた?」

セツナは静かに問うた。


「…質問を返すようで悪いが…

なぜお前は助けない?」


「それは……」


「自分の立場に苦しんでいるのではないか?人間」


「そうかもしれない——

だけど‥‥

俺がやってはダメだ。」


「わからんでもない…が

このガキはしぶとい。」


「……」


「もう一人、お前を必要としているガキがいる。

少々面倒な事になってるが。」

そう言ってクロフォードは北西の方を指さした。


「……」


「ひとつ貸しだ。」


「なら…

質問に答えてくれ。

なぜこの子たちを助けた?」


「……

わからぬ……」

クロフォードは天を仰いだ。


「その子たちをどうするんだ?

答えによっては‥‥…」

セツナは右手を少し動かした。


「まあ 悪いようにはせんよ。

とにかく、早く行けよ。

俺の気が変わらんうちにな。」


「……」


「ああ それと、そこにはお前のお目当てが

あるぜ。」


「?」


「行けばわかる」


セツナはふわりと浮き上がった。

そして後ろ髪をひかれつつ、北西に向かった。


「ふう……それにしても

奴のあの気配……底知れぬ」

クロフォードは小さくなっていくセツナを見ながら

呟いた。





カチャカチャと食器の音がする。


「そうだ、それをこっちに運んでおくれ…」


聞いたことのない声。

だがどこか懐かしい。


バエトはうっすらと目をあけた。

片目しか開かない。


太い梁のある天井が見えた。


顔をゆっくり横に向ける。

しびれる様な激痛が背中に走った。


そこにはあの少女がいた。

頭、両手、両足…至る所に救急処置が施されていた。

彼女は食器を持って背伸びをしてテーブルに置いた。


「うん おりこうさんだね」

少し先にいる人物が言った。


(ダ・ダークエルフ!)


「痛ッ!!」

バエトは咄嗟に起き上がろうとして

激痛で声が出てしまった。


ダークエルフが近づいてくる。


「目を覚ましたかい。」


そのダークエルフは女性で高齢なのだとわかった。

盗みに入った時の女性を連想させた。


「何をするつもりだ…!」

掠れた声でバエトは叫んだ。


「何もしやしないよ。

興奮すると傷が開くよ。」


気が付くと、少女が枕元まで来て心配そうに

バエトを見つめていた。


「ほら、お前は休んどくんだよ。」

そう言ってハップ婆は掛け布団をバエトに掛けなおした。


バエトは自分の上に重たい鉛が乗っているように感じた。

何もかもが動かない。

そして、じきに意識は混濁し、眠りに落ちた。


そこには無表情でバエトを見つめるハップ婆が

立っていた。





バエトは鳥の声で目が覚めた。

今度は、片方の目は少し開くことができた。


ゆっくりと起き上がる。

あちこち痛みはあるが、我慢できる。


枕元の小さなテーブルにコップがあり

水が入っている。


バエトはそれを一気に飲み干した。

体の隅々に染みわたっていくようだった。


「目が覚めたかい」

部屋の暗がりから声が聞こえた。


そこにはダークエルフの老婆が佇んでいた。


バエトは身構える。


「そんなに身構えんでもええ

取って食いやしないよ。」


「ダークエルフは…

俺たち混種をゴミのように扱う」


「……」


「助けてくれたことは

ありがとう。

でも、ここには長居できない。」


「そんな体でどうするつもりだい?」


「あなたには関係ない」


その時、ハイエルフの少女がハップ婆の後ろから

ひょっこり現れた。

そして、駆け寄ってきて、バエトに抱きついた。


「その子、ずっと付きっきりだったよ」


「‥‥…」

バエトは少女の頭を撫でた。


「ただ……」


「?」


「言葉が出ないんだよ。よほど怖い目に遭ったのか

ショックが大きかったんだろうよ。」


少女はジュリと重なった。

バエトはギュッと抱きしめた。


「とにかく、あんたがもう少し回復しないと

行かせられないね。」


「……」

実際、バエトは手詰まりだった。

ジュリを探して勢いでここまで来たが…

出て行ったって行く当てなど無いのだ。


「お婆さん、ここに僕と同じ外見をした

幼い少女が来ませんでしたか?」


「私はハップっていう名前があるんだ。

ハップ婆とでも呼べばいい。

ああ、その少女かい…

少し前にここに来たよ。」

ハップ婆は目を細めて言った。


「なんだって!?本当に?」

バエトの心は地獄から天国に上るようだった。


「だが…出て行ったよ…」


「なんで止めないんだよ! ジュリはまだ

小さくって…‥」


「それにはちょっと訳があってね……」


ハップ婆は、ジュリがハイエルフのニキルと共にここを訪れた事、

ちょっと脅かしたら慌てて出て行ったことを話した。


「……なんて事…」


「まあ、そう遠くへ行っちゃいないよ

じきに会える。

それよりも朝ごはんだ。

起きれるんなら支度を手伝いな! あんた名前は…?」


「バエト…」

バエトは一気に地獄に叩き落された気分だった。


朝食のあと、バエトは木剣を持って外に出た。

何かせずにはいられなかったのだ。


(俺がもっと強ければ……!)


「? 皆子供…? しかも混種の?」


バエトは村のあちらこちらで佇む住人を見て

ドキリとした。


(なんなんだ…ここは…)


皆視線が合わない。

どこを見ているの見当がつかないのだ。


木剣を正眼に構える。

すっと身を引く、すかさず突き。

バエトはセツナに教わった少しの型を思い出していた。


ふと男の声が聞こえた。自分に向けられた声だ。

「顎をもう少し引け、足が開きすぎだ」


振り返ると、そこには帝国兵が居た。


「!? あんたは!」


クロフォードがそこに立っていた。




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